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『「疾風迅雷」、発動できます!』
愛七が叫ぶ。各術式の変数値入力が完了したのだ。
真也はそれを受けて『
「コード【
【
情報は精神から末那識を通して脳へ進み、脳はブレフォンによってつながる愛七と連携して変数値を末那識から精神へ送る。体の感覚器官を一切介さずに真也の中枢神経が魔術で体を制御することで、思考以外にかかる時間をカットしているのだ。
「コード【
続いて発動した【
「コード【
そして、【
ロゴスを得た
その場の四人が真也の接近を感知する前に、真也の魔法「疾風迅雷」が発動された。
情報視覚に切り替えることで加速した真也の思考スピードが、三人の敵である男を分析した。一人目は真也が追っていたフードとマスクの男だ。二人目と三人目は情報視野で捉えていた通り、見知らない男だった。全員、風邪予防の普通のマスクをしているが、二人目はニット帽を三人目はサングラスをかけている。
『全員拳銃を装備しています』
「(何処のどういう銃か判別可能か? )」
『全て種類が違いますし、あきらかに旧式です。兵器からでは彼らの身元、国籍を特定できないと思われます』
愛七の声に真也は頷く。彼女はこの一瞬で、真也の情報視野からもたらされる情報をもとに敵の銃をデータベースで照合し、特定していた。愛七にしてみれば、今の作業の難易度など魔術演算の比ではないのだろう。もちろん比べ物にならないほど簡単であるという意味だ。
「(まあいい。見た所、
『えぇ、先ほどの発砲音を減衰したのは心象性魔導によるものですね』
「(それじゃ、解除は無理だな。銃声が外に漏れれば救援が来ると思ったんだけど……)」
『
真也は愛七の言葉に納得した。確かに戦えない一般人にこられても守る対象が増えて厄介になるだけだ。誰だって自分以外の戦えない人間を守りながら戦うのは負担である。
そして、その場にはその三人を相手に戦っている人間がいた。黒いロングヘアにと整った顔立ち。付高の制服を身にまとい、その胸にはまだ、新入生に入学式で配られたリボンの花をつけている少女。
銃で武装した男たち三人を相手にとって、戦っていたのは友希だった。真也はそれに驚かない。情報視覚ですでに彼女の存在に気づいていたからだ。
相手がある程度の心象性魔導師だとしても日本の「柊」は圧倒的だった。
しかし、男たちは男たちで善戦している。軍式の格闘術と拳銃と、メカニズム不明の移動系の心象性魔導が上手く合っている上に、巧みな連携で友希の攻撃を封じている。
「まず、
『【
真也の指示に応じて、愛七が移動の速度、即ち速さ、方向の変数を【
真也は
あっという間に
真也に吹き飛ばされた男は後ろの木の幹に激突して意識を失った。
その一連の攻撃の全てが、ほんの一瞬の出来事で、まだ他の二人の男は真也がどこにいるのか把握することもできていない。
友希だけはかろうじて真也の動きを目で追っていた。その目が驚きの色をたたえているのを真也は顔を向けて、脳の中で視ながら、真也の体に対して友希と正反対の位置にいる二人目の男を、目を開かずに、顔も向けずに睨みつける。
「次は
『生け捕りでしょう!? 落ち着いてください!』
愛七は、戦闘の興奮によって物騒になっていく真也の思考を抑制するべく、驚き慌てた声を出してみせる。愛七は
普段から監視されている訳ではない。愛七が真也の、補助人工知能が魔術師の思考を監視するのは、その魔術師が魔術を使う時だけだ。これは魔術を使用する間、魔術師には通常の人権が適用されないことを意味している。
しかし、同時にこうすることで、魔術を魔術師の意思で自由に利用することが許されているのだ。例え、魔術師が補助人工知能に話しかけなくても、魔術を発動する時はほぼ必ず演算の補助のためにAIのサポートを受けるため、魔術師はこの監視を逃れて魔術を使うことは難しい。
直接、対象に触れて演算(第二段階)を省いたとしても情報形状出力機は使わないことはただ一つの例外を除いてありえない。情報形状出力機(入力機)を使う限り、人工知能による管理を逃れることはできないのだ。
これが、魔術という技術が普及しても、法のもとに魔術師を裁くことができている
「わかってる、よっと!」
真也は愛七の確認に応じながら
「愛七、次、
『入力しています!』
少しの罪悪感を振り払って真也は
『入力完了しました!』
愛七の声とともに真也は
男の持つ拳銃が真也の方を向いて五連続で火を噴く。銃弾は、拳銃から射出された瞬間に常人の視力では追えない速度になっていた。
なんらかの心象性魔導によって銃弾の速度が改変されたのだ。
しかし、真也の情報視野による反応速度と【
一応、【相関固定】で体の保護はしているが、精神性魔導の得体の知れない不気味さが、真也に回避を選択させる。
「あっ」
そこで驚きの声が真也の背後から聞こえる。
愛七に注意されたにもかかわらず、戦闘の興奮によって、
「ッ!? うああぁぁぁぁああああ!」
直後、真也の体の速度が上がり、
敵はその突撃を本能的な恐怖から魔導のバックアップを受けて左へ回避しようとする。真也の思考はそれを捉え、愛七の方向に関する情報入力が間に合わないことを悟る。
躱される、という考えが真也の頭を過ぎって、真也は咄嗟に左手を鎌のように持ち上げ、男の首を掴もうとした。
真也の意思に従って体を動かす【
「うあぁぁあぁぁぁぁああああああ!?」
真也が左腕を襲った激痛の悲鳴を上げる。【相関固定】を失った真也の左腕は真也自身の速さと敵の体の質量をまともに受けて肩口で千切れかけていた。切られたわけでもなく、ただ前方からの過度な力によってもぎ取られたのだ。
「止まれぇえぇぇ!」
『緊急停止のショックに備えて!』
真也は叫びに答えて愛七が急減速するように速度情報を入力する。真也の体は急激に減速し、停止した。
『【
「友希を、衝撃を与えずに受け止める! 五式匣・
真也は【
『疾風迅雷』を解いて地面に膝立ちになった真也の背後で、三人の男の体が発火する。三人の体は音を立て赤々と燃焼していった。
「愛七、壱から四式匣を
『真也様。真也様の情報視野から、対象空間の酸素濃度の変化は認められません。恐らくは、心象性魔導による非科学的な炎だと思われます。魔術での消火は難しいです』
真也は、激しく燃える炎を目で振り返って見て、消化を試みる。しかし、愛七はそれを止めた。
火は、敵の人体の外には燃え広がっていない。真也はすぐに興味を失って、友希の方へ視線を戻した。真也は自身の傷を治すことも忘れて友希の損傷を確認した。
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