第8話 突拍子もない発言

 どこで飲もうかと駅の周りをウロウロしていると、彼女がとある店を見つけた。



 「ここにしよう」



 そこはいかにも大衆酒場ですよ的なお店で、俺はこんな所でいいのかなと思ったが彼女がここがいいと言うのでここに決めた。



 「生2つ」



 彼女は席についてすぐ生ビールを2つ注文した。



 「生でよかったよね?」



 そう彼女に言われ頷く。



 とりあえずの注文を済ませてしばらくするとビールが届いた。



 「乾杯でもしようか、乾杯!」



 乾杯と小さな声で俺も続いて言うと、彼女はグビグビと勢い良くビールを飲み干した。



 「ぷっは!やっぱりビールは最高!」



そしてジョッキをテーブルに置いたと同時に彼女は生ビールのおかわりを注文した。



 「お酒結構飲むんだね」



 そう言うと彼女は、



 「まあね、普通くらいでしょ。君はあんまり飲まないの?」



 まあ俺は一回お酒でひどい目にあって以来あまり飲まなくなっていた。



 「最近はあんまり飲んでないよ。」



 「そうなんだ」



 こんな感じで、会話が全然続かない。



 注文した料理などが届きはじめ、黙々と沈黙して食べる時間が過ぎていく。

 なにか話さないと、そう思い口を開こうとしたとき、



 「今日のライブどうだった?他のは別にどうでもいいけど私のライブは最高だったでしょ?」



 この女すげー自信だな。まあ俺にとっては最高だったからこそこうやって一緒に飲みに行くことになったんだけど。



 「でも今日のライブが私の今の限界なんだけどね」



 寂しそうな顔でそう言うと、



 「私、みてわかると思うけど結構自信過剰なんだよね。それで今までバンドとか組んでもよくある音楽性の違いってやつですぐに解散しちゃうんだ。」



 彼女は今まで意見の違いや自分のこだわりの強さなどからバンドを組んではすぐに解散してきたらしい。だから今は打ち込みとかで一人でやっているのか。



 「それでどんなことをするにも自分で自分をセルフプロデュースしてきたの。でもそれももう限界を感じてるんだよね。」



 「自分の好きなことばかりやっているから、自分自身のことを客観的にも見れないの。だからお客さんが求めていることもわからないし。」



 まあ今日の演奏をみて俺自身も彼女と同じようなことを考えていた。



 彼女の演奏やパフォーマンスは俺も好きだし、こういうのが好きな人にとってはたまらなく好きなものだと思う。でもあの演奏ではメジャーでは通用しないし、どうしてもマイナーでアンダーグラウンドなものになってしまう。



 「私はみんなに認められたい。だけど、ただただ自分の好きなことをやっていてはみんなに認めてもらうことは出来ない。」



 それはそうだと、俺自身も思うがそれは仕方がないような気がする。人それぞれの感性や考え方の違い。だから多くの人に認めてもらうのは不可能だし、少しでも多くの人に擦り寄っていけば自分の良さがなくなってしまうかもしれない。今まで俺自身もたくさんの音楽を聴いてきたが、インディーズのときかっこよかったものがメジャーに行ってから曲調もガラリと変わって評価が下がってしまうバンドなんか少なくない。そう考えるとこの問題はすごく難しい。



 俺も自分なりに彼女のことを親身に考えていると、彼女は僕のその姿を見てニヤリと笑った。



 「君さー、私のことプロデュースしてくれない?てかもうしよう!」



 「えっ???」



 突拍子もないその言葉に俺は耳を疑い、驚いて飲んでいたビールを彼女の顔に吹きかけた。

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