第2話
『クロワッサンは三日月形を作るフランス発祥のパンであり、バターを多く含みサクサクとした食感と甘味が特徴である。我が星では2392年全大陸が一つにまとまった、このことをなんというか、渡辺』
『第二時大陸移動です。』
『その通り。ではその大陸移動の原因はなんだったか、時風』
え、えぇーーーー…
そんなの聞いてねえ…
『えぇと、クロワッサン?』
僕としてはむしろ笑いを取りに行ったつもりだったが、クラスメイト達はくすりとも笑わなかった。
『そうだ。スーパーコンピューターが大陸移動の原因はクロワッサンだと断定した。それをうけて国連から正式発表された万国共通の法律を「クロワッサン法」と言う。クロワッサンを神として崇め、毎朝敬意を払ってクロワッサンを食べることなど、全1921条ある。これによる社会情勢の大きな変化をなんという、山田』
『ク、クロワッサンショックです。』
『その通りだ。次のテストの範囲はクロワッサン法についてだ。よく覚えろよ。』
《はい。》
はぃ?
意味わかんねえし。
これ絶対スーパーコンピューターが壊れてるだろ。クロワッサンがなんで大陸移動させんだよ。
て言うかこんなに大きなことが起こったのに誰も宇宙船に伝達しなかったのな。
おかしいだろ。
ああそう言えば、定期的にくる食料が急にクロワッサンばっかになったことがあったっけ。飽きるからやめてくれと言ったら特例として認めてもらえた。そうかあれがそうだったのか。
『大陸移動があってから国々は一つにまとまった。公用語は日本語に統一された。』
…なんで!?普通英語とかじゃん。なんで日本語!?
『先生。どうして日本語に統一されたんですか?』
僕は手を挙げて質問した。するとクラスメイト達はげらげらと笑った。
『何言ってんだ時風。あ、そうか宇宙行ってたんだもんな。』
担任は笑いをこらえながら言った。
『戦争で日本が勝ったからに決まっているだろう。』
僕は絶句した。
しかしクラスメイト達は僕の背中を叩いて笑い続けている。
戦争?
戦争だぞ?何故こいつらは笑っていられる。
ましてや戦争で勝った日本は他の国に母国語を変えさせたと言うのに。
それは悲劇というのではないのか?
『ど、』
僕の声にクラスメイト達は静まった。
『どうして笑ってるんだ。戦争は絶対にしちゃいけないのに!なんで笑えるんだよ!!』
教室がしんと静まった。
担任教師はゆっくりと僕の机に寄り、言った。
『スーパーコンピューターが言ったからだ。戦争をしろと。』
恐ろしく冷たい声だった。
長い間があった。
『さあ話を戻すぞ。クロワッサン法施行は何年?』
《2412年》
教室は何事も無かったかのように賑やかになった。
◆◆◆
『時風』
…山田君だ。
『お前しくったな。休み時間とかお前、めっちゃ噂されてたじゃん。』
君には言われたくないがその通りだ。何も知らない僕は気づかないうちに踏み入ってはいけない聖域に入ってしまったようで、あの後誰も僕と目を合わせようとしなかった。
『まあ、ドンマイ。ぼっちでも楽しいぜ?』
いや…やめてくれ山田。慰められている気にならない。
『山田くんは?』
『やめろって君なんて。山田でいいよ。で、何が?』
山田はにかっと笑って頭を掻いた。
『僕と話してみんなになんか言われないの?』
『ああ、俺はもう空気だから。』
あ…お前もか……
『……ごめん。』
『いい、いい、気にしてねえよ。俺っていつもこう言う役回りだから。でもお前はよ、宇宙から生還したばっかの英雄なのに1日も持たねえなんてな。ほんとバカだなお前。』
返す言葉もねぇよ。でもお前には言われたくねぇよ。
『まあ、気をつけろよ。クラスの奴らはまだいいけどあの担任に目つけられると、やばいから。』
山田はわざとらしく周りを見渡して声を潜めて言った。
『ま、ぼっち同士これから宜しくな、時風』
山田は嬉しそうに僕の方を叩いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます