第16話 魔王城と…
魔王城の外の敵は殲滅し、いよいよ三人が魔王城の突入していった。
城の外の怪物よりもさらに大きく、さらに凶悪な怪物たちが三人の前に現れて……あっという間に哪吒子の刀の錆として消えていった。
ただ、さすがに魔王軍四天王が現れて、いろいろ前口上を言う時だけは動きを止めて聞いていた。
「我は魔王軍四天王の一人、獣戦士ウルバリン!!我が狼の……(中略)……我が爪の威力、思い知るがいい!!」
次の瞬間、狼の獣人型高位魔族は四肢と首が胴体から離れていた。
「セリフがウザい割には弱すぎるんだけど…。」
「待て!!この不死身の狼男の怪物である俺が、今からくっついて再生するから、ちょっと待て!!」
ばらばらになった狼人の魔物はそれでも手足が動いてくっつこうとしているんだけど…。
「…戻ってもどうせ、弱っちいんだろ?パス!」
もう一度哪吒子が双剣を凄まじい速さで振り回すと、原型が残らず完全にひき肉と化していた。
「わっはっはっは!我は魔王軍四天王の一人、夜の帝王ヴァラド!!ウルバリンなど四天王でも一番の若輩者!!この不死の真祖たる……。」
「吸血鬼はいろいろメンどいんで、パス!」
哪吒子が双剣で吸血鬼をひき肉に変えた後、炎を吹く槍を取り出し、灰に変えてしまった。
「わっはっはっは!我は魔王軍四天王の一人……」
「はい、次!!」
「我は魔王軍四天王筆頭…」
「はい、次!!」
ええと……魔王軍四天王が完全にモブ扱いなんだけど…。
そして、四人はあっという間にものものしい巨大な扉の前にたどり着いた。
扉の向こうから圧倒的な瘴気が漂ってきているようだ。
「へっへっへっへ!ちったあ、
哪吒子さん、それ、どう聞いても勇者のセリフじゃないよね?!
「ふっふっふっふ、モフモフ美女の姫を助けて、パフパフするんじゃ!!」
ええと、じいちゃん、これがゲームだってわかってる?
「よし、魔王を我々の手で倒すぞ!」
かなりげんなりしながらもエミリーが両開きの巨大な扉をバーーンと開け放つ。
「わっはっはっは!!勇者どもよく来た!待ちかねたぞ!!」
身長が5メートルを超える巨大なマッチョな大男、それも背中に巨大な翼を生やし、巨大な剣をもち、鎧を着こんだ『いかにもな』魔王がそこに立っていた。
「あああ!!勇者様方!助けにお越しいただいたのですね!!エミリーさま!ありがとうございます!!やはり、エミリー様は私を愛しておられたのですね!!」
…ええと…どうしてシャリーさんが囚われの姫なの?!
エミリーさんだけでなく、どうしてフールまでが愕然としているの?!!
「シャリー!お前、なにやってんだ!!」
「そんなにまで愛していただいていて、シャリー、幸せです!!」
「いや、今初めてお前が居るのに気付いたから!!どうやってここに入ったんだ?!」
「…それは…途中まで皆様の後を付いてきていまして。
私はプログラミングも得意なので、ゲーム開始時にこっそりとハッキングして姫と成り代わっておりました♪」
「くっくっく、とんだ茶番だな!!だが、俺のやることは勇者を殲滅するのみ!!」
魔王はさすがにプログラムなおかげか、そのまま剣を抜いてエミリーに斬りかかろうとする。
「この、くそ魔王!!エミリーたんに何するんじゃい!!」
シャリーは抜刀すると魔王に斬りつけ、そのまま両断してしまった。
「「「「………。」」」」
あたりに言いようのない沈黙が訪れる。今までも酷かったけど、これはあんまりだよね…。
「はーっはっはっは!勇者よ!これで終わったと思ったら大間違いだ!貴様らの倒した魔王はわしの部下に過ぎん!この世界の平穏を取り戻したかったら『大魔王城』へ来るがいい!!」
大魔王を名乗る相手の幻影が現れ、一方的に言いたいことを告げると再び消えた。
……ええと…プログラムに頼りすぎると、こういう情けない展開になるのだね…。魔王を倒したのが『さらわれた姫』であっても、セリグが変わらないと非常に間抜けだよね。
こうしてパーティが四人になり、今度は大魔王討伐の旅が開始された。
敵はさらに強力になり……強力になったはずなのに、哪吒子が強すぎて瞬殺を繰り返すため、傍目には全然敵が強くなったように見えないんだけど…。
大魔王城の前の敵の軍団も、ザップマンじいちゃんが一掃する展開もほぼ同じだった。
ただ、エミリーへのセクハラをシャリーが阻止したため、じいちゃんが回復しなかったので、その場にへたってしまった。
「ダメじゃ…。動けそうにない。エミリーたん限定でわしを背負ってもらえんか?」
「「ダメに決まってる!!」」
エミリーとシャリーの両方が叫ぶ。
「百歩譲って、シャリーたんに背負ってもらうので『妥協』するんで、よろしく頼めんじゃろうか?」
「ええええ!!私が??!!!」
シャリーが実に嫌そうに表現する。…うん、当たり前だよね…。
「しょうがないなあ、じゃあ、俺が担いでやるよ♪」
哪吒子がニコニコしながらじいちゃんに近づいていく。
「いや、待ってくれ!そのおっぱ…もとい、身長的に背負うのは無理だと思うんじゃ。」
じいちゃんが失言をごまかしつつ、後ろへ後ずさる。
「じいちゃん、安心しろ、俺は強いから♪」
哪吒子はそういうと、左手でじいちゃんをひょいと持ち上げると、お手玉をするような感じで持ち運び始めた。
「わーーー!!!目が回りそうなんじゃが!!もう三年後なら『ボン・キュ・ボン』になってくれそうじゃが、今は…もとい、本気で目がまわるーー!!!」
「はっはっは、ボケ防止にちょうどいいだろ♪」
そんな感じで四人は大魔王城に突入していった。
戦闘になるたびに哪吒子がじいちゃんを放り出しては敵を瞬殺していったので、何度か放り出された後、じいちゃんは根性で自力で歩くようになった。
「しくしく、もう少し年寄りをいたわってはくれんのかの…。」
「はっはっは、じいちゃん。自分でどんどん動いた方が老化の進行が遅いんだぜ♪」
「くうう…哪吒子ちゃんも数年後にはボン・キュ・ボンの絶世の美女になるはずなのに、今のこの残念ぶりはなに?!」
「なに、じいちゃん、褒めてくれてんの♪
確かに姉ちゃんは天界でも名高い美女だから、周りの
ややじいちゃんの扱いが雑なことを除けば、結構いいコンビかもしれないね。
「さあ、いよいよこの扉の向こうにラスボスがいるぜ!
今までの敵よりはずっと強そうだ。
残念ながらヤマタノキングヒドラよりは弱そうだけど♪」
哪吒子が扉の前で『一人でやる気満々』なんだけど…。
「しゃーー!!!大魔王覚悟!!!」
扉を斬妖剣でぶった切ると哪吒子が一人で突っこんでいった。
魔王よりさらに一回り大きく、さらに凶悪な風貌をした大魔王が抜刀すると、剣が強大な光を放った。
「ヤバい!!全員、シールドを張ってすぐ退避だ!!」
大魔王の様子を見た哪吒子が叫ぶのに対し、エミリーが瞬時にシャリー、じいちゃんと一緒に入るシールドを全力で張った。
直後、凄まじい閃光と爆音が響き、大魔王城は炎に包まれた。
「自爆ね。哪吒子にかなわないと思って大魔王は自爆したのだわ。」
明日香がつぶやくと同時に光が薄れていった。
そして、俺たちの隣には何事もなかったかのようにエミリー、じいちゃん、シャリーが座っており…え?哪吒子は?
哪吒子はフールの隣で禍々しく光る首輪を付けて座っていた。
「いやいや、皆様、大魔王を見事に退治していただきました。
お約束通り、この町以外の私の支配下地域の魔族たちは解放しました。
ただ、ゲームで死亡された、哪吒子さんにはこうして『隷属の首輪』を付けさせていただきました。
私が命じたり、哪吒子さんが私に敵対行動をとった場合、強烈な即死魔法が働きます。
この状況を解除してほしければ次のゲームで勝っていただく必要があります。」
フールがにやにや笑いながら俺たちを見ている。
「おい、何がゲームで死亡しただ!あの程度の爆発なら本来の俺なら楽勝で躱せるぜ!ゲームに仕掛けをして俺の分身が動かなくしただろ!!」
「はて?なんのことでしょうか?私の作るゲームは完璧ですから、そんなバグがあるなどとは考えられないのですが…。」
哪吒子が怒鳴るのをフールは涼しい顔でスルーしている。
「…まあ、次のゲームで明日香姉ちゃんが何とかしてくれればいいや。
それにこんなことでもなければ俺が囚われのお姫様役をやるとかありえないからな。
タツ!勇者として姫を無事救出してくれ!!」
哪吒子はすぐに切り替えて、俺たちに語りかける。
すぐに余裕を見せる哪吒子にフールは少し憮然とした表情をしたあと、またニヤニヤ笑いを始めた。
「いいでしょう。では、次なるゲームはこれです。」
フールが呪文を唱えると、俺たちの前に三台のサーキットゲームの運転席が現れた。
「今度は各チーム三台のレースゲームを行います。一位の人が六点、二位が五点、という感じで得点をゲットして、あなたたちが勝てばこの都市の人か、哪吒子さんを解放。
三点以上あなたたちが勝てば、両方解放します。
どなたが参加されますか?」
「私が参加しよう!!召喚されたあと、レースで戦ったことも何度もあるんだ。任せてくれたまえ!」
ライピョンさん!あなた一体どんな経験をしてこられているのでしょうか?
「はい!私とお兄ちゃんが参加します!二人ともレースゲームは得意です!」
明日香が声を上げ、俺と明日香の参加が決まった。
思ってもみなかったけど、まさか無敵と思っていた哪吒子ちゃんを救出する羽目になるとは思わなかった。
でも、明日香と二人…いや、ライピョンさんも含めて三人でがんばるぞ!!
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