第15話 ゲームは一筋縄ではいかないようです。
VRMMMORPGはヘルメットぽいものを被っているエミリー、哪吒子、じいちゃんにとっては完全にリアル世界と同様に見え、観客席にいる俺たちの視線からは眼前の巨大立体スクリーン上に三人とまわりの人(敵を含む)や風景が浮かび上がって見えるようになっている。
ゲームはまずエミリーの視点から始まった。
「エミリーや、起きなさい。今日は勇者として王様の御前に行く日だわ。」
ちゃんとエミリーのおかあさん?のようなキャラクターがそんなセリフを言っている。
いやいや!なんで、そんなところまで再現するの?!
エミリーは王宮まで行くと、『勇者エミリーよ!よく来てくれた。魔王ルシファーを倒すのだ!』
と言われて目を白黒させていた。
本人が魔王ですから…。
そして、王様から「ひのきのぼう」と「ぬののふく」と一〇〇ゴールドをもらって、旅に出た…はずが、いつの間にか漆黒の魔法剣士の姿という本人の本来の装備に変わっていた。
本人の能力を再現したものだからね。
そして、城下町の酒場に行くと、哪吒子とじいちゃんがカウンダ―に座って待っていた。
中華風の戦闘服の哪吒子とアロハスタイルのじいちゃんが周りから酷く浮いていたが、仕方ないよね…。
エミリーは二人と顔を合わせると哪吒子を仲間に入れた時点でとっとと旅に出ようとしてるんだけど?!
じいちゃんが慌てて、『わしを置いていかないで~!!』と叫びながらエミリーの腰にしがみついて、なんとか付いていこうとしている。…どさくさに紛れてお尻を触って、蹴飛ばされてるんだけど…。
そういうことをするから、置いて行かれそうになるのに、懲りないじいちゃんだ…。
それでも哪吒子がとりなしを……まったくする気がないよね。それどころか、とっとと行っちゃおうぜ!みたいに一人で先へ行こうとしているので、エミリーとじいちゃんが慌てて後を付いていっている…。
「哪吒子?!どっちへ向かうつもりなんだ?!!」
「んっふっふ♪俺の『強敵センサー』に従っていれば、必ず強敵にぶち当たるから♪
相手が魔王クラスなら、同じ星にいる限り桁違いの隠ぺい能力がない限り、必ず行きついて見せるぜ!」
慌てるエミリーに哪吒子は自信たっぷりに答えている。
うん、これは最悪チームがバラバラになっても哪吒子がいればゴールには行きつけるということだね。
まあ、明日香はもちろん、エミリーとアリーナ王女も探知魔法があるので、今の勇者パーティではその危険もほとんどないとは思うけど。
そして、いよいよ三人がフィールドに出ると……哪吒子ちゃん無双すぎです!!
VRMMMORPGなので、出てくる敵の数が◎◎クエストなんかの普通のRPGよりはずっと多いのだけれど、哪吒子が双剣を一閃するだけで、数十体の敵がミンチになるのだから!!
剣技のすさまじさもさることながら、自身の『風雪輪』という宝貝(超絶的魔道具)に乗って、高速移動ができるので、数百~数千体の敵が何もしないうちに消し飛んでいくのだ。
さらに遠方に膨大な数の敵が見えた時は真っ赤な輪の宝貝『乾坤圏』を巨大化させてさらに炎を纏わせて飛ばす場合もあり、近づく前に敵が灰燼と化したりしていた。
ゴブリンやオーク、オーガ、ミノタウロス、ドラゴン等々いろいろいたらしいが、敵の正体がはっきりしないうちにミンチになっていったので、半数以上のモンスターが何かわからなかったりした。
途中、『なんで、物理攻撃が効かないはずのゴーストをバッサリ斬り捨てているの?!!』とフールが悲鳴を上げたりしていたが、哪吒子は涼しい顔で『そういう刀だから♪』と笑っていた。
そんな具合に俺たちとフールを呆然とさせながら哪吒子が無双しつつ、いよいよ魔の森を抜け、魔王城が見える岩壁の上に三人が立つ。
「あれが魔王城か、ずい分悪趣味な城だな…。」
禍々しい外見に禍々しいオーラを出す巨大な城を見てエミリーがつぶやく。
エミリーの住む魔王城は明日香が『酔っぱらったエミリーを送った』際に見ているのだけれど、インドのタージマハルによく似た上品なお城だった…そうだ。
「エミリー、どうする?城ごとぶっ潰そうか?」
哪吒子が散歩でもするかのような軽い口調でエミリーを見上げて問いかける。
明日香もだけど、この人も『実行能力』があるのだね…。
「いや、王様が言っていたけど、『王国の姫がさらわれて魔王城に捉われている』はずだから、さすがにそれはまずいだろう。」
「そうだね。城ごと叩き潰したのでは楽ちんだけど、『戦い甲斐がない』から、それでいいよ♪」
二人のあまりのセリフにフールは完全に固まってしまっている。
うん、自分が魔王側だったら『運命を呪う』ようなとんでもない相手だよね…。
「おおっ?!さすがはラスボスの前哨戦か?!すごい数の敵が出てきたぞ♪」
どうやらエミリーたちを感知したのか、平原を埋め尽くさんばかりの凄まじい数の兵士や魔物たちが地上に現れ、空にはドラゴン、キマイラ、大鷲等の怪物たちが姿を現してきた。
「いやあ、戦い甲斐があるなあ♪」
哪吒子が腕を鳴らしながら突貫しようとするのをじいちゃんが制した。
「待つのじゃ!わしにもエミリーたんにいいところを見せる権利があるのじゃ!!」
言うに事欠いて、そのセリフ?!!
「ザップマンチェーーンジ!!!」
謎の変身ポーズを取ると、じいちゃんは光に包まれて、その光がどんどん大きくなり、岩壁の下に銀色の巨人が現れた。
…前回と変身の方法が違うんだけど…。
「夜空の星が輝く陰で、ワルの笑いがこだまする !
ファンタジー世界に泣く人の、涙背負って異世界の始末 !
ザップマンじいちゃん、お呼びとあらば即・参上!!」
ザップマンてそんなセリフを言うキャラだったんですか?!!
「行くぞ、ザップマンビーム乱れ撃ち!!!!」
空に陸に向かって、じいちゃんのビームが乱舞する。
なにしろ、海の大怪獣ゴメラを一撃で吹き飛ばすような強烈極まりない光線なので、ドラゴンその他の『普通の?モンスター』達なんぞ、当然瞬殺だった。
「ひげスラッガー!!」
じいちゃんのひげがいくつにも分かれて、ドラゴンや飛行モンスターに向かって飛んで行ったんだけど?!!
そして、あっという間に空のモンスターたちを一掃してたくさんのひげがじいちゃんの元に戻ってきてるよ?!!
じいちゃん!次からはそれやめて!!俺も明日香も間違いなく『夢に見そう』なんだけど?!!
それから、某番組の『カッコいい戦闘シーン』を見るたびに『思い出しそう』だし…。
ライピョンさんを除く味方も呆然として見ていたけど、フールなんか、完全に顎が外れて呆然としているよ?!!
「そして今度は全方向ザップマンフラッシュ!!!」
調子に乗ったじいちゃんはさらに派手なポーズを取って、さらにあちこちにビームを放っていく。
「はっはっはっは、無敵無敵無敵!!!!!ああああ?!!!」
なんと、調子に乗ったじいちゃんのビームが魔王城に直撃してるんだけど?!!
爆発が終わった後、魔王城が半壊してるし?!!
「ヤバい!!!どうしよう?!!」
エミリーが焦っている。うん、捉われていた王女様が死んでしまったらゲームオーバーだったりしたらヤバいよね…。
「大丈夫!気配からして魔王は無事のようだ!
姫はよくわかんないけど、最悪の場合は『魔王に殺されてました』で済ましちゃえばいいさ♪所詮、ゲームだし♪」
哪吒子は哪吒子でとんでもないことを言っているんだけど?!!
「いやあ、勢いが余っちゃって♪わしの『ビーム力』もまだまだ衰えてないようじゃ♪」
じいちゃん!!なにてへぺろみたいな感じで開き直っているの?!!
「そうだ!!まずは姫の無事を確認しよう!!」
エミリーが王様からあずかったという宝珠を取り出す。確か、姫が生きていれば姫のいる方向に光を放つという機能があったとか…。
「やった!!姫は無事のようだ!よし、この調子で魔王城へ乗り込むぞ!」
エミリーがほっと溜息をつくと同時にじいちゃんの変身が解ける。
「ぜーはーぜーはー…。ここまでビームで無双するのは本当に久しぶりじゃ…。
さすがのわしもしばらく動けそうもない…。」
へたり込むじいちゃんにエミリーと哪吒子が近づいていく。
「すまん、エミリー!わしが足手まといにならんように、思う存分『モフモフで回復』させてくれ!!!」
心配そうに近寄っていったエミリーの胸にじいちゃんが素早く飛び込んでいったよ?!!!
当然のごとく、あっという間にじいちゃんは足蹴にされるけど、じいちゃんは心底嬉しそうな顔をしている。
「ほっほっほ、ここまでふかふかのモフモフをさせてもらうのは本当に久しぶりじゃ♪もう変身する気力がわいて来たぞ♪」
ええと、じいちゃん…。エミリーにいいところを見せるとか言ってたけど、どう見てもエミリーの好感度はさらに大きく下がっているんだけど?!
「さあ、いよいよ、魔王城に乗り込んで…『殲滅』だね♪」
哪吒子がにやりと笑って腕を回している。
ええと…極限までレベル上げした後、魔王城に向かうとか、ゲームではよくやったけど、実際にやるとこんな感じなのだね…。
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