第9話 敵の全貌と最後の勇者
明日香と哪吒子が戻ってきた後、俺たちは一旦領都に戻ることにした。六魔将で公爵のライガーが死んでしまったため、ライガーの領地をとりあえず魔王直轄地にする必要が出てきたのだ。
今度は敵を引き付ける必要がないので、哪吒子以外は明日香の召喚した巨大な鷲の形の精霊に乗って、領都までひとっ飛びで戻った。
哪吒子は俺たちの周りを曲芸飛行しながら嬉しそうに飛び回っている。
アリーナ王女は乗って一分としないうちに気絶されたので、ライピョンさんがお姫様抱っこしており、その様子をエミリーさんがうらやましそうに見ている。
エミリーさんはご自身の経験のせいか、かなり強く恋愛にあこがれておられるようだ。
俺も明日香くらいスレンダーな相手なら、お姫様抱っこを……いやいや、俺、何考えてんだ?!
「魔王様、お待ちしておりました。」
黒ずくめの魔導師数名と、同じく黒ずくめの黒い全身鎧を着た数名の騎士の前にマントを羽織った長身の金髪の女性がエミリーに頭を下げる。
全員ただものではないオーラを纏わせているが、先頭のその冷たい容貌の美女は俺たちを値踏みするように見ている。
「おお、シャリーか。ご苦労。城の状況はどうなっている?」
「幸いなことに犠牲になったのは全てライガー旗下の軍人で、行政に携わる官僚たちや市民はそのまま活用できます。
新たな公爵を任命するか、代わりが見つかるまではとりあえず私が公爵の代理を務めさせていただくことになります。」
「わかった。彼らが今回の協力者たちだ。全員信頼して大丈夫だ。」
エミリーさんが俺たちのことを説明すると、シャリーという女性の表情が和らぐ。二人のやり取りを見る限り、エミリーはシャリーのことを非常に信頼しているようだ。
「それでは、今の状況の整理とこれからのことを話し合いたいと思います。」
俺たち六人の勇者とシャリーも加えて会議室で討議が始まった。
議長は明日香が努めている。
「今回、六魔将のライガーとガイストをそそのかした黒幕は別の世界から侵攻してきた『暗黒魔神・ニビル』という存在のようです。五年前にこの世界に侵攻してきた魔神とはなんと兄弟神のようです。」
明日香がさらっととんでもないことを言いだし、全員がざわつく。
「明日香殿!!その情報をどうやって入手されたのです?!」
エミリーが血相を変えて叫ぶ。
「ええ、先ほど暴れてくれた無貌のノワールさんから『いろいろとお話』を伺ったの♪」
明日香が涼しい顔で答えると、みんな言葉を失った。
どんなふうに『いろいろとお話』したのか絶対に聞きたくないよね?!
「さらにノワールさんからの情報では、ノワール以外の六柱と暗黒魔神ニビルは六魔将のガイストの領地にやってきていろいろと工作しているみたい。
領都はもちろんのこと、ガイスト領全体が普通の人が住める真っ当な場所ではなくなっているみたいね。」
無謀のノワールも相当な化け物だったけれど、あれと同格の怪物と、さらに魔神自体が来ているとなると相当えらいことになりそうだ。明日香の話を聞いて、全員の顔が非常に厳しくなった。
「それと、おそらくだけど魔神は配下の六柱を使い捨ての駒…くらいにしか見ていないようね。魔神自体が七柱を全部あわせたよりも強い…くらいの感じでもあるし。」
明日香の話に哪吒子以外は全員さらに厳しい顔になり、いろいろ考え込んでいる。
哪吒子は…実にウキウキしたうれしそうな表情になっている。
これは頼もしいのか、『もっと恐ろしい』のか判断に悩むところだね。
「その状況だと、魔神とその配下を倒すのを急ぐ必要がありそうだね。」
エミリーが非常に厳しい顔をしている。確かに旧六魔将の領土が丸ごと魔神の勢力下になったと思しき現状では、ガイスト領がどれだけおかしな場所になってしまったか、そして、住民たちがどうなってしまったのかも大きな懸念材料だ。
また、そこを拠点に各地に侵攻してこられてはまずいよね。
「あら、エミリーもやっぱりそう思う?ガイスト領の領都の地下には古代遺跡が埋まっているのだけれど、魔神とその手下なら、そこの『超技術』を活用できるかもしれない…いえ、それが目的でガイストとコンタクトを取った…そう思っているのよね?」
「ああ、明日香。よくそこまで限られた情報で推測できたな。
では、タツ。すまないが最後の勇者も召喚してくれないか?
戦力の強化と最後の勇者とも早めの情報共有もしておきたいし。」
エミリーの話を受けて、俺は最後の勇者を呼びだすことに同意した。
「あのう…どうしてわざわざ城門の外に出るのです?」
我々に付いてきたシャリーさんが不思議そうに尋ねる。
シャリーさんは本国では魔王の副官的な役割を果たしておられるのだとか。エミリーさんがグラマー系で、シャリーさんがスレンダー系の美女で雰囲気がよく似ていると思ったら父方の従妹に当たるのだそうだ。
「最後の勇者は『巨大勇者』という名前なので、城内や街の中で呼んだらどうなるかわからないと思って。」
そう言いながら俺は残りの召喚ポイントを確認する。
「お兄ちゃん。今度はレベルが五五から六二だから、そこそこ上がっているね。
召喚ポイントも三二〇〇ポイントで、『巨大勇者』の召喚ポイント三〇〇〇ポイントを上回っているね。」
明日香も俺のステータスを確認してくれる。
俺は心の中でゴーレム風のキャラをイメージし、『召喚』と念じる。
以前同様俺たちの前に いつものように俺の前に光が現れ、消えた時にはアロハのTシャツを着て、丸いコミカルなサングラスをかけた痩せた老人が現れた。頭頂部が禿げ上がり、後頭部には真っ白になった髪の毛が少し残っているくらいだ。
「「「「「「「………。」」」」」」」
ほけーとした雰囲気で『凡人オーラ』しか感じられないその老人を見て、俺たち全員が絶句する。
老人はしばし、周りをきょろきょろしていたが、やがて、俺を見て言った。
「おおおおおっ!!!やけに別嬪さんが多いのう♪
それから、わしを召喚してくれたのはお前さんじゃの。
お前さんの愛と勇気をしかと感じたぞ!
わしのことはそうじゃのう…
おじいちゃん!一体何を言っているの?!!
おじいさんの数々の謎発言にみんなが固まってしまっている中、明日香の声が耳元に小さく聞こえてきた。『鑑定を使ってみて』…なるほど、では、早速
レベル 13(昔は強かったみたい)
HP 普通の老人よりはずっとありまっせ!
MP かなりありそうだけど、魔法は使えません。
攻撃力: じじいだとあなどってはなりませんぞ!
防御力: まだまだ若いもんには負けやせんぞ!
素早さ: 女性のお尻を触っておいて逃げる速さは天下一品♪
知力 : 記憶力は落ちたものの、回転は速く、悪知恵が働きますぜ♪
精神力: 少々くたびれても若い女性を見ると復活するんじゃ!
武術: 昔は強かったんじゃがのう…。
【称号】 召喚勇者 巨大?勇者 昔は大活躍
【特記事項】
どうして『巨大?勇者』と呼ばれるのかじゃと?ふっふっふ、実はのう…。
俺はあまりの鑑定結果に固まってしまった。突っこみどころしかない…というか、完全にバグっているよね?!!
名前がどうして(仮)なの?人間(?)もおかしいし、なんで二万歳を超えているの?!
能力も『記述が全部変』だし、特記事項…意味がわかんないんだけど?!!
俺の様子がおかしいので、アリーナ王女と明日香が俺の鑑定結果を確認し、二人とも完全に凍り付いてしまう。
「なんで、みんなそんな不思議な反応を示しておるんじゃ?」
団さん?が俺たちに近づいてくるので、『スタータス画面』を団さんに見せる。
「おおっ?!これはすごいのう!!最近は便利なんじゃのう。他の人のステータスも正確に確認できるんじゃなあ。全部正確じゃ!!」
団さんが嬉しそうに笑っている。
嘘ですよね?!!嘘だと言ってください!!
「そうそう、どうしてわしが『巨大勇者』と言われるかなんじゃが、わしの若いころからずいぶん『立派』でな、ばあさんを何度もひいひい言わせたもんじゃ。
最近も若い女性をひいひい言わせたら、なんと先日ばあさんに離婚届を突きつけられての。まさかこの齢で独身に戻るとは思わなんだわ。はっはっは!」
なに、このファンキーなおじいさん!!巨大の意味が違うよね?!どう見ても『別の意味で勇者』だよね?!
「…明日香…俺の鑑定がバグっているみたいなんだけど、なんとか修正することはできないかい?」
こっそり明日香にすり寄って囁くと明日香が首を振る。
「…バグってないの…。信じられないかもしれないけど、その鑑定結果は全て本当だわ。私も念のために鑑定を使ったけれど、同じ結果が出てきたの…。」
俺と明日香は団さんを絶望的な表情で見つめる。
この『苦境』をどうしようかと思っていると、不意に明日香、そして哪吒子の表情が厳しくなる。
さらにエミリー、ライピョンさんも真剣な顔に変わる…どうやら敵の接近に気付いたようだ。
みんなが見る方向から多数の大きな影が接近してくる。
空にもたくさんの影が見える。地上と空の両方から襲ってくるらしい。
……気のせいか、木々の大きさと比較してやたら大きく見えるんだけど、
明日香が立ち上げたナビの画面を見て、エミリーが叫ぶ。
「何てことだ?!ドラゴンよりずっとヤバイ怪物がものすごい数でやってきている!!
海の大怪獣ゴメラと空の大怪獣ノドンだ!!」
えええ??!!!エミリー何を言っているの?!!
画面を見ながら明日香も渋い顔をしている。
「海の大怪獣ゴメラ:身長五七メートル 体重五五〇〇トン
ドラゴンすら一撃で焦がすという炎を口から吐き、魔法耐性・物理耐性も桁違い。
空の大怪獣ノドン:身長五五メートル 翼長一三〇メートル 体重 一五〇〇トン
超音速で飛行し、口から超音波を発しベヒモスをも一撃で倒す。魔法耐性・物理耐性も高い。
こいつらがともに二〇〇匹以上いるわね。。」
ええええ??!!ファンタジーだったはずが一気に怪獣映画ですか?!
それから、数が多すぎでしょ?!!
「うん、時間はかかるけど、俺らだけならなんとか無事で行けそうだよな…。とは言え、領都を狙われたら相当被害が出る…というか、下手すれば廃墟になるよな…。」
哪吒子も怪獣たちが近づくのを見て渋い顔をしている。
「おーほっほっほっほ!!!」
その時、俺たちの方に男の声が響いてきた。風の遠隔魔法で声を飛ばしたようだ。
「勇者たちは想像以上に強いようだけど、でも、私が来たからにはこれでお・し・ま・い!!」
お姉言葉の男は一際大きなノドンの一匹の上に乗っているようだ。
「わたくしは魔神ニビル旗下七柱の一柱怪獣王マーリンよ!
漆黒のノワールを倒したようだけれども、やつは七柱の中では一番の若輩者よ。
そんなザコと私たちを同じように考えてほしくないわね。
あなたたちを私の子供たちと共に殲滅してあげるわ!!!」
無謀のノワール同様、漆黒のムキムキの大男がノドンの上に立ってポージングをしている。
スキンヘッドでビキニパンツのみを履いているその姿は…明らかに変態さんだ…。
「では早速…。」
「待たれい!」
早速飛び出そうとする哪吒子を制するように団じいちゃんが声を上げた。
「せっかく召喚してもらったんじゃ。わしの活躍も少しは見てもらわんとな♪」
団じいちゃんはちらと怪獣たちを見やり、サムズアップするとにやりと笑った。
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