第2話 パノラマホーンの形

 名古屋駅を出てしばらくするとパノラマカーは川に架けられたトラス橋を渡った。その先に三本の線路に囲まれた小さな三角形の敷地に一軒の家が建っていた。すごい場所に家が建ってるな。

  パノラマカーはいくつかの駅を止まらずに通過していき、所々でホーンを鳴らす。先頭の座席でかぶりついて見ている子供がホーンの音色に合わせて歌っている。

「パノラマカーは初めてですか?」

 母親が声をかけてきた。「そうです」と答えると母親が自慢げに話を始めた。

「このパノラマホーンって、オルガンの黒鍵三つだけで演奏できるんですよ」

 見た目の年の割に可愛らしい笑顔で説明してくれる。

 いつもならこういう場面では「はぁ」としか答えない自分だが、なぜだかこの女性とは会話を繋げたいと思っていた。それは、実らずに終わった初恋のせいなのかもしれないし、この女性が自分の運命の人なのかもしれない。

 一人はしゃぐ子供をよそに、母親との会話は続いた。

 夫に先立たれたこと、遺産は借金を返済したらほとんど無くなったこと、女手一つで子供を育てるのは大変なので名古屋を離れて実家の世話になるつもりだということ、荷物はもう引き払ってあとは実家へ行くだけだということ。

 名古屋を離れる前に子供が好きなパノラマカーに乗ったこと。

 停車駅が近づき、ホーンが鳴った。

 三つの音が一つの演奏となるのを、車両にいた三人が聴いていた。

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