五ノ罪 《憂鬱な青年の過去》

 五①


 俺が育ったのは、王都から遥か北にある小さな小さな村。

 人口は十人程度しかおらず、一日もあれば全ての顔と名前を覚えられる。

 木造の家の一軒一軒に小さな畑があり、各自そこで自給自足をしている。


 宿はなく、村自体にこれといった役目もなく、悪く言えば何故あるのか分からないような村であった。


 そんな、なんの特徴もない村で、俺、ブラーズは育った。


 背が高く体格の良い強面な、しかしとても優しくて村人から人気のある父親、背は低く病弱だと思ってしまうほど白い肌、歳をとったその頃でも幼さを残したその容貌で俺や父親を叱り、最後は頭を撫でて微笑んでくれる母親。兄弟は終ぞ居なかったが、私は不満も無く過ごしていた。


 同年代の子は村におらず、両親も多忙とは言い難いが、家を開けることが多かった。

 幼い頃から父親の剣に憧れていた俺が最初に剣を持ったのは、丁度4歳の誕生日の時だった。それからと言うもの彼は、何も無い平和な、しかし退屈な日々を潰すかのように剣を振っていた。形も適当、格好も付かなく、ただ振っているだけなのだが。


 村で一番の剣士だった父親を負かしたい、そんな大層な夢を抱いていた為、父親に技を教えて貰おうなどおは思わない。そんな事を幼いながらも思っていた俺は、独学で剣を学んだ。


 俺が八歳になる頃には剣の腕も見違える程に上達していた。

 そんなある日の早朝、俺が家の外で剣を振っていると村に来訪者が来るのが見えた。その少女は親らしき姿に両手を引かれてやってきた。


 淡い桃色の髪は同じく桃色の髪留めで左右で結ばれ、少女が一歩を踏み出す毎に小さく揺れる。その髪と、少女の淡い桃色の双眸はこの村ではよく目立った。


 少女が村に入ると、両親らしき姿はその子の手を離し、踵を返して村を去っていく。俺は直ぐ少女に駆け寄り、声を掛けた。



「村に何のようだ?」



 そう聞いた理由は、この村が本来、余所者を受け入れない村だからだ。

 人数が増えると色々と困る、と村人達は言っていた。

 本来なら俺もその考えに則り、この少女を追い返すべきなのだろう。しかし少女の一言に、その考えは霧散してしまう。



「私、すてられちゃったみたい。私、ここで死んでもいいかな?」



 その少女は、言葉とは裏腹に微笑みを浮かべ、そう言い放った。




 俺はそんな少女の笑顔を、生涯忘れる事は無いだろう...。


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