四ノ罪 《身に宿した枷》

 四


 人に近付けない。

 近付きたくない、ではなく、近付けない、確かに彼女はそう言った。

 ブラーズとベルの会話を黙って聞いていたルシフが、私の顔を覗いて声を掛けてくる。



「...ブラーズ...。」


「あぁ...、間違いない。」



 ブラーズ達から距離を取っていたのはそれが理由なのだろう。近付くとどうなるのか、それも聞いてみた。



「私が近付くと、皆動かなくなっちゃうの...。」


「動かない...どんな風にか分かるか?」


「そのまま...。人だけじゃなくて、鳥さんやお花も、全部動かなくなっちゃうの...。離れたら、ちゃんと動くのに...。」


「ふむ...。いや、悪い事を聞いたな。すまない。」


「いえ...。」


「ん。取り敢えず寝ておけ。俺達はこれから王都に行くが、お前は此処で待っていてくれ。必ず、お前の友人を連れて帰る。」



 いざとなったときに彼女のその体質が仇となりかねない。

 ベルは少し迷ったようだが、首を縦に振ってくれた。


 ルシフの部屋に泊まって貰うよう伝える。ルシフは椅子から立ち上がると先導してベルを案内し、二人とも部屋を出た。


 少ししてルシフが部屋に戻ってくると、先程座っていた椅子に再び腰掛け、足を組んだ。



「...ブラーズ。」


「あぁ。」



 二人の間では、このやりとりのみで通じてしまった。



 ベルは、呪いに掛かっている。





 ※※※※※※




 呪い。


 ある日突然、何の前触れもなくそれは降り掛かった厄災。そしてそれを身に宿した者は永遠にそれと付き合っていなければなない。

 そしてそれを身に宿しているのは、ベルだけではない。


 ブラーズも、そしてルシフも、同じく呪いを身に宿した存在だ。

 その事に関しても、またいつか話そう。


 そしてブラーズ達の旅の目的の内の一つ、彼女のような存在、『呪いを身に宿した人の捜索』である。



「教えるべきか?」


「いや、今は刺激させたくない。友人を助けてそれからでも遅くはないだろ。」


「む、それもそうか...。」


「...さて、俺達も準備をしないと。」



 モンテ村から王都までの道のりはそれなりに長く、危険な所は無いが日の出ていない内に立たなければ明日の昼には間に合わない。

 話も適度に済ませた所で二人は荷物を纏め、村を後にした。








 これは、特殊な力『異能』と、

 不運にも身に宿した『呪い』を持つ一人の男と、一人の女の物語である。


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