第82話 大団円では終わらせない

 ユーキとカオスの戦いを見ていた誰もが、まもなく戦いが終わる事を予感していた。


「俺が……お前を恐れているだと⁉︎ このカオス様が戦いを恐れているだとぉ⁉︎」


 怒りの表情で歯ぎしりするカオス。


「そんな訳あるかああ‼︎ ならば正真正銘、俺の全力をぶつけてやる‼︎ 見事受け止めてみせろ! ユーキぃ‼︎」

「うん、分かった」


 カオスとは対照的に、優しい表情で応えるユーキ。


「はあああああああ‼︎」


 己の持つ全ての魔力を込めて、最後の詠唱に入るカオス。



『神のしもべたる人よ』



「詠唱⁉︎」

「アイリス姉様との戦いでも見せた、カオスの奥義ニャ!」



『神より与えられし無垢な魂』



「さっきアイリスさんはカオスに力負けしてましたけど、ユーキさんなら大丈夫ですよね?」

「そう思いたいけど、カオスはこの一撃に全魔力を注ぎ込むつもりニャ!」



『欲、欺瞞、妬み、憎しみ』



 しかし、詠唱を進めるカオスに対し、ユーキは何もせずただ見つめているだけだった。



『この世のあらゆる誘惑に身を委ね』



「ユーキ姉様、動かないよ⁉︎」

「お腹が空いて動けないんでしょうかぁ?」

「そんな訳ないでしょ! 何やってるのよユーキ⁉︎」



『枷より解き放たれし、自由なる魂よ』



「もうじきカオスの詠唱が終わるニャ! 今から詠唱しても、もう間に合わないニャ!」

「ユーキ‼︎」



『その魂を黒く染め上げ、地獄へ堕ちろ』



 結局ピクリとも動かなかったユーキ目がけ、カオスの極大闇魔法が放たれる。



『ヘルヘイム‼︎』



 今までとは比べ物にならない闇魔力がユーキに襲いかか

る。


「これでどうだああ‼︎」


 吠えるカオス。

 だが、未だに動かないユーキ。


「ユーキ‼︎」

「ユーキさん‼︎」

「ユウちゃん‼︎」

「ユーキ姉様‼︎」



「リインカーネーション‼︎」



 カオスの極大闇魔法が当たる寸前、突如として対になる極大光魔法を無詠唱で放つユーキ。


「無詠唱だとっ⁉︎」


 ユーキより放たれた光はカオスの闇を一瞬にして飲み込み、その勢いのままカオスをも飲み込んでしまう。


「何だとっ⁉︎ ぐわああああああああ‼︎」


 極大光魔法の直撃を受けたカオスが、地上に落下して行く。


「やった‼︎ ユーキさんが勝ちましたよ‼︎」

「まさか、あそこまで魔力を高めたカオスの一撃を、無詠唱で放った極大魔法でアッサリ跳ね返すニャんて……今のユーキの強さはシャレにならないニャ」


「これで益々シャル様の弱さがシャレにならなくなりましたね」

「フィー⁉︎ 誰の弱さがシャレにならないって⁉︎」

「いいえ、夜遊びが金にならないって言ったんです」

「遊んでるからニャ‼︎」


「無詠唱だと手抜きしたみたいですねぇ」

「いや、そういう演出だろう!」


「無血開城なの〜」

「完全無欠なのよ!」


「何だっていいじゃないの‼︎ とにかくユーキが勝ったんだから、この戦争はあたし達の勝ちよ‼︎」


 カオスの後を追ってスウッと地上に降り立つユーキ。

 そこへ駆けつけるパティ達。


「やったわね! ユーキ!」


 ユーキに駆け寄ろうとするパティを、手を出して無言で制止するユーキ。


「ユーキ?」

「まだ、終わってない」

「え⁉︎」


 ユーキの言葉通り、フラつきながらも立ち上がるカオス。


「ハアッハアッ! お、俺の……全魔力を込めた渾身の一撃を……ハアッ、いとも簡単に跳ね返しやがって……ハアッハアッ、お前が居なくなってから……俺なりに頑張って強くなった、つもりだったんだけどな、ハアッ……てめぇ、何で更に強くなってんだよ⁉︎」


「言ったでしょ? 今の僕は女神イースとマナ王女の力と、あとおっさんの記憶を持ってるんだから!」

「いや、おっさんは関係無ぇだろ!」

「何言ってんだよ⁉︎ 向こうの世界でおっさんだった頃の経験や記憶だって、色々役に立ったんだからね⁉︎」


「フッ、そうか……ハアッ、シャルの奴は何度か行ってたみたいだが、俺も1度行ってみたいもんだな……」

「いいね! 今度みんなで行こうよ! 魔法は使えないけど、こっちの世界には無い物がいっぱいあって楽しいよ⁉︎」


「そう、だな……だがそれはできない……」

「え⁉︎ 何でさ⁉︎」

「俺は、お前が向こうの世界に行っている間に、多くの人間を殺した。そんな俺がお前達と共にある事は許されない」

「ん〜、でもカオスと僕の力を使えば、死んだ人全員復活させられるよね?」

「え⁉︎」


 それを聞いていたネムが反応する。


「本当ニャ。アビスは死を司る神。イース姉様は命を司る神。あの2人が居れば、例え遺体が残っていなくても、死んだ者を生き返らせる事が出来るニャ」

「じ、じゃあ、父様や母様に……シェーレのみんなにまた会える、の?」

「良かったのです、ネム! それならシェーレの復興も夢じゃ無いのです!」

「うん! うん!」


 大粒の涙を流しながら喜ぶネムとロロ。

 そしてベール達。


「勿論俺が、俺達パラスが殺してしまった人々は全員生き返らせる。元よりそのつもりだったしな」

「だったら!」

「だが! 失った時までは戻せない! 今生き返らせたとしても、殺してしまった事も、それによって掛け替えのない日々を奪ってしまった事も事実だ。その償いはしなければならない……全員を生き返らせた後、お前が俺にトドメをさせてくれ」


「ええ〜っ⁉︎ ヤダよ! 僕にそんな事出来るわけ無いでしょ⁉︎」

「お前が出来ないと言うなら、シャルの奴でも、何ならゼスのじいさんでもいい。誰かに頼んで俺を消滅させてもらう。それが俺の償いだ……」


 そんなカオスの覚悟を聞いたユーキは、怒りと哀しみの入り混じった複雑な表情になり、その想いをカオスにぶつける。


「バカ‼︎ 死んで償う? 何だよそれ! それこそ命をバカにしてるよ!」

「何……だと?」

「確かに君は悪い事をした……だけど大勢の人を殺しておいて、たくさんの幸せな時間を奪っておいて、それを君ひとりの命だけで償えると思うな‼︎」

「だが……ならどうすればいいってんだよ⁉︎」


「大勢の人の命を奪ったのなら、その分……いや、その何倍もの人を助けろ! 大切な時間を奪ったのなら、精一杯君の時間を使ってその人達の為になる事をしろ! 君にはそれが出来るだけの力も時間もあるでしょ? それが本当の償いだよ! それをせずにただ死ぬなんてのは逃げだよ! そんな甘えは、僕は許さないからねっ‼︎」


 ユーキの熱い言葉を聞いて、とても優しい表情に変わるカオス。


「フッ……ユーキ、お前はイースよりも厳しく、そして優しいな……分かったよ! これからはお前達と共に、俺の全能力をこの世界の人々の為に使うと誓おう!」

「うん! これからもよろしくね、カオス!」


 そんなユーキとカオスのやり取りを見ていたパティ達も、感動に包まれていた。


「ユーキ、さすがはあたしの妹兼嫁だわ」

「さすがです、ユーキさん!」

「ふむ……それでこそ、この世界の王にふさわしい」

「強さと優しさの両方を持っててこそのユウちゃんですぅ」

「ネム、ユーキさんはああ言ってますが、あなたはカオスを許せますか?」

「母様達が帰って来るなら、もうネムが怒る理由は無いよ」


 全て丸く収まろうとしていた時、何故かいきなりカオスの胸ぐらを掴むユーキ。


「まあそれはそれとして、一応ケジメは付けないとね〜」


 そう言って、カオスの頬に渾身のビンタを炸裂させるユーキ。


「ぶふううっ‼︎ 結局殴るんか〜い‼︎」







 

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