第83話 忘れた頃にやって来る

 ケジメの一撃を食らい、吹っ飛ばされたカオスの元に駆け寄り手を差し伸べるユーキ。


「ほら、立って!」

「あ、ああ、済まない」


 ユーキの手を握り起き上がろうとしたカオスが、何かの気配に気付く。


「危ない‼︎ ユーキ‼︎」

「へ⁉︎」


 ユーキを庇うようにして押し倒すカオス。


「んなっ⁉︎ あいつうう〜‼︎」

「大丈夫かユーキ⁉︎」

「あ、いや〜、僕よりも君の方が危ないかも」

「何っ⁉︎」


 ユーキの目線の先には、猛スピードで迫って来るパティが居た。

 そしてその勢いのままカオスにドロップキックを炸裂させるパティ。


「ユーキから離れろこの痴漢〜‼︎」

「ぐはああっ‼︎ な、何しやがるパティ⁉︎」

「あんた何どさくさ紛れにユーキを押し倒してんのよ‼︎」

「ちげ〜よバカ‼︎ 誰かに攻撃されたから咄嗟にかばったんだろ〜がっ‼︎」

「攻撃の後も無いし、誰も居ないじゃないのよ!」


 倒れているカオスの横っ腹を連続で蹴るパティ。


「いくら、ユーキが、可愛いからって、あたしでさえ、まだ、押し倒して、ないのに、何、抜けがけ、してんの、よ!」

「イテッ! イテテッ! や、やめろ! 同じ所を地味に蹴るんじゃねぇ姪っ子!」

「姪っ子ゆ〜な!」


 パティに足蹴にされているカオスをフォローするユーキ。


「パティ! 誰かに攻撃されたのは本当だよ! もっとも、エターナルマジックで吸収したから僕には届いてないけどね」

「そ、そうなの⁉︎ でも攻撃って、一体誰が⁉︎」

「おいコラ姪っ子! まずは俺に謝れ!」


 ユーキが誰も居ない場所を見つめていると、辺りの空間が揺らぎ、そこから仮面が半分割れて素顔の一部が見えているジョーカーが現れた。

 

「双方潰し合っていい感じに数が減るかと思ったんですがねぇ。まさかここまで一方的な結果になるとは、パラス最強のナンバーズとは名ばかりでしたねぇ」


「あいつは、パラスでパル達に不意打ちを仕掛けて来た……」

「バカなの〜」

「ババなのよ!」

「バカでもババでもありません‼︎ 私はジョーカーです‼︎ いや、もっとも……」


 壊れた仮面を外し、完全に素顔を晒すジョーカー。


「ジョーカーというのは仮の姿だがな!」


「あいつは⁉︎」


 いち早く反応する猫師匠に質問するアイバーン。


「奴を知っているんですか、シャル様?」

「あいつはかつて、神々の中でも特に強くアイリス姉様追放を訴えていたベリルニャ!」


「ベリルニャですかぁ、意外と可愛い名前ですねぇ」

「フニャ⁉︎ いや違うニャ! ベリルニャじゃなくてベリルニャ!」

「だからベリルニャでしょぉ?」

「だからぁ‼︎」


「いい加減にしてください。バカがバカ言ってないでさっさとバカを警戒してください」

「フィー、お前段々露骨になって来たニャ……」


 セラ達のノリをまだ引っ張るユーキ。


「そっか……ババって君だったんだね? ベリルニャ」

「ベリルニャじゃなくてベリルだ! そしてババではなくジョーカーだ!」


 更に乗っかるカオス。


「やはりババの正体は貴様だったか、ベリルニャ!」

「だからベリルニャじゃなくてベリル‼︎ ババではなくてジョーカー‼︎ 何度も言わせんなっ‼︎」


 そしてトドメをさすパティ。


「で⁉︎ そのカバのサプリメントが今更何しに来たのよ⁉︎」

「全部間違ってるっ‼︎」

「何だっていいわよ! せっかくラスボスを倒してめでたしめでたしって時に、そのベルリニャが何しに来たのかって聞いてんのよ!」

「ベルリニャじゃない! 私はベリルニャだ! ……いや違う! ベリルだ‼︎」

「舌噛みそうですね」


 つい釣られてしまうベリルニャ……いや、ベリルだった。


「せっかくイースを追放出来たというのに、まさかノコノコ戻って来るなんて言うじゃないか。そこで仮の姿であるジョーカーとなりパラス軍に紛れて様子をうかがっていた。すると都合良くアビス軍とイース軍が戦争を始めたもんだから、混乱に乗じてイースを抹殺してやろうと機会をうかがっていたというのに、アビス軍がここまで不甲斐ない連中だとは私も計算外だったよ」


「随分説明臭いセリフですね?」

「偶に説明しとかないと混乱するニャ」

「何の話よ!」


 ベリルの言葉にカチンと来るカオス。


「黙れベニャリル! テメェに何が分かる!」

「ベリルだ‼︎」


 ベニャ……ベリルに疑問をぶつけるユーキ。


「あの時から疑問だったんだけど、何でリルニャベはそんなに僕の事嫌うのさ?」

「ベリルっ‼︎ 猫鍋みたくゆ〜な‼︎」


 ユーキに理由を話すリル……ベリル。


「あなたは神の身でありながら、敵である薄汚い魔族の命を助けた。しかも、事もあろうにその魔族を仲間に引き入れ、共にこんな世界を創り出した!」


 ベリルの言葉にムッとなるフィー。


「失礼ですね。私よりシャル様の方が薄汚いです」

「フニャッ⁉︎ 誰が薄汚いニャ⁉︎」

「いいえ。シャル様は似合うんですから、冬場でももっと薄着にしたらいいと言ったんです」

「ニャ⁉︎ ホントかニャ⁉︎ じゃあなるべく頑張ってそうするニャ」


「そして風邪をひいてこじらせて死ねばいいのに……」

「やはり裏があったニャアア‼︎」


「あなたは我々神と名を連なるには相応しくない!」

「言われてますよ? シャル様」

「あたしじゃないニャア‼︎」


「よってここで消えてもらう‼︎」

「そんなのは君達一部の神の勝手な考えでしょ⁉︎ 僕はみんなが笑って過ごせる世界を創りたいんだ‼︎」

「こんな世界など、私が全て消してやる‼︎」


「よく言う。君ここに来る前、アイリスさんに一撃で倒されたよね? そんな君が更に強くなった僕や僕の仲間達に勝てると思うの?」

「勿論! 私ひとりであなた方全員を相手にする程愚かではない!」


 巨大な翼を広げ、天使の姿へと変貌するベリル。

 そしてベリルが何か合図をするように右手を上げると、空に次々と魔方陣が現れ、そこから多数の天使達が舞い降りて来る。


「天使⁉︎」

「あいつらはベリルの考えに賛同している神達ニャ!」

「あ、あんなに大勢⁉︎」


 現れた天使達は、ざっと100人は超えていた。

 それを見たユーキが静かにロッドを腰に装着して、ポンっと手を叩く。


「よし! 無益な争いはやめて、ジャンケンで勝敗を決めよう!」

「ああそうだな、それがいい……ってなるかっ‼︎」







 

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