第66話 良い子はマネしちゃダメ!

 ボッチ対召喚シスターズのバトルが本格的に始まった頃、暗黒空間の中で苦戦しているパティ。


「バーニングファイアー‼︎」


 杖に炎を集めて放つが、カールに届く前に消えてしまう。


「くっ! サウザンドアロー‼︎」


 今度は無数の水の矢を放つパティ。

 しかしそれも少し飛翔した後、闇に溶けるように消滅してしまう。


「無駄じゃよ。この暗黒空間の中では、闇属性の魔法以外は殆どその威力を発揮する事は出来ないんじゃ。このようにな! アサシネイション‼︎」


 カールがその場で斧を振り下ろすと、いきなりパティの背中が斬り裂かれる。


「うあっ‼︎」


 完全に気配の無い攻撃に、膝をつくパティ。


「唯一有効なのは光属性の魔法じゃがお主、光属性の魔法は苦手じゃろう?」


「そ、そんな事ないわよ! ちゃんと治癒魔法だって光攻撃魔法だって使えるんだから!」

「使えるというだけじゃろう? 現に治癒魔法を使えると言いながら、先程の傷も治せておらんではないか。ただ使えるのと使い物になるではまるで違うからのう」

「なら食らいなさい! ホーミングアローズ‼︎」


 パティの周りに3本の光の矢が現れる。

 が、あっという間に消滅してしまう。


「ホホホホホッ! ほれ見ぃ。光魔法が1番消えるのが早いではないか! つまりお主にとって、もっとも苦手な属性という事じゃ」

「ぬぐぐぐぐ」

「しかしまあ本来闇属性であるお主が、ショボいとはいえ光魔法を使えるのは驚くべき事ではあるがの」

「ショボいゆ〜な!」


 今の状況について考えるパティ。


(この空間、もしかして統一トーナメントの決勝でフィーがユーキに仕掛けたやつと同じ? あの時はユーキが巨大な結界を作って打ち消していたけど、あたしにはあんな結界は作れない。何よりあの時とは規模が違い過ぎ……規模?)


 何かに気付いたパティが、カールを警戒しつつチラッと周りを見る。


(確かに見た目はどこまでも続いてるように見える。でもここは元々城の1フロアよ? 空間ごと別次元に飛ばされた、とかいうのでない限り必ず壁はある……筈!)


 何かを思い付いたパティが正面に居るカールの方ではなく、真横に走り出す。


「ん? 何じゃ? かく乱かの?」

「あんたの作戦に付き合う気はないのよ!」


(この風景が幻術で作られた物なら、壁をぶち破って外に出る! 外ならそんな広範囲に幻術は仕掛けられない……筈!)


 いきなり壁に激突しないよう、小さい炎魔法を断続的に前方へ撃ちながら走るパティ。


「どこへ行こうと言うんじゃ⁉︎」

「なっ⁉︎」


 かなり走った筈なのに、急に目の前に現れたカールに腕を切り裂かれてしまうパティ。


「ぐうっ!」


 いきなりの事に体勢を崩して転びそうになるが、何とか受け身を取って片膝立ちの状態で停止するパティ。

 左肩の傷口を押さえて治癒魔法をかけるパティだったが、傷口は完全には治らず出血を抑えるのがやっとだった。


「あんた、何で前から⁉︎」

「この空間の中では、わしは万能なんでの」

「くっ!」


 今度はカールから離れるように後方に向かって走り出すパティ。

 だが先程と同じように、だいぶ走った頃にまた目の前に現れるカール。


「無駄と言ったじゃろ?」

「このっ!」


 横に薙ぎ払われた斧を杖でガードし、その勢いを殺しつつ体を前方回転させて着地するパティ。

 しかし完全にかわし切る事が出来ずに、脇腹を斬られてしまうパティ。


「ぐっ!」


 斬られた箇所を手で押さえるパティ。

 しかしそこから出て来たのは血ではなく、大量のユーキの写真だった。


「何じゃ? ユーキ王の写真、か?」

「あ、あたしの宝物なんだから触るんじゃないわよ‼︎」

「別に捕りはせんわい。しかしその写真……」


 散らばった写真を見たカールが呆れ顔になる。

 普通にユーキが写った写真が殆どだったが、中には寝顔を撮った物、着替え中と思われる物、終いには入浴中の姿を隠し撮りしたような写真まであった。


「お主、犯罪の匂いがプンプンするぞ? これはどう見てもユーキ王の許可は取っとらんじゃろう?」

「こんな写真、ユーキが撮らせてくれる訳ないでしょっ‼︎」


「いや、逆ギレされてものう……しかしお前さん、こんな危険な写真を持っとるとは、やはり闇が深いのう」

「ユーキはあたしの妹なんだからいいのよ! それより、返しなさい‼︎」


 カールが拾った写真を取り返そうと飛びかかるパティ。


「わしは幼いおなごには興味無いのでな。ほれ、返してやるわい」

「ユーキ‼︎」


 カールが空中に投げた写真を取ろうと、必死に手を伸ばすパティ。


「隙だらけじゃ!」


 無防備なパティ目がけて斧を振り下ろすカール。

 その斧を、瞬間的に強化した左手の甲で弾き飛ばし、素早く写真をキャッチして、カールの左肩を蹴ってくるりと後方へ回転して着地するパティ。


「ホホッ、しかし器用にかわしよるわい! じゃが、どっちへ逃げようと同じ事じゃよ。この空間はわしのテリトリー。わしを倒さん限りここから抜け出す事は出来んよ。まあもっとも、お主がわしを上回る闇を放てば、打ち破ることが出来るかもしれんがの。ホホホホホ!」


「フンッ! そうやって挑発してあたしに闇の力を使わせようって魂胆でしょ⁉︎ その手に乗るもんですか!」

「頑固な娘じゃのう。いい加減認めたらどうじゃ? 己に強大な闇魔法の素質がある事を」

「お断りよ‼︎」


 再びカールに背を向けて走り出すパティ。


「懲りん奴じゃのう」


 だが少し走った後、またしても前方に現れるカール。


「このおっ! しつこい‼︎」


 カールに向かって杖を振り下ろすパティ。

 それを斧で受け止めたカールが、先程までとの違いに気付く。


(ん? 重い? ふむ、やはり怒りの感情が闇の力を増幅させておるようじゃの)


 パティの杖を払いのけたカールが、その勢いのまま回転して斧を振り回す。


「チッ!」


 ガードしきれないと判断したパティが、素早く後ろに飛び距離を取る。


(動きも段々良くなっておる。やはり闇属性であるのは間違いないようじゃの。しかし言葉攻めで怒らせるのにも限度がある。もっと他に何か効果的な方法は……)


「あ、あ、あ、あああああ〜‼︎」

「ん? 何じゃ?」


 カールがパティを怒らせる方法を考えていると、何故かパティがカールの足元を指差しながら、言葉にならない声を発していた。


「何じゃ? わしの足元に何かあるのか?」


 カールが自分の足元を見ると、先程パティが落としたと思われるユーキの写真を踏みつけていた。


「これは、さっきの写真か? おおなるほど!」


 何かを閃いたカールが写真から足をどかし、その写真の上に斧を構える。


「な、何をっ⁉︎」

「踏みつけただけでその様子なら、こうすればどうなるかの?」


 写真目がけて斧を振り下ろすカール。


「や、やめっ‼︎」


 しかし無情にもカールの斧は、写真に写った笑顔のユーキを真っ二つに斬り裂いた。


「はあっ‼︎」


 一瞬固まったパティだったが、次の瞬間パティから、カールの魔力すらも凌駕する程の、恐ろしいまでの闇のオーラが溢れ出す。


「よくも……よくもユーキを……殺す‼︎」


 予想外のパティの魔力にたじろぐカール。


「カ、カオス殿の頼みとはいえ、これは少々ヤバイ状況かもしれんのう……」

(ど、どうしよ! 早めに謝っといた方がいいかな?)


 パティを本気で怒らせた事を、少し後悔するカールであった。







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