第64話 ユーキ救出作戦という名のコント

 カールにわざとらしい演技を見破られたパティが、観念してスッと立ち上がる。


「どうじゃ? この暗黒空間の中でも平気じゃろう? いやむしろ、身体中に力が溢れている筈じゃ。それが、お主が闇属性である何よりの証拠じゃ」


「朝ごはんいっぱい食べたからよ!」

「そんな単純なもんじゃないわいっ!」


「大体何なのよあんた⁉︎ あたしの属性を確かめたからって何になるってのよ⁉︎」

「ホホッ、聞きたいか? では教えてやるかの」

「あ、話が長くなりそうだから別にいいわ」

「いや、お主が質問したんじゃからちゃんと聞かんかっ‼︎」


 質問した手前、渋々カールの話を聞くパティ。


「あたし、長い話聞くと眠たくなるから、要領まとめて簡単に話してよね、簡単に」

「まったく、わがままな娘じゃのう。まあいいわい、わしが今回カオス殿から依頼された事はふたつあっての。ひとつは先程も言った、ユーキ王をカオス殿の元へ連れて行く事。そしてもうひとつはパティ……お前さんの中に眠る闇の力を呼び覚ます事じゃ」


「んなっ⁉︎ な、何でそんな事……」

「聞けばお前さん、カオス殿の身内らしいの?」

「あ、あたしは認めてないわよ! 周りが勝手に言ってるだけなんだから!」


「いや、お前さんから出とる闇のオーラは、確かにカオス殿によく似ておる。間違いないじゃろう」

「そ、そんな事はどうでもいいのよ! あたしの力が何だってのよ!」


「カオス殿は闇の力に覚醒したお前さんと戦ってみたいらしくての。揺さぶって叩き起こしてくれと頼まれたんじゃよ」

「あんのバカオヤジはそんな事ばっかりぃぃ」


 拳を握りしめ、怒りに震えているパティがふと気付く。


「ああそう。つまりあんたが始め、あたしを悉く無視してたのもその一環だった訳⁉︎」

「そういう事じゃ。怒りなどの負の感情は、闇の力を増幅させやすいからの。特にお前さんは怒りっぽい性格らしいから、簡単に挑発に乗ってくれて楽じゃったわい」

「このっ! ぐ、ぐぎぎぎ……ふうっ」


 一瞬カッとなったパティだったが、握りしめた拳を緩めて深呼吸する。


「ふふっ、確かに以前のあたしは怒りっぽかったわ。それは認めてあげる。でもユーキと出会ってからあたしは変わった! 旅の中でユーキの優しさに触れて行くうちに、あたしも聖女のような清らかな心に変わる事が出来たのよ!」


「聖女と言うより悪魔城じゃろう?」

「何ですって〜っ‼︎」


 あっさりカールの挑発に乗り、黒いオーラを放つパティ。



 パティがカールの言葉にキレていた頃、ウーノと激しい空中戦を展開しているネムとパル。


 依然ポールに縛り付けられているユーキの元に、ウーノの隙を見てワイバーンに乗ったセラとベールがやって来る。

 ワイバーンは当初の巨大な姿ではなく、目立たないようにギリギリセラ達が乗れるぐらいのコンパクトサイズになっていた。


「セラ⁉︎ ベールさん⁉︎ いやワイバーンちっちゃ⁉︎」

「可愛くしてみました」


「ユウちゃんご機嫌ですかぁ?」

「楽しそうに見える?」

「何度もさらわれるから趣味かと思ってましたぁ」

「そんなマニアックな趣味は持ち合わせてないよ!」

「んふふ〜、今助けますからねぇ」


 ワイバーンに乗ったままユーキの背後に回り拘束を解こうとするが、ユーキの体は物理的なロープや鎖では無く、何らかの魔法によって縛り付けられていた。


「う〜ん、これはぁ……」

「どしたの、セラ?」

「魔法によって縛られてますぅ。これは力尽くで外すのは無理ですねぇ」

「ええ〜っ⁉︎ じゃあどうすんの? 結局エースを倒すしかないって事?」


「方法はいくつかありますぅ」

「そっか、なら大丈夫だね?」

「まずひとつめの案はぁ、ベールさんにラケルちゃんを召喚してもらってぇ、例のハンマーで破壊してもらいますぅ」

「ああ、それいいね。テトでも壊せなかったあの魔法障壁を破壊したラケルのハンマーなら、充分通用するんじゃない?」


「ベールさん、どうですかぁ?」

「おそらくは無理です」

「ええ〜っ! 何でさ⁉︎」


「ラケル自体をこちらに召喚する事は可能です。しかし、ラケルのハンマーは邪悪な物に対してのみ特攻の効果を発揮します。あの時はジョーカーが卑劣な行為に出たから特攻が発動しましたが、今回のエースはあくまでルールを厳守してますので、おそらく特攻は発動しないでしょう」


「あの……僕誘拐されたんだけど……」

「でもエースはユーキちゃんに危害を加えてないでしょう?」


「キスされそうになったんだけど……」

「キスなんてただのあいさつですよお」


「ぐっ……じ、じゃあセラ、次の案は?」

「はぁい。次はかなり確実な方法ですよぉ」

「へえ、どんなの?」


「一時的にユウちゃんの手足を切断してぇ、脱出した所で私が治癒魔法で元通りくっつけますぅ」


「いやああああっ‼︎ そんなの絶対ヤダよ‼︎ 痛いじゃん! 血がいっぱい出ちゃうじゃん! グロテスクじゃん! R15になっちゃうじゃん!」

「大丈夫ですよぉ。治癒魔法の応用で麻酔をかけますから痛みはありませんよぉ?」

「それでもイヤああ‼︎ 却下‼︎ 絶対却下‼︎」


「では仕方ありませんねぇ。ナンバーズのトップに私の能力が通用するかは分かりませんがぁ、結界を仕掛けてみますねぇ」

「いや最初からそれでやってよねっ!」


 魔法無効化の結界を張るべく、ユーキの周りの空間に羽を配置するセラ。


「私の魔力だけだと不安なのでぇ、ユウちゃんの魔力をちょっぴりお借りできますかぁ?」

「う、うん。魔力を出すだけなら問題無いと思……セラ‼︎ 危ない‼︎」

「え⁉︎」


 ユーキが魔力を出そうとした時、ウーノから放たれたレーザーのような光線が、ワイバーンの翼を撃ち抜く。


「しまっ‼︎」


 バランスを崩したワイバーンが、セラとベールを乗せたままきりもみ状態で墜落して行く。


「セラ‼︎ ベールさん‼︎」

「下へまいりますぅぅぅ‼︎」

「セラちゃん‼︎ 掴まって‼︎」

「私は捕まるような悪い事はしてませんよぉ!」

「その捕まるじゃなくてえええ‼︎」

「セラ‼︎ ベールさん‼︎」


 セラの腕を掴み引き寄せたベールが落下の衝撃を和らげる為に、ワイバーンを自分達を完全に包み込むような巨大な球体に変える。

 セラ達を包んだ球体は、そのまま城の中庭に落下して行った。

 

「セラ、ベールさん、どうか無事で……」

「勝手にユーキを助けるのはルール違反って言った筈だよ?」

「くっ! ロリエース‼︎ よくもっ‼︎」

「その呼び名、定着させようとするのやめてくれるかなっ⁉︎」





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