第63話 大根役者の説、多過ぎ

 アイバーンとヘクトルの戦いが終わって静まり返ったその場所に、駆け寄るブレンとメルク。


「アイバーン‼︎」

「アイバーン様‼︎」


 2人が到着したちょうどその時、アイバーンの作り出した氷の花が粉々に砕け散り、倒れたアイバーンとヘクトルが現れる。


「アイバーン‼︎ 無事か⁉︎」

「アイバーン様‼︎」


 ブレンに抱き抱えられたアイバーンに意識は無く、かろうじて息があるという状態だった。


「いかん! 呼吸が止まりかけている!」

「ああ、こんな時セラさんかユーキさんが居てくれたら!」


 2人がオロオロしていると、北の方角より何かが飛んで来て2人の前に着地する。


「フニャア! いい感じの魔力を感じて来てみれば、また間に合わなかったニャ!」

「シャル様⁉︎」


「シャル様! お願いだ! アイバーンを治療してほしい!」

「何ニャ? アイバーン、死にかけてるニャ?」

「ナンバージャックと戦って、倒しはしたんですが……」


「ほう、ひとりでナンバージャックを倒すとは、中々やるニャ」

「でもアイバーン様も危険な状態なんです! ですから、早く治療を!」


 しかし、腕組みをしたまま中々アイバーンを治療しようとしない猫師匠。


「シャル、様?」

「う〜ん、しかしニャ〜。今またアイバーンを復活させると、益々あたしの出番が……」


「ユーキさんとパティさんに言いつけますよ?」

「フニャアッ⁉︎ わ、分かったニャ! ちゃんと治療するから、2人に言うのは勘弁ニャアッ!」


 渋々アイバーンを治療した猫師匠が、倒れているヘクトルを発見する。


「ニャ⁉︎ こいつがナンバージャックニャ?」

「あ、はい! そうです」

「こいつもかろうじて生きているみたいニャ」


 意識の無いヘクトルの首根っこを掴み、片手でグッとヘクトルの巨体を持ち上げる猫師匠。


「な、何を⁉︎」

「とどめを刺すつもり、なのか?」


 アイバーンの奥義の影響で総崩れとなったヘクトルの兵達に見せびらかすようにして警告する猫師匠。


「ナンバージャックはあたし達が討ち取ったニャ! 同じ目に遭いたくなければ、リスのように尻尾を巻いて逃げるニャ! てか、雑魚の相手はめんどくさいから、もうかかって来るニャ!」


「ヘ、ヘクトル様がやられた⁉︎」

「ま、まさかあのヘクトル様が⁉︎」

「ダメだ! とても俺達が勝てる相手じゃねえ!」

「に、逃げろおおお‼︎」


「シャル様、まるで自分の手柄のように……」

「まあいいではないか! やり方はどうあれ、敵を退ける事が出来たんだからな!」

「フフッ、そうですね」


 パラス兵を追い払った猫師匠は、未だヘクトルを掴んだまま引きずっていた。


「シャル様、彼をどうするんですか?」

「食べても美味くないと思うが?」

「食べないニャ‼︎ まだ息があったから、死なない程度に治癒魔法をかけといたニャ」


「捕虜にするんですか?」

「殺すのは容易いけど、むやみに命を奪ったらアイリス姉様がめちゃくちゃ怒るニャ」

「なるほど……」


「まあ、生かしとけばどこかで使い道もあるだろうしな」

「保存食ですか?」

「だから食べないニャ‼︎」


「これで残るナンバーズはキングとエースだけですね」

「キングはじきにウチのバカ弟子が倒す筈ニャ。でもエースはここには来てないってノインの奴が言ってたニャ」


「え⁉︎ 来てないって、まさかエースはパラスに残ってるんですか⁉︎」

「ラケルが目覚めない所を見ると、どうやらその様ニャ」

「そんな⁉︎ ユーキさん達、大丈夫なんでしょうか⁉︎」


「心配無いニャ。アイリス姉様が目覚めさえすれば、いくらエースが強いとはいえ、人間ごときアイリス姉様の敵ではないニャ」

「もし、目覚めなかったら……」


「大丈夫ニャ。今のアイリス姉様は朝一度起きて、二度寝しているような状態ニャ。またすぐに起きるニャ」


「でもアイリスさん、これまでにも何度か起きてますが、またすぐに寝ちゃいますよ? もう二度寝じゃ効かないぐらいに……」


「も、問題無いニャ。姉様はちょっと寝起きが悪いだけニャ。さ、さすがにもう起きるニャ」

「そのまま夜を迎えてまた本格的な眠りに入ったりして……」


「そ……それ、は〜……」

「可能性、あるんですね……」



 ユーキ達がみんなに心配されていた頃、誰にも心配されなかった可哀想なパティは、謎の空間に居た。


「な、何よここ⁉︎ なんにも無い……」


 パティ達が居た場所は薄暗く障害物が一切無い、どこまでも続いているかと思うような不思議な空間だった。


「フッ、やはりの……」


 闇の中から、両側に刃が付いた柄の長い斧を持ったカールが現れる。


「あんた‼︎ 何なのよここは⁉︎」

「ダークネスフィールド……わしが作り出した暗黒空間じゃ」


「なるほど、ここで思う存分やり合うって訳ね⁉︎」

「いや、お前さんをここへ誘い込んだのは、お前さんの属性を確かめる為じゃ」

「だから何度も言ってるでしょ! あたしの属性は風よ!」


「ほう、それはおかしいのう。この暗黒空間には闇の魔力が充満しておっての……強力な闇の力を持つ者以外がここへ入ると、もがき苦しむ筈なんじゃがの?」

「なっ⁉︎」


 それを聞いたパティがいきなり苦しみだす。


「ああ! く、苦しい! 苦しいわ! とても立っていられないわあ‼︎」

「いや、もうバレバレじゃよ……」








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