第60話 ロリコンの基準がよく分からない

 身動きが出来ない為に、せめてもの抵抗としてウーノの悪口を言いふらすユーキ。


「そんな悪い事ばっかり言う口は、僕の口で塞いじゃうよ?」


 寒いセリフを吐きながらユーキのアゴに手を添え、グッと顔を近付けるウーノ。

 危険を察知したユーキが更に激しく抵抗する。


「いやああ‼︎ 来るなロリコン‼︎ 僕は14歳だから‼︎ ロリコンの許容範囲外だからああ‼︎」

「いや、そんな基準知らないよ‼︎」


 正にユーキのくちびるが奪われようとした時、彼方の空からフェニックスと獣魔装したネムが現れる。


「ユーキ姉様から離れろおおお‼︎」


 左右に広げた両手の先に炎の塊を作り出し、鳥が羽ばたくように両手を体の正面で合わせると、ひとつになった炎が更に巨大になり、ウーノ目がけて飛んで行く。


「ウイングファイアー‼︎」

「ほう、中々……」


 ネムの魔法に感心したウーノはスッとその場を離れたが、炎はそのままユーキに向かって飛んで行く。


「ええっ⁉︎ ち、ちょっと‼︎ こっち来てるって‼︎ いやああああ‼︎」


 ネムの放った巨大な炎は、ユーキの体ギリギリ横をすり抜けて行った。

 ウーノがユーキから離れた隙に、ユーキの側まで飛翔して来るネム。


「ユーキ姉様危ないよ? 何でよけないの?」

「縛られてて動けないのっ‼︎」

「そっか、ゴメン。今助けるね」

「うん、ありが……ネム‼︎ 右‼︎」

「え⁉︎」


 ネムが右を向くと、先程ネムが放った炎よりも更にひと回り巨大な炎の塊が目前まで迫って来ていた。


「くっ!」


 よけるのが間に合わないと感じたネムが咄嗟に右腕を前に出し、その炎を全て取り込んでしまう。


「もうっ! ビックリしたな〜!」

「へえ、あの炎を取り込んでしまうなんて、面白いね」

「ネムだって初めてやってビックリしてるんだから!」


「やった事無いのにやってのけたんだ? 凄いね……だけどズルはダメだよ? ルール説明したでしょ? 僕に一撃入れるまではユーキは返さないからね」


「そんなのはそっちが勝手に決めた事でしょ! ネム達が従う義理は無いわ!」

「分かってないな〜。これは僕の優しさだよ? この1時間の間に僕との実力差をイヤと言う程味わえば、諦めもつくでしょ? そうすれば君達も無駄に傷付かずに済むし、ユーキは晴れて僕の物になる。全てめでたしめでたしじゃないか」


 それを聞いたネムの顔が見る見る怒りの形相に変わり、全身から激しく炎を噴き上げる。


「めでたいわけ、あるかあああ‼︎」


体の正面で合わせた両手を左右に開くと、その間に炎の刃が現れる。


「フレイムサイズ‼︎」


 ウーノ目がけて飛んで行く炎の刃。


「おっと!」


 難なく炎の刃をかわしたウーノだったが、そのすぐ後ろから大きく翼を広げ、まるで火の鳥を思わせるような姿のネムが突っ込んで来る。


「ファイアーバード‼︎」

「ぐっ!」


 炎の刃をかわした直後だった為態勢が整わず、素手でネムの突撃を受け止めるウーノ。

 だが、素手で受け止めたにもかかわらず、全くの無傷のウーノ。

 完全に勢いを止められたネムが、すかさず距離を取る。


「そんな⁉︎ フェニックスは触れただけで全てを焼き尽くすのに……」

「別に難しい事じゃない。炎に触れている部分にだけ魔力を集めればいい。因みに今のは氷魔法を手の平に集中させたんだけどね」


「くっ! 強い……」

「さっきは炎を出して今度は氷。あいつ、パティみたいに色んな属性の魔法を使えるのか⁉︎」

「逃げてばかりじゃつまらないからね。今度はこっちから行かせてもらうよ!」


 ウーノがペンダントを引くと、右手に細身の剣が握られる。

 ネムの身を案じたユーキが、ネムに注意を呼びかける。


「ネム‼︎ そいつはロリコンだからネムも狙われてるよ‼︎ 気を付けて‼︎」

「嘘っ⁉︎ ロリコン⁉︎ ヤダァ!」

「違うってば! まあ、君にも興味があるのは本当だけどね」


「い、今のネムは推定年齢14歳だから、ロリコンの許容範囲外だよ⁉︎」

「だからどこの基準なのさっ‼︎」


 ネムがロリエースを警戒していると、ワイバーンに乗ったパル達も到着する。


「ようやく着いたのよ! ネム姉様はもう戦ってるのよ! パル達も参戦するのよ!」

「パル、何か悪い事したの〜?」

「? 何を言ってるのよ? パルは何もやってないのよ?」


「だって今、さ〜せんって謝ってたの〜」

「さ〜せんじゃなくて参戦って言ったのよ! くだらない事言ってないで早く魔獣を召喚するのよ!」


 今にも飛び出そうとするパルとチルを止めるベール。


「待ちなさい2人共!」

「母様⁉︎」

「残しておくのが不安だったからあなた達も連れて来ましたが、ハッキリ言ってあなた達2人の力ではエースには通用しません。ここは私が行きますから、2人は待ってなさい」


 だが、不機嫌そうな顔のパルとチル。


「パ、パル達だって少しは強くなったのよ! もうあの時みたいにパラスの言いなりにはならないのよ!」

「気持ちは分かりますけど……」


「母様こそ復活したばっかりで戦えるか分からないの〜。病み上がりは引っ込んでるの〜」

「んなっ⁉︎」

「もうちょっと言い方を考えるのよ!」


 チルの辛辣な言葉に少々ムッとしたベールが、意地になり娘達とケンカを始めてしまう。


「た、たとえそうだとしても、あなた達よりは強いですう〜! これでも元ナンバークイーンなんですう〜! あなた達より4つもランクが上なんですう〜!」


「か、母様はずっと寝てただけなのよ! みんな召喚獣がやってたのよ!」

「その召喚獣を作ったのは私だから、私がやったのと同じ事なんですう〜!」


 そんな親子のケンカを特に止める事もせずに眺めているセラ。


(親子喧嘩というより、姉妹喧嘩みたいですねぇ)


「2人共大人気ないの〜。少し落ち着くの〜」

「チルのひと言が原因なのよ!」


 





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