第58話 カールはやっぱりチーズ味
「受けなさい! 愛の抱擁、ラブヴァイス‼︎」
両腕を大きく広げながらアイバーンに駆け寄るヘクトル。
(何だ⁉︎ 無防備に突っ込んで来る? 攻撃を誘っているのか⁉︎)
迎撃しようとしたが、何か嫌な気配を感じて避けるアイバーン。
すると、勢い余って氷の山に激突したヘクトルが、そのまま締め上げ氷の山を粉々に砕いてしまう。
「なっ⁉︎ 冗談ではない。あんなものまともに受けたら全身の骨が粉々になる!」
「やあねえ。何で逃げるのお?」
「逃げるわっ‼︎」
「じゃあ今度は逃げられないようにしてから行くわよ〜。アイスフィールド‼︎」
ヘクトルの足元から氷の輪が円形に広がって行く。
「ナメてもらっては困る。私とて氷使い、この程度の技で凍らせられる程……何っ⁉︎」
アイバーンの足元まで到達した氷の輪がアイバーンの体を徐々に凍らせ始める。
「さあ、行くわよ〜! 今度こそあたしの愛を受け止めてねえん!」
再び両腕を広げながらアイバーンに迫るヘクトル。
(くっ! 同じ氷使いに私が凍らせられるとは……つまりは奴の方が魔力が上、という事か)
「屈辱だな。ハアッ‼︎」
大剣を振り下ろし足元の氷を砕き脱出したアイバーンが、そのまま剣を水平に構えヘクトルを待ち構える。
「来るなら来い! 今度は真正面から受け止めてやろう!」
「ようやくあたしの愛を受け入れてくれる気になったのね⁉︎ 嬉しいわ!」
「そういう意味ではないっ!」
アイバーンの構えた剣を気にもかけず、そのまま突っ込んで来るヘクトル。
「御構い無しか……愚かな」
だがアイバーンの剣はヘクトルには刺さらず、そのまま勢いで押され始めるアイバーン。
「なっ⁉︎ 魔獣か貴様はっ!」
前に出していた大剣を地面に刺し、地面と両腕で持った大剣を支えにして止めようとするが、ヘクトルの勢いは止まらず、遂に氷の壁まで押し込まれてしまう。
「さあ受けなさい! ラブヴァイス‼︎」
逃げ場の無くなったアイバーンが、遂に万力のようなヘクトルの両腕に捕まってしまう。
「ぐああああああ‼︎」
ヘクトルの腕に締め上げられて、苦しそうな声をあげるアイバーン。
「このままあたしの腕に抱かれて昇天しなさい!」
「それは遠慮願いたい」
「え⁉︎」
次の瞬間、いきなりヘクトルの背後に現れたアイバーンが、ヘクトル目がけ大剣を振り下ろす。
「があっ‼︎」
致命傷では無いものの、遂に傷を負ったヘクトル。
「フッ、安心したぞ。別に肉体そのものが頑丈という訳では無かったようだな」
「な、何故⁉︎ 確かにあたしの腕に抱かれた筈……」
「アイスミラージュ」
アイバーンがそう言うと、先程までヘクトルに締め上げられていたアイバーンの姿が、氷の像へ変わって行く。
「幻術⁉︎」
「そうだ。サーティーンナンバーズで別格の強さを持つと言われる上位陣の貴様が、まさかこんな初歩的な技にかかるとはな」
「フ、フフフフフ。少しお遊びが過ぎたわね。いいわ、なら痛めつけて弱らせてからじっくり抱きしめてあげるわ」
ようやくまともに剣を構えるヘクトル。
「ここからが本番、という事か」
同じく大剣を構え直すアイバーン。
その頃シェーレ城では迫り来るキングの部隊を迎撃すべく、レノ、ノイン、リマの3人が出撃しようとしていた。
「ちょっと! 何でまたあたしは居残りなのよ⁉︎ あたしはシェーレ城を守ってってユーキにお願いされたのよ⁉︎」
納得のいかないパティを説得するレノ。
「だからだ。パティには最後の砦としてここに残ってもらいたい」
「ミノ⁉︎」
「レノだっ‼︎ 人をホルモンみたいに言うんじゃない‼︎」
「見た感じ、この中で1番強いのはパティ姉さんみたいだからね」
「ラマ⁉︎」
「リマだよっ‼︎ 僕はそんな癒し系の動物じゃないよ‼︎」
「それに、みんなが出て行ったら不自然ですわ。誰かがユーキ姉様を守っているように見せかけないとですわ」
「ワイン⁉︎」
「ノインですわっ‼︎ お酒は二十歳になってからですわ‼︎ というより、さっきから完全にわざとやってますわ!」
「少しでも雰囲気を明るくしたかったのよ。分かったわ。仕方ないから前線はあんた達に任せるわ。ちゃんと骨は拾ってあげるから、遠慮なく死んで来なさい!」
「縁起でもない事ゆ〜な!」
キングの部隊を迎撃すべく、城の北側で魔装して待ち構えるレノ、ノイン、リマの3人。
「行くぞ! ノイン! リマ!」
「殺さない程度に痛めつけてあげますわ!」
「でも、死んじゃったらゴメンね!」
無数のパラス兵の元へ走って行くレノ達。
だがその時、背後の上空から何かが飛んで来て、3人の眼前に着地する。
「な、何だ⁉︎」
「敵の攻撃⁉︎」
「でも、後ろから飛んで来ましたわ!」
レノ達が警戒していると、砂埃の中から現れたのは何と、城の南側で戦っていた筈の猫師匠だった。
「シャ、シャル様⁉︎」
「よし、何とか間に合ったみたいニャ」
「な、何故シャル様がここに⁉︎ あなたは南側でひとり奮戦されていた筈では⁉︎」
「奮戦? あの程度、あたしには準備運動にもならないニャ」
「ま、まさか⁉︎ あれだけの数の敵を全て倒されたのですか⁉︎」
「楽勝ニャ」
「こんな短時間で⁉︎」
「信じられませんわ……」
猫師匠の言った通り南側のパラス兵は全員、死なない程度にぶっ飛ばされて全滅していた。
「バ、バケモノだ……」
「いや、化け猫だ……」
「雑魚ばっかりでつまらなかったニャ。ジャックはアイバーンと戦ってるしクイーンはまああれだし……雑魚はお前達にやるからキングはあたしがもらうニャ。自分のノルマは片付けたんだから文句無いニャ?」
「そ、それは勿論、シャル様が加勢してくださるならこんなに心強い事はありません」
「話はついたニャ! さあ、キングはどいつニャ⁉︎」
「ああ、えっと……」
ノインがパラス兵の中を見渡すが、どこにもキングの姿は無かった。
「お、おかしいですわ! キングさんの姿が見当たりませんわ! バルコニーから見た時は確かにいらっしゃったのに……」
「なニャ⁉︎」
猫師匠が肩透かしを食らっていた頃、一応戦っているみんなの事を心配しているパティ。
「みんな、死ぬんじゃないわよ。もし死んだら生き返らせてまた殺してやるんだから……」
「無茶苦茶言いおるのう」
「誰っ⁉︎」
いきなり背後に感じた気配に対し、杖を薙ぎ払うパティ。
杖に殴られた影は四散して、床のあちこちに散らばる。
「ホッ。素性を確かめもせずいきなり攻撃して来るとは、野蛮な娘じゃのう」
「気配を消して人の背後に立つような奴は、敵に決まってるでしょ!」
「ホホ、確かにのう」
床に散らばった影が一ヶ所に集まった後、スウッと立ち上がり人の形を成して行く。
その影が明るくなると、頭に深々とフードを被り顔が見えない謎の人物が現れる。
「あんた、誰よ⁉︎」
「わしはサーティーンナンバーズ、フェイスカードがひとり、ナンバーキングのカールじゃ」
「カール⁉︎ じ、じゃああんたの正体はまさか……」
「念の為に言っておくが、カールおじさんではないぞ⁉︎」
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