第57話 人差し指なのに、人を指差してはいけないという矛盾

 張り詰めた空気の中、ベールがウーノに問いかける。


「あなたはシェーレ攻略作戦に参加しなかったのですか?」

「知っての通り、僕は自分の動きたい時に動いていいという条件付きでサーティーンナンバーズに入ったんだ。だから今回も遠慮させてもらったまでだよ」


「なら、私達と無用の戦いをするつもりは無いんですね?」

「勘違いしないで。僕がパラスに残ったのはクイーン、あなたがまだ出撃前だというのに、夜中にコソコソ出て行くのを見たからだ」

「なっ⁉︎」


「あなたの素性は知っていたし、重い病や娘達の為に仕方なくパラス軍に居る事もね。だから事情を聞いたお人好しが必ずクイーンを助けに来ると予測して、ここで待ってたんだ」

「お人好しなのはユウちゃんだけですぅ」

「この作戦考えたのセラお姉ちゃんだよね⁉︎」


「僕がナンバーズに入ったのは、軍に居れば強い相手と戦えると思ったからだ。だけど、どこの戦場に行っても僕の相手がまともに務まる奴は居なかった。もうパラスを出て強者探しの旅にでも出ようかと思ってた時、見つけたのがユーキ! 君だ!」


 ビシッとユーキを指差すウーノ。


「ひ、人を指差したらダメなんだからねっ!」

「人差し指なのに不思議ですぅ」


「君は仮の肉体だったとはいえ、あのカオス様を2度も倒した。しかも、それでも君はまだ完全な状態じゃないと聞いた……ユーキ‼︎ 僕は君が欲しい‼︎」

「いや、欲しいってどういう……」


「僕が勝ったら君を僕の嫁にする‼︎」

「な⁉︎ ななななな⁉︎ い、いきなり何言ってんだよ君は⁉︎」


 あからさまに不機嫌な顔になるネムとセラ。


「そして、僕と君との間に産まれた子なら、2人の能力を受け継いだ最強の戦士になるだろうから、将来は成長したその子と戦うという楽しみも出来る」

「子どっ⁉︎」


 完全に固まってしまうユーキ。


「セラ姉様、もうあいつぶっ殺してもいいよね?」

「無条件で許可しますぅ」

「パティさんならもう飛びかかってるレベルなのです!」


「殺す? この僕を? 君達ごときが? フ、フフッ、フハハハハハッ‼︎」


 大声で笑っていたウーノの姿が消え、いきなりユーキの背後に現れる。


「ユーキ姉様‼︎」

「あうっ!」


 不意打ちを食らい気を失ったユーキを肩に担ぎ上げるウーノ。


「ロロ‼︎」

「ユーキさんを返すのです‼︎」


 ウーノに殴りかかったロロだったが、ロロの拳が届く前にまたしても姿を消し、離れた場所に現れるウーノ。


「は、速い⁉︎」

「フフフ、久々に笑わせてもらった礼に、ひとつゲームをしよう」

「ふざけてないで姉様を返せ‼︎」


「だからだよ。ユーキを返してほしかったら、今から1時間以内に僕に一撃入れるんだ。どんな手を使ってもいいし、何人がかりでもいい。成功すればユーキは返してあげるし、正式に君達と戦ってあげよう」


「このお……」

「ただし、もし失敗したらユーキはそのまま僕の嫁となる」

「エース‼︎」


 ベールにより一瞬にして召喚されたワイバーンがウーノに襲いかかるが、フワッと浮き上がりかわすウーノ。


「ふうっ、危ない危ない。いきなり終わるとこだったよ、さすがはクイーンだ」

「エース! ユーキさんを離しなさい! カオスの目的もユーキさんと戦う事なのよ⁉︎ 横槍を入れたらあなただってただでは済まないわよ⁉︎」


「それこそ願ってもない。ユーキとカオス様、この2人と戦えるなんて最高に幸せだよ」

「あ、あなたという人は……」


「舞台はパラス城の範囲内。他の兵には一切邪魔させない。僕が飛び去ったらスタートだ。じゃあ始めるよ!」


 そう言って、猛スピードで飛び去って行くウーノ。


「ロロ! 追いかけるよ!」

「今度こそとっ捕まえるのです!」

「魔装‼︎ 召喚‼︎ フェニックス‼︎」


 ロロと合体したネムがすぐさまフェニックスを召喚し、続け様に獣魔装する。


「獣魔装‼︎ フェニックス‼︎」


 飛び立とうとするネムを呼び止めるセラ。


「待ってくださぁい! 私は飛べないんですから置いて行かないでぇ!」

「でもセラ姉様、今ネムに触ると炭になっちゃうよ?」

「炭火焼きは好きですがぁ、自分が炭になるのはイヤですぅ」


「なら、セラさんは私の召喚獣で」

「よろしくですぅ」


 ベールが先程出したワイバーンの背中に乗るセラ。


「パル達も行くのよ!」

「ユーキ姉様助けてご飯おごってもらうの〜」

「動機が不純なのよ!」


 ネムは単独で飛行し、その他はワイバーンの背に乗りユーキ救出に飛び立って行った。


 その頃、色んな意味でヘクトルに苦戦しているアイバーン。


「く、来るな! アイスニードル‼︎」


 アイバーンの足元から伸びた氷の槍がヘクトルに向かって行くが、何も無いかのように無防備で突き進んで来るヘクトル。


「ヌルいわよ〜!」

「くっ! ダイヤモンドダスト‼︎」


 ヘクトルと距離を取りつつ攻撃するアイバーン。

 空中に出来た氷の結晶がヘクトルの体に付着し、徐々にヘクトルの動きを封じて行く。


「う〜ん……なんのお‼︎」


 体をグッと縮ませてから大きく大の字に両手足を広げ、体に張り付いた氷を弾き飛ばすヘクトル。


「ダメダメ〜ん。この程度の氷じゃあ、あたしの燃えるハートは凍らせられないわよん!」

「むう……どうにもやりにくいな……」


「なあに? あたしが女だからって遠慮してるのお?」

「いや、間違いなく男だろう!」

「体は男でも、心は乙女なのよお」

「オネエという奴か……くだらない」


「あらヤダ! なあに? オネエをバカにするの? あなた、以外と器が小さいのね?」

「いや、別に貴様がオネエだろうと同性愛者だろうと、とやかく言うつもりはない。だが……心が乙女だと言うなら、せめて女性らしい可愛い格好をしろっ‼︎」

「体がゴツすぎて似合う服が無いのよ‼︎」





 

 

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