第56話 シリアスに行くかコメディに行くか?

 北側を包囲していたキングの部隊が進軍を開始する。

 これにより、遂にシェーレ城の全方向からパラス軍が押し寄せて来る事となる。


「あれはキングさんの部隊ですわ! カオス様はいよいよ本気ですわ!」


 そんなノインに意志の確認を取るパティ。


「ナンバーキング。実質ナンバーズの2番手って事ね。だけどあんた達はいいの? ここに居たら巻き添えを食うかもしれないわよ? 今からでもパラス軍に帰れば……」


「いいえ、確かにきっかけはセラお姉様の魔法によるものかもしれません。でも今は、みなさんと一緒に居る事がとても楽しいと、心からそう思えるんですわ。これは洗脳なんかじゃなく、魂がそう感じているんですわ。だからわたくしはここで、この戦いの行く末を見届けたいと思いますわ」


「僕だってそうだよ。でもまあ、レノ兄さんに負けた事は正直悔しいから、この戦いが終わったら再戦を申し込むつもりだけどね」


「そう、分かったわ……死亡フラグにならなきゃいいわね」

「そういう事言うのはやめていただきたいですわ!」


 だが、城を取り囲むパラス軍を見たノインが、妙な違和感を感じていた。


「変、ですわ……」

「変って、レノの顔が?」

「うおいっ!」


「ナンバーエースさんが見当たりませんわ」

「ナンバーエースってナンバーズ最強っていう?」


「ハイ。ああ、見当たらないって言っても、わたくしはエースさんに直接お会いした事はありませんのでお顔は分かりませんが、それらしい魔力を感じないんですわ。他のナンバーズの方やカオス様の魔力はこんなにも感じられるのに……」


「実はエースって物凄く弱いんじゃないの?」

「ま、まさかですわ」

「エースが弱いなんて事はないよ」


 さっき動いてすぐ動かなくなっていたラケルが、いつのまにかパティ達の隣に来て呟く。


「ラケル⁉︎ あんた、また戻って来たの? ああそれよりエースが弱くないって、あんたはエースの事を知ってるの?」

「うん。ボク達フェイスカードの3人とエースは、一応みんな顔合わせはしてるからね。だからこそ知ってる。エースは間違いなくナンバーズ最強だよ」


「じゃああんたから見てどうなのよ⁉︎ 敵の中にエースは居るの?」

「ちょっと待ってね」


 城のバルコニーをぐるりと一周回って確認するラケル。


「居ない……どこかに姿を隠してるのかもしれないけど、今見た感じだとどこにも居ない……」

「それって、ここには来てないって事?」

「分からないけど、元々エースはカオスの命令をあまり聞かない奴だったから、今回も自由行動してる可能性はあるよ」


「え、ちょっと待ってよ! ここに来てないとすると、まさか今パラスに居るんじゃ⁉︎」

「⁉︎」


 パティ達に、嫌な予感が走る。


「ねえ、ベールさんは元気になったんでしょ⁉︎ だったら早くみんなで帰って来なさいよ!」

「うん、分かった。もしエースに出くわしたら大変だからね。ひとっ飛びで帰るよ、じゃ!」


 そう言い残すと、ラケルは電池が切れたように座り込み、動かなくなる。


「遊びでやってんじゃないんだよ!」


 再びマニアックな言葉を発しながらベールが目覚めるが、誰からもツッコミが入らなかった。


「え⁉︎ みなさんはどこに⁉︎ パル⁉︎ チル⁉︎」


 馬車の中に誰も居ない事に焦っていると、外の話し声に気付くベール。


「外⁉︎」


 慌てて馬車の外に飛び出したベールだったが、ユーキ達が話している相手を見て絶望的な表情になる。


「いきなり馬車の前に出て来て危ないでしょ⁉︎ 僕達に何か用?」

「はじめまして、マナ王女。いや、ユーキさんとお呼びした方がいいのかな?」

「⁉︎ 僕の事を知ってるって事は君、もしかしてナンバーズ?」


「そうだよ。僕はサーティーンナンバーズのナンバーエース、ウーノだ」

「エース⁉︎」


 一斉に身構えるユーキ達。


「へえ、君がキ◯アエースか」

「ナンバーエースだよ。人をプリキ◯アみたいに言わないでほしいね」

「あくまで冷静な返し、侮れませんねぇ」


「エース! 何故あなたがここに居るんですか⁉︎」

「あなたは、魔力から察するにクイーンかな? それが本体? それとも、それも仮の姿かい?」

「質問に質問で返すんじゃありません!」


「質問? ああ、休日の過ごし方だったかな?」

「誰もそんな事聞いてません!」

「ちゃんとボケまで入れて来るとは、恐るべしですぅ」

「セラお姉ちゃん、さっきから何に感心してるの⁉︎」


「フフッ、冗談だよ。僕が何故ここに居るかと聞かれても、僕はパラス軍のサーティーンナンバーズなんだ。その僕がパラスに居て何の不思議があるって言うんだい? むしろリーゼルのマナ王女やヴェルンのセラ王女がこのパラスに居る事の方が不自然だと思うけどね?」

「くっ!」


 ベールの頬を冷や汗が伝うが、いきなり明るい表情と声に変わるベール。


「それもそうですね! じゃあ私達は行きますから! ごきげんよう!」

「ああ、気を付けて……て黙って見過ごす訳無いだろ⁉︎」


「ノリツッコミまで⁉︎ 完璧超人ですかぁ⁉︎」

「だからもっと緊張感を持って、セラお姉ちゃん!」






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