第55話 意味不明だけど言いたくなるよね?

「せっかく会えたんですもの、逃がさないわよぉ。アイスコフィン‼︎」


 アイバーンとヘクトルを囲むように正方形の氷のドームが形成される。


「貴様も氷使いか⁉︎ しかしこれは何の真似だ?」

「あたし達の戦いを誰にも邪魔されないようによ」

「分からんな。数は貴様達の方が圧倒的に上なのだ。むしろこれは私の方に都合がいい事になる」


「もお〜、だから言ったでしょお! 誰にも邪魔されないようにって。これなら思う存分楽しめるわ!」

「念の為聞いておくが、楽しむというのは戦いの事だろうな?」

「……勿論よ」

「今の間は何だっ⁉︎」


「何でもいいじゃない! さあ、行くわよ! 魔装‼︎」


 アイバーンと同じような鎧に、小型の剣と盾が装着された魔装衣をまとうヘクトル。


「さあ、これで防寒対策はバッチリよ! かかって来なさい、アイちゃん!」

「ふざけているように見えるが、その実力は本物……全力でお相手させていただく」


 そう言って大剣をゆっくりと鞘から抜くアイバーン。


「アイバーン様がいきなり剣を抜いた⁉︎ やはりそれ程の相手、という事でしょうか」


 本陣に居るカオスに、現状報告が入る。


「報告‼︎ ヘクトル様の部隊が敵の妨害に合い進軍停止‼︎ ヘクトル様はトゥマール王国騎士団団長のアイバーンと交戦中‼︎」

「そうか、ヘクトルはアイバーンとのバトルに入ったか……よし! なら今度はクイーンの召喚獣部隊を前に出せ!」

「ハッ‼︎」


 カオスよりの命令をクイーンと思われる人物に伝えるパラス兵。

 しかしクイーンは何も反応せず、ただ椅子に座っているだけだった。


「あ、あの! クイーン様‼︎ カオス様より出撃命令です‼︎ クイーン様‼︎」

「うひゃっ‼︎ え⁉︎ え⁉︎ な、何⁉︎」


 今気付いたように激しく動揺するクイーン。


「うひゃって……あいや、ですからカオス様より召喚獣部隊を進軍させよとのご命令です‼︎」


 先程の動揺を無かった事にするかのように落ち着いて応えるクイーン。


「分かった。わらわに任せよ」

「あ、ハイ! よろしくお願いします‼︎」


 その直後、シェーレ城の王室でずっと椅子に座って眠ったままだったラケルが飛び起きる。


「ユニバァァァス‼︎」

「何っ⁉︎ ハ◯ー・オード⁉︎」


 いきなり飛び起きるラケルにビクッとなるパティ達。


「何よラケル、いきなり叫んで⁉︎ ビックリするじゃないの⁉︎」

「ああゴメン! しばらくラケルから離れてたから。そんな事より、クイーンの召喚獣部隊に進軍命令が出たんだ!」

「召喚獣部隊……」


「今はまだ裏切った事をカオスに知られる訳にはいかないから命令には従うけど、適当に手を抜くからみんなも合わせてほしいんだ!」

「なるほど。ではここは私の出番ですね」


「フィー⁉︎ ならあたしも!」

「不要です。パティにはまだ控えているナンバーズの相手をしてもらわないといけませんからね」

「だけど、いくら手を抜くって言ってもあんたひとりじゃ⁉︎」


「いいえ、ひとりではありません。ここはかつて大勢のシェーレの民が虐殺された場所。ならば私の能力を最大限に発揮できますので」

「あんたの能力って、まさか⁉︎」

「ネムさん達がここに居なくて良かったです。少々嫌なものを見る事になったでしょうから……」


 そして、シェーレ城の西側に出たフィーがデスサイズを具現化して魔装する。


「魔装‼︎ アーンド、ネザーワールド‼︎」


 鎌を右手に持ち、両腕を左右に広げて叫ぶと、巨大な魔方陣が現れ、そこから無数のゾンビやガイコツが現れる。


「さあ、バイト代をはずみますのでよろしくお願いしますね」

「うおお! やった〜!」

「頑張るぞ〜!」

「生きてて良かった〜!」

「いや、死んでるっての!」


「な、なんてシュールな光景なの……」


 その様子をバルコニーから見ていたパティ達が、呆気に取られていた。


「そして、私も行きます!」


 デスサイズをクルリと回して、魔装具を魔道書タイプに変化させるフィー。


「ありったけの魔獣、出て来なさい!」


 アンデッド達に続いて、出せる限りの魔獣を召喚するフィー。


「行ってらっしゃいませ!」


 フィーが腕を前に出すと、召喚された様々な魔獣がクイーンの魔獣に向かって行き、戦闘状態となる。


「これでしばらくの間、バカ兄さんを騙せたらいいんですけどね」


 その様子はすぐさまカオスに知らされる。


「報告‼︎ クイーン様の召喚獣部隊が敵の召喚獣、並びにアンデッド達により進行を阻止されています‼︎」


「アンデッド……フッ、フィーの奴か。だが、これで警戒すべき戦力はアイリスとパティだけになった訳だ。だが今のアイリスは戦力にはならないだろうからな。となると、後は……姪っ子か……よし! キングの部隊を出せ!」

「ハッ‼︎」

 

「ふう、やっと出番が来おったか。待ちくたびれたわい。よ〜し、全軍進めええ‼︎」

「おお〜‼︎」


 号令の下に、シェーレ城の北側より攻め込むキングの部隊。


 一方パラスにあるベールの小屋の中では、ユーキ達が突然動かなくなったベールを覗き込んでいた。


「ベールさん動かなくなっちゃったよ?」

「大丈夫ですぅ。体はどこも異常ありませんからぁ、寝てるだけじゃないですかぁ?」

「シェーレに居た頃、リコッタさんもたまに動かなくなる事があったのよ」

「動かない時は叩けば直るの〜」

「いや、古い機械じゃないんだから!」


「多分今、他の召喚獣の所に意識が飛んでるんだと思う」

「そっか。ベールさん今、複数の召喚獣を同時に操ってるんだもんね。でも戦場でこんな状態になったら危ないよ?」

「だからネムには、ボディガードロロがついているのです!」


 みんなであれこれ話していると、ベールの意識が帰って来る。


「なんとぉ〜‼︎」

「シー◯ック・アノーかっ‼︎」


「母様帰って来たのよ!」

「おみやげちょうだいなの〜」

「意識だけでどうやっておみやげ持って帰るのよ⁉︎」


「ごめんなさいね。今ちょっとシェーレの状況を見に行ってて……て何でみんな手にペンを持ってるんですかっ⁉︎」






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