第54話 キャラ暴走注意報発令中!

 魔装した後、城より少し離れた場所でパラス軍を待ち受けるアイバーンとブレン。

 同じく魔装してバルコニーで弓を構えるメルク。

 そして、パラス軍の射程距離よりも遥かに遠い距離から矢を放つメルク。


「行きます! 那由他‼︎」


 メルクより放たれた矢は弧を描いて飛ぶのではなく、レーザービームのようにただただ一直線にパラス軍の先頭に居た兵士を貫く。


「ぐああっ‼︎」

「何だっ⁉︎ 敵襲⁉︎」

「いや、しかし一体どこから⁉︎」

「近くに敵影は見えないぞ⁉︎」


「無詠唱ですからね。死ぬ事は無いでしょう。でも、向かって来るというなら容赦はしませんよ! 那由他‼︎」


 2射3射と的確にパラス兵を貫いて行くメルクの矢。


「くっ! 重装部隊前へ‼︎」


 厚い鎧に覆われた重装部隊で最前列を固めるパラス軍。

 しかしメルクの矢はそんな鎧を物ともせず、いとも簡単に貫いて行くのだった。

 

「ぐああっ‼︎」

「装甲を貫いて来たああ‼︎」

「ダ、ダメです‼︎ 防ぎきれません‼︎」

「な、ならば魔法障壁を貼れ‼︎ 魔法で作られた矢ならそれで防げる筈だ‼︎」


 だが結果は同じだった。

 メルクの矢はあらゆる防御を物ともせず、1射ごとに確実にひとりずつパラス兵を倒していった。

 そんな様子を見たアイバーンとブレンも、メルクの成長に感心していた。


「メルクの奴、やるじゃないか‼︎」

「あいつは元々私以上の素質を持っていた。当然の結果さ」

「ハッハア‼︎ だがこのままだとメルクひとりで全員を倒してしまいそうだぞ⁉︎」

「フッ、それならそれで別に構わんさ」


 だがやはり、そう簡単には行かなかった。

 パラス軍は数にものを言わせて密集隊形をとり、前衛の兵が倒されても御構い無しに突き進むのだった。


「負傷した兵に構うな‼︎ 進め‼︎ 進めぇ‼︎」

「くっ! やはり僕ひとりでは捌ききれませんか。アイバーン様、ブレン様、後はよろしくお願いします」


「押され始めたか……ならば」

「待て、アイバーン!」


 前に出ようとするアイバーンを、腕を横に出して止めるブレン。


「お前はナンバーズとの戦いが控えている、ここは俺様に任せろ!」

「ブレン⁉︎ しかし、あの数が相手ではいくら貴様とて……」

「見くびってもらっては困る。俺様の能力は、むしろ多勢を相手にした時にこそ真価を発揮する。まあそこで出番が来るまでおとなしく見ていろ」


 そう言い放ち、ぐんと前に出てから炎熱魔法を放つブレン。


「エルツィオーネ‼︎」


 ブレンより立ち昇った炎が火炎弾となり、パラス兵の頭上より降り注ぐ。


「ぐわあっ! こ、今度は炎の塊があ‼︎」

「シールド防御‼︎」


 盾を持った重装部隊が集まり、前方と頭上を完全に盾で囲ってしまう。


「バカめ! 俺様の炎に防御など関係無い!」


 ブレンの言葉通り炎によるダメージではなく、その高熱により蒸し焼き状態となり次々に倒れて行くパラス兵。


「いかんっ! これでは熱がこもるだけだ! 散開! 散開〜‼︎」


 密集隊形をやめ、お互いの距離を取るパラス兵だったが、その隙を狙い詰めメルクの矢が射抜く。


「くそっ! どっちを防御したらいいんだ⁉︎」

「くっ、構うな‼︎ 数で押し切れええ‼︎」


「むざむざ行かせると思うな! アイスフィールド‼︎」


 ブレンの遥か後方より放たれたアイバーンの氷が地面を走り、パラス兵達の足を凍らせ動きを封じる。


「あ、足が凍りついて動けねぇ!」

「防御もできねぇ、進む事もできねぇ、一体どうすりゃいいんだ⁉︎」

「うろたえるな‼︎」


 完全に浮き足立っていたパラス兵を一喝する声が響く。

 アイバーンの氷を物ともせず歩くその男は、ノインがナンバージャックと呼んだ男だった。

 そしてジャックはブレンと対峙する。


「お前は確か……ジャックポット!」

「ナンバージャックだ! 人を大当たりみたいに言うんじゃない!」

「なるほど、確かに別格と言われるだけの事はあるぜ。魔力がビンビン伝わってきやがる」


「君は確か、トゥマール王国騎士団副団長のブレン?」

「俺様の事を知ってるのか? フフッ、俺様も有名になったもんだ」

「敵の事は当然調べているんでね。それで? 君が俺の相手をしてくれるのかな?」

「そうしたい所だが、お前の相手はもうアイバーンと決まってるんでな。行きな!」


 手を出す事なく、ジャックを行かせるブレン。


「そうか……では遠慮なく行かせてもらうよ」


 そしてアイバーンと対峙するジャック。


「貴様が……ジャックと豆の木か?」

「ナンバージャックだ! 変な物を付けるんじゃない! 俺はサーティーンナンバーズ、フェイスカード、ナンバージャックのヘクトルだ! お前がトゥマール王国騎士団団長のアイバーンだな⁉︎」


「こちらの事は調査済み、という事か。そうだ、私がアイバーンだ。貴様個人に恨みは無いが統一国の為、ユーキ君の為に、倒させてもらう」


 黙ったままじっとアイバーンを睨みつけるヘクトル。


「いや〜ん! アイちゃんやっぱりカッコイイ〜! いえ、むしろ写真で見るより断然男前だわ〜!」

「な、何だ⁉︎ 口調が……」


 急にオネエ口調になるヘクトル。

 そんなヘクトルの豹変ぶりにたじろぐアイバーン。


「あたしBL隊のメンバーの写真を見た時ぃ、アイちゃんに一目惚れしちゃったのよね〜。だからだから〜、あたしの戦う相手は絶対にあなたって決めてたの〜!」


 顔が引きつっているアイバーン。


「ブ、ブレン‼︎ ナンバージャックの相手は貴様に譲ってやろう‼︎」

「いや、遠慮しておく……」


「メルク‼︎」

「お断りします……」

「ぐっ、むむむむむ……」


 違う意味で大ピンチを迎えたアイバーンであった。






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