第43話 安心してください、生き返りますよ!
バジリスクを倒したネムが魔法障壁の破壊を試みるが、獣魔装したネムのパワーを持ってしても壊す事は出来なかった。
「もう! 何なのこの壁! 早くパル達を助けに行かないと、もうあの娘達限界なのに……」
ネムが危惧した通り、もうまともに走る事もままならないパルとチル。
「こんな事なら、もっと、お腹いっぱい、食べておきたかったの〜」
「な、何最後みたいに言ってるのよ! 見るのよ! ネム姉様がバジリスクを倒したのよ! あと少し頑張れば、必ず助けてくれるのよ!」
「でもチル達はネム姉様達の敵なの〜。別に助ける義理は無いの〜」
「うぐっ! そ、それでも! 最後まで諦めたらダメなのよ! パル達が諦めたら誰が母様を助けるのよ!」
「うん。だからその役はパルに任せるの〜」
「な、何言って……⁉︎」
チルにドンと背中を押されるパル。
「何する……⁉︎」
パルが後ろを振り返った時、力尽き倒れ込んだチルに向けて、バジリスクの巨大な尻尾が振り下ろされようとしていた。
「チル‼︎」
うつ伏せに倒れた状態で、グッと親指を立てるチル。
「後は任せた、なの〜」
そして無情にも、尻尾の下敷きとなるチル。
「チルううううっ‼︎」
「そんな‼︎」
「フフ、まずは1人。さあ、寂しくないようにすぐに姉も送ってあげますよ」
「貴様あっ‼︎」
激しい土埃が舞う中、ボー然と立ち尽くすパル。
「チル……何、やってるのよ? 何ふざけてるのよ? そんなボケは笑えないのよ……母様と3人で、またシェーレで楽しく暮らそうって約束したのよ……いくら母様を助けても、チルが居ないんじゃ、意味無いのよ……パルは、チルが居ないと何にも出来ないのよ……絵は描けても、パル1人の魔力では魔獣を召喚出来ないのよ……ご飯だって、チルが作ってくれないと、パルはずっとカプ麺ばかりなのよ……夜だって、チルが隣に居てくれないと、安心して眠れないのよ……それなのに……それなのに……この……この……バカチルがあああ‼︎」
激しく泣き叫ぶパル。
「バカって言う方がバカなの〜」
「チル⁉︎」
パルがバッと顔を上げると、空間に漂っている魔力が集まり、チルの形になって行く。
その魔力がパルと重なると、精神世界に入り込むパル。
「チ……ル?」
「呼ばれたので参上つかまつったの〜」
「な、何なのよ⁉︎ これは一体どういう状況なのよ⁉︎」
「三浪記念って奴なの〜」
「もしかして残留思念って言いたいのよ⁉︎」
「それなの〜。今のチル達じゃあの魔獣に勝てないから、ネム姉様みたいにパルと合体するの〜」
「合体って……あれはおそらくロロ姉様が召喚獣だから出来る事であって、パルとチルでは無理なのよ!」
「大丈夫、出来るの〜」
「え⁉︎ それってまさか、チルも召喚獣……」
「チルは普通の人間なの〜。同じ日に産まれてずっと一緒に育って来たの〜。パルが1番間近で見てきた筈なの〜。バカなの〜?」
「バカって言う方がバカって自分で言ったばかりなのよ‼︎ じゃあ何なのよ⁉︎ 何を根拠に言ってるのよ!」
「召喚獣は魔力が集まって形になってるの〜。だからこうやって肉体を抜け出して魔力の塊になってしまえば出来るって思ったの〜」
「んなっ⁉︎ そ、そんな、何の保証も無いのにそんな無茶な事……やっぱりチルはバカなのよ‼︎」
「またバカって言ったの〜。バカって言う方が……」
「それはもういいのよ‼︎ 普段はとぼけた顔してるくせに、出来るかどうかも分からないのにこんな簡単に命を捨てて……本当にチルはバカなのよ……」
「あのままだとどうせ2人共間違いなく死んでたの〜。それならパル1人だけでも生き残れたらお得なの〜。それにユーキ姉様が言ってたの〜。出来ると強く思えば何だって出来るの〜。チルとパルなら必ず出来るの〜。そして終わったら生き返らせてもらうの〜」
「生き、返れる……?」
生き返る可能性があると分かり、グッと袖で涙を拭くパル。
「……分かったのよ! やってやるのよ! チルと2人なら何だって出来るのよ! そしてあいつをぶっ飛ばした後はチルもぶっ飛ばすのよ!」
「命を張ったのに割りが合わないの〜」
パル達にとっては長い時間に感じられたが、周りからすればほんの数秒間の出来事だった。
「ああああああああ‼︎」
激しい雄叫びを上げるパル。
パルを包んでいた光が消えると、少し成長した姿のパルが現れる。
その姿に驚くユーキ達。
「まるでネムちゃんみたいですぅ」
「え⁉︎ もしかして魔装⁉︎」
チルを押し潰したバジリスクが、今度は大きく振りかぶった頭で、パルをなぎ払おうとする。
「ウオオオオ‼︎ なのよおおお‼︎」
その頭をカウンターパンチで殴り飛ばすパル。
「キシャアアアア‼︎」
「素手で殴った⁉︎ あれ、やっぱり魔装だ‼︎」
そんなパルを見て、ジョーカーと戦っていたアイバーン達もまた驚いていた。
「パルちゃん、バジリスクを素手で殴り飛ばしましたね……」
「殴り飛ばしたぞ……」
「殴り飛ばしたな……」
「バ、バカな⁉︎ 何故あの小娘にそんな芸当が⁉︎」
「どうやら貴様はあの娘達をナメ過ぎていたようだな」
「く……! し、しかし! まだ私のバジリスクの方が強いようです! 魔法障壁が破れない限り、どの道あの娘はいずれ力尽きて死ぬだけですよ!」
ジョーカーの言葉通り、何とか戦えてはいるものの、徐々に押され始めるパル。
「ダメだ! いくら魔装しても、魔力と体力がもう限界なんだ! 早く助けないと!」
「でもぉ、この壁を壊せない限り、助けたくても助けられませんよぉ!」
「むぐぅ」
少し考えた後、ユーキが決断する。
「よし! なら僕が魔力解放してこの魔法障壁だけは絶対に壊すから、みんなは後お願い!」
「ダメよユーキ‼︎」
倒れたままのパティが、激しく反対する。
「忘れたの⁉︎ 今のユーキの魔装具は使い捨てなのよ! 例えそれで魔法障壁を破壊出来たとしても、その後ユーキは完全に無防備になるわ! 得体の知れない敵が潜んでいる以上、そんなの絶対ダメよ!」
そんなパティに優しく微笑むユーキ。
「うん。だから後の事はお願いね。みんなでパルを助けてあげて」
「まず自分の事を心配しなさい! ユーキ‼︎」
「ゴメンパティ! 魔そ……」
「ユーキちゃん! セラちゃん! どいて‼︎」
ユーキが正に魔装しようとした時、突如ユーキ達の後ろから叫び声が響く。
振り返るとそこには、ずっと魔力を溜め続けていたラケルが、巨大なハンマーを大きく振りかぶっていた。
「ラケル⁉︎」
瞬時に状況を理解したユーキとセラがサッと横にかわすと同時に、巨大ハンマーが振り下ろされる。
「ジャッジメントぉ! ハンマーあああああ‼︎」
ハンマーが魔法障壁に当たると凄まじい爆音が響き渡る。
そして静まり返った後、ハンマーが炸裂した箇所からひび割れるように、魔法障壁が砕け落ちて行く。
「やった‼︎ 魔法障壁が壊れた‼︎ 凄いよラケル‼︎」
「私や猫さんでも壊せなかったのに、ビックリですぅ」
そんな様子を見て、先程以上に驚いているアイバーン達。
そして、開いた口が塞がらないジョーカー。
「バ……バカ、な……私の魔法障壁が……」
「魔法障壁、壊れましたね……」
「壊れたぞ……」
「壊れたな……」
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