第42話 何だ貴様はってか⁉︎

「この! フニャッ! ウニャニャニャニャー‼︎」


 猫パンチに猫キック、猫スラッシュまで繰り出す猫師匠だったが、やはり魔法障壁はビクともしなかった。


「あ、あたしは女神ニャ……何で壊せないニャ……プ、プライドズタズタニャ……」


 しゃがみ込んでいじける猫師匠。


「シャル様のプライドはどうでもいいですが、シャル様の魔力をもってしても破壊出来ないとなると、これを作った術者はちょっとシャレにならない相手のようですね」


 魔法障壁に閉じ込められ、ただ逃げる事しか出来ないパルとチル。


「せ、せめて、ハアハア……ニーズヘッグがこちら側に居れば、ハアハア……何とかなったかも……なのよ」

「ネム姉様のとこにお邪魔してるの〜。魔力も無いし体力も限界なの〜」


 そのニーズヘッグも魔力が尽き、今にも消滅しそうな状態だった。

 そんな様子をチラッと見たネムが、パル達にたずねる。


「ねえ! パル! チル! ちょっとこの子借りてもいい⁉︎ 地面に落ちてた魔石、全部あのニョロロに食べられちゃったから、召喚出来ないんだ!」


 バジリスクの攻撃をかわしつつ、ネムの問いに答えるパル。


「か、貸してって言われても……ハア、その子にはもう戦えるだけの魔力は残ってないのよ!」

「それは大丈夫! ネムの魔力を分けてあげるから!」


「そ、それならどうぞなのよ! ハアハア……どの道、消えるのを待つだけなのよ!」

「どうぞウチの子をもらってやってくださいなの〜」


「うん。ありがと! じゃあ行くよ! ニズヘー!」

「グ、グオ⁉︎」

「ネーミングセンスが酷いのよ!」


「獣魔装‼︎ ニーズヘッグ‼︎」


 ネムの周りに魔方陣が現れ、光の粒子となったニーズヘッグがネムの体と重なりより強い光を放つ。

 そしてその光が消えると、龍を思わせる漆黒の鎧と翼をまとったネムが現れる。


「んなあっ‼︎ な、何なのよ⁉︎ ネム姉様のあの姿は⁉︎」

「獣魔装……あれならもうネムは心配いらない! 僕達はパルとチルを救出する事に集中しよう!」

「了解ですぅ」


 ネムが久々に獣魔装を披露した頃、パティの示した場所に到着したアイバーン達。


「パティ君が指示した場所はおそらくこの辺りだと思うが……」

「それらしい人は見当たりませんね」

「ふむ……パティ君の魔力探知にも中々引っかからなかったぐらいだ、かなり巧妙に潜んでいるんだろう」


「どうするアイバーン⁉︎ 姿も見えない、魔力も感じないでは攻撃の仕様が無いぞ⁉︎」

「ふ、なあに。見えないならいぶり出せばいい。アブソリュートゼロ‼︎」


 アイバーンが大剣を地面に突くと、アイバーン達を中心に氷の輪が広がり、空間を凍らせて行く。

 死角が無いように3人がお互いに背を付け、集中して氷の輪を見ていた。

 すると、輪の端がわずかに揺らいだのを見たメルクが、素早くその場所目がけ、矢を放つ。


「そこ! サウザンドアロー‼︎」


 メルクの放った水の矢の一部が、何も無い空間で止まり霧散した。


「よく見つけましたね。ほめてあげますよ」


 空間の中からスゥッと姿を現わすジョーカー。


「何だ貴様は⁉︎」

「フフフ。私はジョーカー。一応、サーティーンナンバーズの一員、という事になるんでしょうかね?」

「ジョーカー……」


「なるほど。サーティーンナンバーズがトランプを模しているなら、当然ジョーカーも居て不思議は無いか」

「そういう事です。まあもっとも、私は他のナンバーズと馴れ合うつもりはありませんけどね」


「ボッチなのか?」

「失礼ですね! 自らの意志で単独行動をしているんです!」


「そうか……では一応聞いておくが、あのバジリスクや魔法障壁を出したのは貴様か?」

「だとしたらどうします?」


「でもそれっておかしいじゃないですか⁉︎ あなたもナンバーズなんでしょう? そのナンバーズが何故同じナンバーズのパルちゃんとチルちゃんを攻撃するんですか⁉︎」

「あの娘達はあなた方と馴れ合い過ぎたのでもう信用出来ません。したがって、あの召喚士の娘共々消えて頂きます」


「仲間すら簡単に切り捨てるか……よくそこまで非情になれるものだ。俺達には到底信じられんな」

「あの双子姉妹が不要と言うなら、助け出してBL隊に迎え入れる。その為にも貴様をここで倒す!」

「私を倒す? 出来ますか? レベル7ですらないあなた方に?」

「いつまでもグダグダ言ってんじゃねぇっ‼︎」


 痺れを切らしたブレンが魔装すると、同時に魔装したメルクがジョーカーに向けて矢を放つ。


「エターナルレイン‼︎」

「この程度の矢が通用しない事は、先程の攻撃で分かったでしょう?」


 魔装具を具現化もせず、素手でメルクの矢を防ぐジョーカー。


「その矢は攻撃の為ではない! ダイヤモンドダスト‼︎」


 同じく黄金の鎧をまとったアイバーンが大剣を天にかざすと、空間に霧散したメルクの矢の水が一気に凍り始める。

 そしてその氷がジョーカーの体にまとわり付き、ジョーカーの動きを鈍らせて行く。


「なるほど。これが狙いでしたか? しかし、私の動きを封じる程ではありませんでしたね」

「一瞬でもお前の動きを止められればいいんだよ!」

「何っ⁉︎」


 ジョーカーが下を向いた時、既に間合いに入り込んでいたブレンが、至近距離から居合斬りを炸裂させる。


「グゥッ!」

「やった‼︎ 決まりました‼︎」

「いや、まだだ」


 アイバーンの言うように、勢いで飛ばされはしたものの、ジョーカーは全くの無傷だった。


「まさか⁉︎ 僕達3人の連携攻撃で傷ひとつ負わせられないなんて⁉︎」

「別に驚く事はありませんよ。残りのナンバーズ4人は皆、この程度の攻撃では傷ひとつ付けられませんよ」


「何を言うか! 俺様とメルクは既にそのナンバーズを倒してここに居るんだ! まだ戦ってはいないが、俺様と同等の強さを持つアイバーンなら言うまでもない!」


「フウッ。あなた方は何か勘違いをされているみたいですねぇ」

「何をっ⁉︎」


「サーティーンナンバーズは例外のエースを除いて、確かに強い者程大きい数字を頂きます。しかし! ナンバー2からナンバー10までの9人と、エースを含めた上位4人との間には、比べ物にならない程の差があるんですよ!」


「そ、そんな……せっかくあと4人にまで迫ったのに……」

「ふむ……それで、貴様はどちら側なのだ⁉︎」

「……フフ。まあ、今の状態をご覧になれば、分かって頂けるかと」


「なるほど。では今は、ひとりである貴様を倒す絶好のチャンスという事だな」

「あなた方に私が倒せますか⁉︎ 現に私が作った魔法障壁を誰も壊せないではないですかっ! バジリスクとて同じです! あの魔獣の強さは私の強さにも匹敵する程です! とてもあなた方に倒せるものではっ!」


「キシャアアアア‼︎」


 魔獣の声にアイバーン達が振り向くと、そのバジリスクが獣魔装したネムに倒されて消滅していく所だった。


「へ⁉︎」

「あ、ネムちゃんがバジリスク倒しましたね……」

「倒したぞ……」

「倒したな……」


 ボー然としているジョーカーを、じと〜っとした目で見るアイバーン達。


「……わ、私の力に遠く及ばないバジリスクを倒したぐらいで、いい気にならない事ですねっ!」


「この人、言い直しましたね……」

「言い直したぞ……」

「言い直したな……」




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