第32話 ほのぼのシーンを見せておいてから殺す、アニメでよくやる手法

 パルとチルではなく、パティを警戒しつつどうにかリーゼル城に帰って来たユーキ達を、マルス国王とレナ王妃が出迎える。


「おかえりなさいマナちゃん、みんな〜」

「ただいま。母様」

「目的のスペシャルパフェとやらは食べられたのかい?」

「うん、凄く美味しかったよ。父様」

「また行きたいの〜」

「ま、まああれなら行ってやってもいいのよ」

「んなっ⁉︎」


 パルとチルを見たマルス国王とレナ王妃が絶句していた。


「あ、あなた! マナちゃんがまた女の子を拾って来ましたよ!」

「またってゆ〜な! 紹介するよ。こっちが姉のパルで」

「パ、パルなのよ。よろしくなのよ」

「こっちが妹のチル」

「チルなの〜」


「まあ可愛い! 2人はそっくりだけど、もしかして双子ちゃんかしら〜?」

「そうなの〜」


「ねえ父様。この娘達、泊まる所が無いみたいなんだ。だからお城に泊めてあげてもいいかな?」

「勿論だとも! ずっと居ていいぞ! 一生居てもいいぞ! 何なら私達の娘になってくれてもいいぞ! いや、むしろなってほしいぞ!」


「ああハイハイ分かったから、ありがとね父様」

「おおうっ! そんなツンデレなマナちゃんもまた可愛いぞ!」


「あ、そんな訳だからごめんなさい母様。今夜からはこの娘達の分の食事もお願いします」

「ええ、分かったわ〜。また賑やかになって母さん嬉しいわ〜」

「オヤツもお忘れなきようになの〜」

「お任せ〜!」

(何だか母様が2人居るみたい……)


 その夜、パルとチルを招いての晩餐会がひらかれた。


「トゥマールのご飯も美味しかったけど、ここの方が美味しいの〜」

「確かに美味しいのよ。今まで食べた事の無い料理がいっぱいなのよ」

「お口に合ったみたいで何よりね〜」


 宴も終わりに近付いた頃、パル&チルの身の上話を聞くレナ王妃。


「そう、ずっと2人で旅してたのね? 大変だったわね〜」

「チルと一緒だったから耐えられたのよ」

「パルは足手まといだったの〜」

「そんな事言う悪い口はこうなのよ!」


 チルの両頬を思いっきり引っ張るパル。


「ほへんははいはほ〜、へほひっはっははふひはほ〜ひふはっへひひほひひっはいほはんほふへほへへひ〜はほはほ〜(ごめんなさいなの〜、でも引っ張ったら口が大きくなって一度にいっぱいご飯を詰め込めていいかもなの〜)」


「ウフフ、仲が良くていいわね〜」

「見ての通りケンカしてるのよ!」


 そして晩餐の後は、みんなでユーキがトゥマールでゲットして来たゲームの内の、爆弾魔というソフトで遊んでいた。


「何てタイトルよ!」


「チル! 何でパルの前に爆弾を置くのよ!」

「相手チームと間違えたの〜」

「計画的犯行の匂いがプンプンするのよ!」

「じゃあチーム変えしてもっかいやろ⁉︎」


「チル〜! 何でさっきからパルにばっかり爆弾投げて来るのよ〜!」

「気のせいなの〜。たまたま目の前に居たのがパルだったの〜。誰がどのユニットかよく分かってないの〜」

「も、もっかいやろ、もっかい!」


「ってコントローラー変えたのにやっぱり分かってて追いかけて来てるのよ〜!」

「そういうパルだって追いかけてるのがチルだって分かってるの〜」

「こんな陰湿なプレイするのはチルしか居ないからなのよ〜!」


 そんな感じで夜更けまでゲームを遊びまくったユーキ達も、ようやく眠りにつく。

 2人でひと部屋となったパルとチル。

 みんなが寝静まった頃、ベランダの椅子に腰掛けて夜空を眺めているパル。


「まったく。何なのよあの連中は? 敵国の人間を。しかもパル達が自分達を狙っているナンバーズだと分かった上で、ご飯を食べさせてくれてゲームで遊んで、こんな立派な部屋に泊まらせてくれて……ホント、おかしな連中なのよ。でも……もしパル達を拾ってくれたのがユーキ王女達だったなら……」


 ふとそんな事を思っていると、チルもムクッと起きて来た。


「パル〜? どうしたの〜? 怖くてトイレに行けないの〜?」

「だったらこんなとこで佇んでる場合じゃないのよ!」

「窓からするのかと思ったの〜」

「そんな事するぐらいならいっそ布団で漏らすのよ!」

「ええ〜、だから布団の中が臭うの〜?」

「まだやってないのよ! てか別にトイレに行きたい訳じゃないのよ!」


「こんばんは」


 そんなパル達に、隣の部屋に泊まっているラケルがベランダから声をかける。


「あなたは⁉︎」

「オカマのラケルさんなの〜」

「オ、オカマはやめてよね! ボクはただ女装が趣味なだけの、いたってノーマルな男の子なんだから」

「それは全然ノーマルじゃないのよ」


「テンション上がり過ぎて寝付けない所に君達の話し声が聞こえたからさ。つい声をかけちゃったんだ」

「パルも……同じなのよ。あんなに笑ったのは、今までの長い人生の中で初めてなのよ」

「9歳の小娘が言うセリフじゃないの〜。でもチルも凄く楽しかったの〜」


 そんなパル達を見て、とても優しい表情になるラケル。


「ねえ! 君達は何でユーキちゃん達と戦おうとするの⁉︎ カオスの命令だから? それとも君達がナンバーズだから?」

「パ、パル達だって別に好きで戦う訳じゃないのよ!」

「じゃあ何で?」

「そ、それは……」

「トップシークレットなの〜」


「もし、何かの事情があって仕方なく戦ってるんなら、ユーキちゃん達に助けてもらったらどうかな? ボクはユーキちゃんとは最近知り合ったばかりだけど、それでもユーキちゃんがとても優しくていい子だって事は分かるよ」


「それは、パルにだって分かるのよ。でも、どうしても戦わない訳にはいかないのよ!」

「いかないの〜」

「やっぱり、何か事情があるみたいだね? でも、できればボクは2人には戦ってほしくないな〜」


「何で今日会ったばかりの人に、そんな事言われなきゃいけないのよ!」

「いや、2人を見てたら何だかほっとけなくてさ」


「もしかしてなの〜」

「何よ? チル」

「この人は見た目は女の子だけど中身は男だから、可愛いチル達を狙ってるの〜」

「そ、そういう事だったのよ⁉︎ 危うく毒牙にかかるとこだったのよ!」


「ぶう〜っ‼︎ ち、違うよ! ボクは女の子になんか興味無いから‼︎」

「お、女の子に興味が無いって事は男が好きって事なのよ! やっぱりオネエだったのよ!」

「ついに本性を現したの〜」

「あいや! そうじゃなくてね⁉︎ 見た目はこんなだけど、中身は違うって言うか。いや中身って言っても男の方じゃなくて……ああもうっ! ややこしいキャラ設定にしちゃったわね〜!」







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