第31話 目指せ美少女パラダイス

 ユーキの制止もあり、何とか凶行を思い止まったラケル。


「成敗するかどうかはちゃんと話を聞いてからね! 事情も知らないのに無闇に攻撃しない! 分かった⁉︎」


 ユーキに叱られてしょげているラケル。


「うん、分かった……」

「姫様っ⁉︎」


 店主や客達がユーキを見て騒ぎ始める。


「姫様! 帰ってらしたんですね⁉︎」

「おかえりなさい! 姫様!」


「あ、うん。ただいま。騒がしくしてゴメンね。それとおじさん。僕の連れがいきなりガラス割っちゃってごめんなさい! 後で弁償させてもらいます!」


 そう言って店主に深々と頭を下げるユーキ。


「あいや、弁償していただけるなら何も文句はありませんがね」

「ありがとう。それで、どういう状況なのか説明してもらえるかな?」

「あ、はい。実は……」


 ユーキに状況説明を始める店主。

 しかしその傍らで、思わぬ形でユーキ達と遭遇する事になったパルが非常に焦っていた。


(な、何でこんなタイミングでユーキ王女とBL隊が来るのよ⁉︎ マ、マズイのよ! こっちはまだ戦闘準備が出来てないのよ! 今パル達の素性がバレたら袋叩きにされるのよ! パル達がナンバーズである事は絶対隠し通すしかないのよ!)


「そっか……ちゃんとルールを納得した上で失敗したのなら仕方ないね」

「でしょう?」

「じゃあさ、その足りない分の料金は僕が出すから、その娘達を許してあげてよ。ね?」

「え⁉︎ 姫様が代わりに払ってくださるんですか⁉︎ あ、ハイ。ありがとうございます。料金を頂けるなら勿論です」


「良かった。んで、そっちの子達は何でこんな無謀な挑戦をしたのかな?」


 優しい口調でパル達に問いかけるユーキ。


「し、仕方なかったのよ。今夜の宿代が無かったのよ。だから賞金が欲しかったのよ」

「宿代? 君達旅行者?」

「あ、えと……ま、まあそんなとこなのよ」


「御両親は一緒じゃないの?」

「お、親は……今は居ないのよ」

「そっか。嫌な事聞いちゃったかな? ゴメンね」

「べ、別に2人旅は慣れっこだからいいのよ」


 2人を怪しんでいるパティが横から入って来る。


「あんた達旅行って言ったけど、どこから来たの?」

「トゥ、トゥマールから来たのよ」

「ふ〜ん。じゃあ普段はトゥマールに住んでるの?」

「普段はパラスに住んでるの〜」


 いきなり割って答えるチル。


「パラス⁉︎」


 パラスと聞いて警戒するパティ達。


「ちょちょ、ちょおっとおっ‼︎ な、何言い出すのよチル⁉︎」


 チルの発言に動揺して、何とか誤魔化そうとするパル。


「ち、違うのよ‼︎ パラスじゃなくて、カ、カラス! そう! カラスが沢山居る山に住んでるのよ!」

(うわあ〜、メッチャ誤魔化そうとしてる〜)


 パルの必死の誤魔化しを気にせず、語り始めるチル。


「ユーキちゃんを追ってみんなとトゥマールに行ったけど〜、食べ歩きしてるうちに襲撃のチャンスもお金も無くして〜、ユーキちゃんがリーゼルに帰るって知ったけど船代が無かったから仕方なく船に密航してリーゼルまで来たけど〜、見つかって逃げて海に落ちて色々あって今ここなの〜」


「なあっ⁉︎ なななな、何ご丁寧に全部バラしてるのよおお‼︎」

「チル達がナンバーズだって事はとっくにバレてるの〜」

「ええっ⁉︎ そうなのっ⁉︎」


 冷静なユーキ達の中、1人驚いているパル。


「ま、まあ2人がこれだけ強い魔力を放ってたらね〜」

「確信は無かったから色々カマかけようと思ってたら、まさかそっちからバラしてくれるなんてね。この数を相手に勝てる自信があるって事かしら?」


「自信も無いけどそもそも今は戦う手段が無いの〜。だから小細工するより改めて正々堂々バトルで決着付ける形に持って行きたかったの〜。話に聞いた感じだとユーキちゃんなら受けてくれると思ったの〜」

「ハハッ。敢えて自分達の不利な現状を晒す事でこっちの判断に委ねるとはね。つまり、僕の器が問われるって事か」


「このチルって娘、トボけてるようで中々考えてるわね? 喋り方といい雰囲気といい、まるでどこかの腹黒糸目を見てるみたいだわ」

「いや、腹黒って……」


 少し考えた後、決断するユーキ。


「よし、分かった! そこまでぶっちゃけられたら受けない訳にはいかないよね。だけどこんな街中でやる訳にはいかないから……そうだな! とりあえず2人共城においでよ! 泊まるとこ無いんでしょ?」


「へっ⁉︎ な、何を言ってるのよ⁉︎ パル達は敵なのよ⁉︎ 敵を自分達の城に招き入れるなんて……ハッ! わ、分かったのよ! そうやって油断させておいて、城の兵士全員で袋にするつもりなのよ!」


「そんな事しないよ〜。ただ同じ戦うならお互い万全の状態でやる方がいいでしょ? 話を聞いた限りじゃ2人共ここに来るまでにボロボロじゃない? だからとりあえず休んで体力を回復させよ!」

「な、何で……」


 動揺しているパルを尻目に乗り気なチル。


「ご飯食べれるの〜?」

「3食オヤツ付き」


 グッと親指を立てるユーキ。


「乗ったの〜」


 同じ様に親指を立てて応えるチル。

 そんな中、ユーキの袖を引っ張り小声で喋るパティ。


「ちょっとユーキ。いくら子供とはいえ、敵であるナンバーズを城に招くなんてどういうつもり?」

「子供だからって言うのは確かにあるけど、僕の見立てではあの子達は悪い子じゃないなって思ったから、上手く籠絡できないかな〜って。戦わずに済むならそれが一番いいじゃない?」

「またユーキお得意の人の本質を見抜く目って奴? まあユーキが言うなら信じるけどね」

「ありがと、パティ」


 リーゼル城に帰る道中、渋々付いて来ていたパルもようやく観念する。


「ま、まあご飯と宿にありつけるっていうなら、乗せられてもいい、のよ……」

「そっか、うん。今夜から更に賑やかになるな〜! あ、そうだ! トゥマールでゲットしたゲーム機がいっぱいあるんだ。みんなで遊ぼうね?」

「ゲーム機⁉︎」


 ゲーム機という言葉に反応するパル。


「き、機種は何なのよ⁉︎」

「フフフ〜。何と、最近出たばっかりのニテンドーウィッチなのだ!」

「ニテンドーウィッチ⁉︎ 最新機種なのよ! 大人気過ぎてパラスじゃとても手に入らないのよ! いやそもそも、パル達の収入ではたとえ物があっても買うことは諦めてたのよ! 是非やってみたいのよ!」

「うん、じゃあ今夜ご飯食べた後みんなでやろうね!」

「楽しみなのよ!」

「楽しみなの〜」


 そんなユーキ達のやり取りを、後ろを歩きながら優しい笑顔で見ているパティ。


(チルって娘は食べ物。パルって娘の方はゲーム機で釣れるみたいね。分かりやすくていいけど、ユーキの言う通りそれだけ純粋な娘達って事なのかしら? 釣ると言えば、以前のユーキならゲーム機とかで簡単に釣れたでしょうけど、最新鋭機を全部ゲットしちゃった今だと何をエサにしようかしら? いっそ力尽くで押し倒して……)


 パティが良からぬ事を考え出すと、急にバッと後ろを振り返るユーキ。


「ど、どうしたの⁉︎ ユーキ」

「いや、今何か妙な気配を感じたから……」

「き、気のせいよ!」

「うん。そう、だよね?」


 再び歩き始めるユーキ達。

 再び考え始めるパティ。


(そりゃあいくら敵国の人間だからって全員が悪人な訳はない。反対に自国民の中にだって勿論悪人は居る。国なんていう枠を作るから変に仲間意識が出来て他国民を排斥しようなんて発想が生まれるけど……生まれると言えば、ユーキとあたしの子供はどんな子が生まれるかしら? あたし達の子だもの、きっとあの娘達みたいに可愛い娘が生まれるに決まってるわ。その為にも早くユーキの遺伝子を取り込んで……いや、何ならその前にあの娘達の遺伝子で実験して……)


 またパティが良からぬ事を考え始めると、今度はユーキに加えてネムやパル達まで振り返る。


「な、何よみんなして⁉︎」

「いや〜、何か分かんないけど後ろから邪悪な気配を感じるんだよね〜」

「うん、ネムも感じた」

「パルも感じたのよ!」

「チルもなの〜」

「だ、だから気のせいだって言ってるでしょ! それに後ろはあたしが守ってるんだから安心しなさい!」

「そうだよね。パティが居れば大丈夫だよね」


(全くもう! でも……フッ、ああやって楽しそうに喋ってるのを見ると、とても敵同士だなんて思えないわね。確かにこのままあの娘達と戦わずに済むならそれが一番いいのかもしれないわね……一番いいと言えば、この戦いが終わったらユーキを筆頭にネムやロロ、あのパルやチルって娘達にまあ中身は男だけど見た目は可愛いラケルも入れて美少女ハーレムを作って……)


 遂に全員が立ち止まりパティをジッと見つめる。


「だから何なのよ⁉︎」

「どうもパティの辺りから邪悪な気配が……」

「べ、別に妄想するぐらい、いいでしょっ⁉︎」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る