第16話 トリオ漫才?

 港で倒れているメルクの元に、ひとりの男がやって来る。


「いやあ〜、兄ちゃん凄いな〜! さっきの矢ぁ、多分命中してるで〜!」


 薄れゆく意識の中で、その男を見るメルク。


(ま、まさか、また新たなナンバーズ⁉︎ いや、さすがに3連戦は無理ですって〜! てか、何で僕のとこばっかりに集まって来るんですか〜⁉︎ 弱い奴から先に倒そうって事ですか〜⁉︎)


 グッとメルクを覗き込む男。


「よお兄ちゃん、まだ生きてるか〜? お疲れのとこ悪いけど、ついでにワイの相手もしてくれへんか〜⁉︎」

(む、無茶言わないでください。 ふええん! アイバーン様ああ!)


 心の中で思わず助けを求めるメルク。

 何とか起き上がろうともがくメルクだったが、体力も魔力も完全に底をつき、身動きひとつ出来ないでいた。


「何や? 起きられへんのかいな⁉︎ そらまあ、ナンバーズ2人と戦こうた後やったら無理もないか〜!」


 魔装具を具現化させる男。

 両腕に、ナックルタイプの魔装具が装着される。


「ワイ、兄ちゃんみたいな頑張り屋さん、嫌いやないけどな。そんな状態のとこ悪いけど、仲間の仇とらせてもらうで!」


 男が右手で左腕の小手をジャッとこすると、右腕が炎に包まれる。


「礼儀として一応名乗らせてもらうわ! ワイはサーティーンナンバーズ、ナンバー6のゾルーガや!」

(やはりナンバーズ! しかもナンバー6で炎使いとか。いくら魔法は心次第って言っても、魔力が尽きた状態では無理ですよおお!)


『メル君‼︎』

(ユーキさん⁉︎)


 再びメルクの心の中に、ユーキの声が響く。


『あの……えと……ドンマイ!』

(ユーキさああん‼︎)


 妄想の中のユーキにあっさり見放されたメルクに、ゾルーガの炎が迫る。


「こんな状態のあんたを倒す卑怯者の名や! 覚えとき!」

(死んだら覚えてても意味無いですうう!)


 メルクが覚悟を決めて目をつぶった時、どこからか飛んで来た炎の球がゾルーガの右腕を弾く。


「痛ったあああ! 何やっ⁉︎ 誰や、邪魔するんは⁉︎」


 ゾルーガとメルクが、炎が飛来して来た方を見ると、そこに現れたのはブレンであった。


(ブレン様⁉︎)


「あんたは確か⁉︎ 王国騎士団副団長のブレンやな⁉︎」

「いいや、俺様はただの通りすがりの登山家だ!」


「え⁉︎ 何や人違いかいな〜⁉︎ えらい済まんかったなぁ!」

「いや、気にするな! 間違いは誰にでもある!」

「ハハッ、そうやな! ほなアンタも、気ぃ付けて登りや〜、ってなんでやねんっ‼︎ ここ海やろがっ‼︎」


(ええ〜、ツッコむとこそこなんですか〜⁉︎)


「あんたらBL隊のメンバーは全員ちゃんと調査済みや! 間違いない! あんたは王国騎士団副団長、炎使いのブレンや‼︎」


(BL隊って名前、いつのまにかパラスにまで浸透してたんですね?)


 変な所を気にするメルクであった。


「フッ、バレているのなら仕方ない。そう! 俺様は王国騎士団副団長にして! 次期団長候補筆頭にして! アイバーンの最大のライバルにして! 親友にして! 上司にしたい人ナンバーワンのブレン様だああ‼︎」


「してしてうるさいわああ‼︎」


(上司にしたい人ナンバーワンってのは初耳ですけどね)


 散々おちゃらけた後、真剣な顔つきになるブレンとゾルーガ。


「つまりや……あんたがワイの相手をしてくれるっちゅう事かいな?」

「イヤだと言っても叩き潰すがな」

「上等」


 お互いに魔装具を構えて魔装する2人。


「魔装‼︎」

「魔装や‼︎」


 鎧武者風の赤い鎧をまとうブレン。

 片や動きやすさを重視した、軽装型の鎧をまとうゾルーガ。

 双方の魔装具から灼熱の炎が噴き上がる。


「お前も炎使いか⁉︎」

「やっぱ男は熱ぅないとな〜!」

「同感だ」


 更に激しく炎を噴き出すブレンとゾルーガの側で、その炎に苦しんでいるメルク。


(あの〜、僕物凄く熱苦しいんですけど……)



「ところで、ぞうきんの残り香とやら!」

「ゾルーガや‼︎ ぞうきんの残り香てなんやねんっ‼︎ 想像しただけで気持ち悪いわ‼︎」


「ああすまん。遠くてお前の名乗りがよく聞こえなかったのだ」

「それにしたって分かるやろ! そんな名前の奴がどこにおんねん!」


(いや、完全にわざとですね)


「そこに倒れているメルクは、我ら騎士団の大切な同胞だ。やったのはお前か?」

「ああ? ちゃうちゃう! ワイが来た時はもう既に、この兄ちゃんはこの状態やったわ。多分そこに倒れてるウチの仲間と戦こうたんやろ⁉︎」


「そうか。だがお前もナンバーズなんだな?」

「ああそうや! ほなあんたにも改めて自己紹介させてもらおか」

「いや、いい!」

「いやそこは聞いとけや‼︎ 礼儀として!」


「しかし、さっき名乗ったではないか。ゾウリムシの漫画だろう?」

「誰がゾウリムシや‼︎ 全然覚えてへんやないか‼︎ 頭とケツの文字がおおとったらええっちゅうもんちゃうで‼︎ 大体なんやねん、ゾウリムシの漫画て! そんな漫画見たないわ!」


(あ、僕ちょっと見てみたい)


「ふざけおってからに! ワイの名前はゾルーガや! サーティーンナンバーズのひとり、ナンバー6のゾルーガや‼︎」


「確かお前達ナンバーズと我らBL隊の決戦開始日は、まだ先だった筈だが?」

「ああ〜、まあそうなんやけどな。何人かが先走りよってな〜。ほんならとワイもついでに来たっちゅう訳や。そお言う訳やから、すまんけどワイの手柄になったって〜な」


「そもそも戦争にルールなど無いからな。別に構わんさ。こちらとしても、ここで数を減らせるのは好都合だからな」

「ハッ! 言うてくれるやないか! ほなブレンはん! 遠慮なく行かせてもらうでぇ‼︎」


「来い! ゾンビ映画!」

「だからゾルーガや言うてるやろ‼︎ 漫画の次は映画かいっ! て言うか、ようそんな何個も出て来るなっ⁉︎」


(何だかこんなやり取り、以前にもありましたね〜)





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