第15話 出来ると思えば出来る
ユーキ達が乗った船を追いかけていたバーダが、ついにその船を発見する。
「見つけましたよ。あの船で間違いなさそうですね」
可能な限り魔力を消して、ゆっくりと船に近づいて行くバーダ。
そして船の甲板に、ユーキ達の姿を確認する。
「フフ、まるで段取りしたようにみなさん甲板にいらっしゃいますね。マナ王女に、ネム王女とそのメイド。漆黒の悪魔も居ますね。全員居るという事は、まだ彼女達は行動を起こしてないようですねぇ。まあ、私が仕掛ければ彼女達も動くでしょう」
バーダがユーキ達の船を発見した頃、フラつきながら海に向かって弓を構えるメルク。
目を閉じ、静かに呼吸を整えて詠唱に入るメルク。
『万を超え、億を超え、遥か彼方まで飛翔せよ』
グイッと弦を引くメルク。
『吹き荒ぶ風を超え、荒れ狂う波を超え、どこまでも飛翔せよ』
弓と弦の間に、水で作られた矢が現れる。
『何者にも怯む事無く、何者にも臆する事無く』
矢に凄まじい魔力が集中して行く。
『ただただその一点だけを貫け』
魔力が極限まで高まった時、目を閉じたまま矢を放つメルク。
『那由他‼︎』
メルクより放たれたその矢は、詠唱の文句の通りに風や波しぶき、果ては重力さえも影響を受ける事無く、ただ真っ直ぐにバーダ目がけて猛スピードで飛翔して行く。
「さて、それでは気付かれていない内に、仕掛けさせていただき……ん? 何です?」
船に攻撃をしかけようとしたバーダが、ふと何かの気配に気付き振り返ったその瞬間、あっという間に到達したメルクの矢が一瞬にしてバーダの体を刺し貫いて行った。
「がはああっ‼︎ な、何です、か……今の、は? こ、この魔力は……さっきの少年、の? バ、バカな⁉︎ 岸から一体、どれだけ離れている、と……」
そのまま気を失い、ユーキ達の居る船の甲板に落下するバーダ。
「な、何だあ⁉︎」
「人が空から落ちて来たのです!」
「乗り遅れた人かな?」
「いや、ここまで飛んで来たならもうそのまま空飛んで行った方が早いでしょ⁉︎」
恐る恐る近付くユーキ達。
そして、その落下物がバーダだと気付く。
「これって、梅干し⁉︎」
「バーダね」
「こいつがここに居るって事は、やっぱりメル君死んだ?」
「もう! イヤな事言わないでよパティ!」
「でも、倒れたまま起きないよ?」
「ホントね。ロロ! ちょっと行ってつついて来なさいよ!」
「はうあっ⁉︎ な、何故ロロなのですか⁉︎」
「あんたなら、もしあいつがいきなり襲って来ても何とかなるでしょ?」
「そ、そりゃあ何とかはなるのです。でもいきなり起き上がられたら怖いのです!」
「何よ〜、幽霊のクセに情けないわね〜」
「ロロは幽霊ではなくて召喚獣だと前にも言ったのです! 大体そんなに言うなら、パティさんがつついてくださいなのです!」
「あたしだってイヤよ!」
「じ、自分がイヤな事を、人にやらせないでくださいなのです!」
もめているパティとロロを見かねて、ユーキが行こうとする。
「いいよ。僕が行ってくるよ」
「ダメよ! ユーキ‼︎ あなたが行くぐらいならあたしが行くわ‼︎」
「ううん、今のユーキ姉様じゃ危険。ネムが行く」
ひと通り立候補した後、ロロを見るユーキ達。
「じゃあやっぱりロロが、何て手には乗らないのです‼︎」
「チッ!」
「チッ!」
「チッ!」
定番のパターンをロロにかわされて、舌打ちするユーキ達。
仕方なく様子を伺いに行くパティ。
魔装具の杖でツンツンとバーダの体をつついてみるが、全く反応は無かった。
そしてパティが、バーダの体に残った魔力を感知する。
「この魔力、メル君だわ!」
「じゃあメルク兄様が倒したって事?」
「え⁉︎ だけど、メル君って飛行魔法使えないんだよね? 一体どこから?」
「ならば答えはひとつ! 岸から狙撃したのです!」
「岸からって⁉︎ そんなバカな事⁉︎ もうすぐノーヴェ大陸に着くのよ? ここまで一体何10キロ離れていると……」
メルクの神業に驚愕するユーキ達。
「凄いよメル君! 必要以上に心配してゴメンね〜‼︎」
ユーキが、メルクが居るであろう方向に向かって謝る。
それを見たパティ達も、メルクに詫びを入れる。
「メル君! あっさり殺されるんじゃないかと思ってゴメンなさ〜い‼︎」
「メルク兄様! ネムが戦った方が早いなんて思ってごめんなさい‼︎」
「メルクさん! あなたの事は、永久に語り継いで行くのです〜‼︎」
そんなメルクはバーダに矢が命中した事を直感的に感じ取り、仰向けに倒れたまま握り拳を突き上げていた。
「一応僕、まだ生きてますからね〜」
サーティーンナンバーズ、ナンバー2バーダ、撃破!
残るナンバーズはあと11人。
再びユーキ達が乗っている船では、気絶しているがまだ息のあるバーダの処遇を検討していた。
いきなり意識を取り戻しても大丈夫なように、パティのエアバインドでぐるぐるに縛られているバーダ。
「まだ生きてるみたいだけど、どうする? トドメ刺しとく?」
物騒な事を言うパティを止めるユーキ。
「ダメだよ! 幾ら敵でも殺すのはダメ‼︎」
「まあ、ユーキなら当然そう言うわよね。でも、じゃあこの梅干しどうするの? リーゼルの牢屋にでも入れとく?」
「うん、とりあえずそれがいいと思う。それで、この戦いが終わったらパラスに帰してあげよ。ゴメンね? ネム」
「ほえ? 何で姉様がネムに謝るの?」
「だってこのバーダって、ネムの両親や国の人達を……」
「ああ〜。う〜ん、ホントの事言うとね? ネム、その時はまだ小さくてよく覚えて無いの。ロロに詳しく聞かされて、確かに最初の頃は凄く憎かったけど、この前リーゼルで思いっきりぶっ飛ばしてスッキリしたの。だから今はもうこの梅干しに、それ程憎い気持ちは無いんだ」
「そう、なんだね」
「でももし今、BL隊の誰かが殺されたりしたら、ネム絶対に許さないよ!」
「それだけは、絶対に阻止しないとね。そして、BL隊って言うのやめようね?」
バーダの処遇が決まった頃、姿の見えなかったラケルがやって来る。
「さっき一瞬物凄い魔力を感じたんだけど、何かあったの⁉︎」
「ラケル? えっとね、要約すると空から串刺しになった梅干しが降って来たの」
「いや、意味分かんないよ! あれ? そこでミノムシみたいになってるのって、船着場に居た人だよね?」
信じるとは言ったものの、未だに正体のハッキリしないラケルを疑いの目で見ているパティ。
(この娘、バーダが来ても何も仕掛けて来なかったわね? 仕掛ける前に、バーダが一瞬でやられたから? それとも、本当にナンバーズとは無関係?)
そんなパティの視線に気付くラケル。
「どうしたの? パティちゃん。じっと僕を見つめて? もしかして、僕に惚れちゃった?」
「んな訳ないでしょ!」
「でも残念! 僕の身も心も、既にユーキちゃんの物なんだ!」
ラケルの言葉にドン引きするパティ達。
「ユーキ……またなの?」
「ユーキ姉様、また浮気?」
「またユーキさんの悪いクセなのです」
「またって何だよっ⁉︎ いつもやってるみたくゆ〜な‼︎」
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