第82話 カオス、姪っ子に噛まれる

「ねえカオス! その魔装具、僕のだから返してよ! そしたら勝負でも何でもしてあげるからさ!」


 カオスの持っている、ペンダント状態の魔装具を指差すユーキ。


「フッ、どうやらアイリスの記憶は戻ったみたいだな⁉︎ だがこれを返してほしかったら、俺の戦士を全員倒す事だな」

「ぶう〜! 戦士って何人居るのさ?」


「我がパラスの最高戦力! 全員がレベル7で構成された13人の戦士! 名付けてサーティーンナンバーズだ‼︎」

「サーティーンナンバーズ? 何だか宝クジみたいな名前だね?」

「うるせえよ! 気にしてるんだからゆ〜な!」

「気にしてるなら変えればいいのに……」


「レベル7ばかりが13人……」


 その事実に驚愕するBL隊。


「見た所、お前達の中でレベル7の奴はこちらの半数も居ないだろう? まあ別に試合という訳じゃないからな。そちらの代表戦士は13人じゃなくてもいいし、1人に対し数人がかりでかかって来ても全然構わないぜ?」

「このお、バカにしてえ〜」


 カオスの挑発的な発言に、怒りを露わにするパティ。


「だがそれは言い換えれば、貴様達パラス軍も律儀に1対1の戦いをするつもりは無いと言う事だろう?」

「フッ」


 ハッキリと言葉にはしなかったが、ニヤリと笑うカオス。


「戦闘開始は10日後だ! 俺は必ずパラス城に居ると約束しよう! だが、ナンバーズには各自自由に動くように伝えている。それは、パラスの国内外問わずだ」

「つまりは、いつ奇襲を受けるかも分からないという事か⁉︎」


「そういう事だ。だが例えどこに居ようとも、10日後の戦闘開始までは一切手出ししないように徹底してあるから安心しろ」

「こちらの意思を確認する前に、そちらは既に準備万端という訳か」

「だから10日間の猶予をやった。その間にさっさと統一王を決めて、対策でも考えておく事だな。じゃあな!」


 そう言い残して立ち去ろうとしたカオスがふと立ち止まり。


「ああ、ひとつ言い忘れていた! 俺が最終的にアイリスに勝ったなら、この世界は全て俺の物だ! そして、俺の気に入らない奴は片っ端から抹殺してやる」

「ぐっ!」


「あり得ない話だが、逆にもし俺が負けたなら、俺達パラスもお前達の傘下に入ると約束してやろう」

「つまりは、どちらが勝っても世界はひとつになるという事か⁉︎」

「お前達にとっても悪くない話だろう⁉︎」

「貴様が治める国など、願い下げだ‼︎」

「フッ、それがイヤならせいぜい頑張る事だ」


 再び去ろうとするカオスを、パティが呼び止める。


「ちょっと待ちなさいよ‼︎」

「ん? 何だ⁉︎ 姪っ子」

「姪っ子ゆ〜なって言ってるでしょ‼︎ 今のままじゃユーキはまた戦力外の役立たずじゃないのよ!」

「ええ〜⁉︎ パティ酷い! 僕って戦力外だったの〜⁉︎」


 慌ててフォローするパティ。


「あっ! ち、違うのよユーキ?  今の魔装具が使えないままのユーキではって意味で、今やユーキはウチらにとって無くてはならない最高戦力なんだから!」


 だが、ジトーっとした目でパティを見るユーキ。


「それはつまり、以前はやっぱり役立たずだったって事じゃないか〜」

「あいや、初めて会った時からユーキには凄い才能があるって分かってたわ! うん、分かってた!」

「ホントに〜?」


 呼び止められたままのカオスが痺れを切らす。


「オイ‼︎ また俺はほったらかしかっ‼︎」

「ああ、忘れてたわ」

「忘れんなっ‼︎」


「魔装具が無いとユーキはまともに戦えないんだから、その魔装具置いてきなさいよ‼︎」

「聞いてなかったのか⁉︎ お前達がパラスの精鋭13人を全員倒せたら返してやるって言っただろう⁉︎」


「だから〜‼︎ 魔装具無しではユーキが危険でしょ⁉︎ あんたと戦う前にユーキにもしもの事があったら、あんただって困るでしょ⁉︎」

「器であるマナを揺さぶってやればアイリスが目覚める事が分かったからな。マナにはせいぜい痛い目にあってもらうさ」

「このおお! 返しなさい‼︎」


 瞬時に魔装して、カオスに杖を向けて構えるパティ。


「オイオイ! 戦闘開始は10日後だと言っただろう⁉︎ 記憶力無いのか? 姪っ子」

「そんなの関係無いわ‼︎ 大事な妹の為なら、そんな約束なんてクソ食らえよ‼︎」


 だが、逆上したパティをアイバーンが止める。


「待ちたまえパティ君‼︎ こんな狭い空間で魔法なんか放ったら、この宿屋にまで被害が及ぶ! 無関係な宿泊客だって居るのだ! 巻き込むつもりか⁉︎」


「この際だからハッキリ言っておくわ‼︎ あたしは、大事な妹で嫁でもあるユーキの為なら、周りの連中がどうなろうと知ったこっちゃないのよ‼︎」

「いや、何か増えてたんだけど⁉︎」


「いいね〜、その発想。さすがは俺の姪っ子だ」

「あんたも、姪っ子ゆ〜なって何度も言ってるでしょ⁉︎」


 頭が沸騰したパティが正に魔法を放とうとした時、パティの前に両手を広げて立ち塞がるユーキ。


「ダメだよパティ‼︎」

「ユーキ⁉︎」

「僕の事を想ってくれるのは凄く嬉しい。だけどどんな理由があれ、無関係な人達を巻き込むのはダメだよ! 僕はそんなパティはキライだよ⁉︎」

「ユ、ユーキいい」


 ユーキのキライというひと言で一気に戦意を失い、魔装が解けてへたり込むパティ。


「だそうだ。大人しく開戦を待つんだな、姪っ子。じゃ〜な!」


 立ち去るカオスをキッと睨みつけるパティ。


「つまり、無関係な人を巻き込まないで取り返せばいい訳よね?」

「パティ?」


 そう言いながらゆらりと立ち上がったパティが、背を向けたカオスに襲いかかる。

 そして、ユーキの魔装具を持ったカオスの、右腕前腕部に噛み付くパティ。


「痛ええええっ‼︎」 

「はほ〜ふはえひあはいいい〜(魔装具返しなさいいい〜)」

「な、何しやがる姪っ子⁉︎」

「へいっほふ〜は〜(姪っ子ゆ〜な〜)」


「あらぁ? パティちゃんも、腕を噛むとダシが出るって気付いたんですねぇ?」

「いえ、違うと思います……」




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