第83話 統一王誕生!

 パティが食らい付いた右腕をブンブンと振り、引き剥がそうとするカオス。


「は、離れろ姪っ子‼︎」

「はあふほんふあああ〜(離すもんか〜)」

「スッポンかっ⁉︎ お前は!」


 残された左腕で、パティの顔をぐいいっと押すカオス。

 しかし、全く離れないパティ。

 その時、ふと何かを閃いたカオス。


「いいのか姪っ子、直接噛み付いたりして? もし俺の体細胞のひとつでも体内に入っちまったら、俺との子供が出来るぞ⁉︎」

「ふあっ⁉︎」


 カオスの言葉に、慌てて離れるパティ。

 その隙に素早く逃げるカオス。


「当人にその気が無ければ、子供なんか出来ね〜よ! バ〜カ!」


 捨てゼリフを残して。


「ハッ⁉︎ コラッ‼︎ 待ちなさい‼︎」


 パティが我に帰った時、既にカオスは立ち去った後だった。


「あいつううう!」


 怒りに震えるパティをなだめるユーキ。


「仕方ないよパティ。僕は当分、市販の魔装具でしのぐからさ。またみんなに頼る事にはなっちゃうけど……」

「ユーキ……ま、任せて! 必ずあたし達がユーキの魔装具を取り返してあげるわっ! そしてあのバカオヤジをぶっ飛ばす!」


 決意を新たにして燃えるパティ。


「でも僕達、勝てるんでしょうか? 相手は全員レベル7なんですよね?」

「考えようによっては、全兵力で全面戦争を仕掛けられるよりはまだ勝機があるニャ。五国が統一して、いくら兵数が互角になったとはいえ、やはりパラス軍と我々ではその練度が違うニャ。同じ兵数では、間違いなくあたしらは負けるニャ」


「リーゼル攻防戦ではぁ、最終的に倍の兵力とぉ、マナちゃんがカオスを退けてくれたお陰で何とか勝てましたからねぇ」


「ふむ……その為にもまずはちゃんと統一王を決めて、対策を考えなければな。ユーキ君、明日は表彰式と統一王任命式が同時に行われるが、候補者はちゃんと決めているね?」

「う、うん。もう考えてる」


「そうか……では今日は疲れているだろうから、早めに休むといい。私達王国騎士団は、準備の為に先に出発させてもらうが、式典は13時からなので、ユーキ君達は正午までに王宮に来るようにしてくれ」

「うん、分かった」


「ユーキ〜、あたしと一緒に寝ましょお〜!」

「子供出来ちゃうからヤダ!」

「勝手に作ったりしないわよ〜! 姉妹なんだからいいでしょ〜⁉︎」

「受け入れるの早いね? パティ」

「こうなったら、ユーキと実の姉妹というアドバンテージを最大限に活かさないとね!」


「ユーキさんと姉妹ですか……パティさん、最強の武器を手に入れましたね」

「でもぉ、逆にユウちゃんに警戒されてますけどねぇ」

「ネムもユーキ姉様の子供欲しい……」

「子供は子供を作れないのです」

「いえ、それ以前に同性では子供は出来ませんから」


 

 長かった宿屋でのやり取りもようやく終わり、翌日表彰式の為にトゥマールの王宮に向かうユーキ達。

 そこにはユーキの優勝を祝う為か、はたまた誰が統一国の王になるのかを見届ける為にか、大勢の人が城を取り囲んでいた。

 街中には、未だにたくさんの屋台が立ち並んでいた。


「こんなとこにまで屋台出してるんだ?」

「美味しそうな匂いがしますぅ」


 匂いに釣られてふら〜っと離れて行くセラの首根っこを掴むパティ。


「ダメよセラ! みんなでユーキをお祝いするんだから!」

「せめて一品だけでもぉ!」


 そこへ、ユーキ達を迎えに来たアイバーンが、きちんとした正装でやって来る。


「パーティ会場には豪華な食事が用意されている。今ここで食べてしまうのは勿体無いぞ? セラ君」

「屋台には屋台の良さがあるんですぅ! それに、少しぐらい食べても満腹にはならないから大丈夫ですぅ!」

「あんたのお腹が大丈夫でも、こんな所で時間食ってたら式典に遅れちゃうでしょ⁉︎」


 必死に行こうとするセラを引きずりながら王宮に向かうパティ。

 

「まだ時間も何も食ってないですぅ! お情けをおおお!」



 そして程なくして、表彰式が行われる。

 その様子は、今大会に参加した国々にも中継されていた。

 

「それでは、見事トーナメントを制したユーキ君! ロイ国王の前に!」

「ハイ!」


 進行役のアイバーンに促されて、玉座に座るロイ国王の前で跪くユーキ。


「ユーキ、それともマナ王女と呼ぶべきかな?」

「ユーキでいいよ。その方がしっくり来る」


「フフッ、そうか。ではユーキよ! 各国から集まった猛者達を退けての優勝、見事であった!」

「ありがと」


 ロイ国王より、メダルを首にかけてもらい、巨大なトロフィーを受け取るユーキ。

 それを見ていた人々から、大歓声が沸き起こっていた。


「ユーキ君、約束していたゲーム機一式だ。おめでとう!」


 山と積まれたゲーム機やソフト一式を見て、歓喜の声を上げるユーキ。


「ふわああっ‼︎ 凄い数のソフト‼︎ これだけあれば、しばらく引きこもれる‼︎」


 そして、その山の中から一台のゲーム機の箱を手に取るユーキ。


「も、もしかしてこれが⁉︎」

「そう、君が望んでいたニテンドーウイッチだ」

「やったああ‼︎ 凄い‼︎ 名前以外はあっちで見たのと全く同じだ‼︎」


 その理由を猫師匠がボソッと明かす。


「似ていて当然ニャ。アイリス姉様は知らない事だけど、あたしの国で販売している娯楽品は、そのほとんどが向こうの世界に行って直接仕入れて来た物ニャ。アニメなんかはそのまま放送を受信出来るけども、形のある物は色々権利の問題もあるから名前だけちょっと変えてるニャ。模造品じゃないかって? 違うニャ! 元々向こうの世界もこの世界も、神が作ったものニャ! だからそもそもの著作権はあたし達神にあるニャ!」


 誰かに説明でもするように、1人熱弁する猫師匠を、不思議そうに見つめるフィー。


「どうしたんですかシャル様? 先程から独り言が過ぎますよ? 早くもボケて来たんですか?」

「誰がボケて来たニャ⁉︎」


「いいえ、朝早くからカラオケをして来たと言ったんです」

「こんな大事な日にっ⁉︎」



 猫師匠とフィーがお馴染みのやり取りをしていた頃、いよいよ統一王が決まろうとしていた。


「さあ、表彰式も終えた。ユーキよ、そろそろお前が推薦する統一王の名を教えてくれぬか? それとも、お前自身が王となるか? わしとしてはそうあってほしいと願うが?」


 静かに首を横に降るユーキ。

 そして、周りには聞こえないぐらいの小声で話し始める。


「確かにアイリスさんは2年前までこのトゥマールの女王をやってた。だけど、今の僕はリーゼルのマナ王女なんだ。そりゃあ僕も、将来的にはリーゼルの女王になるんだろうけども。今はまだいっぱい遊びたいしね」

「ではどうするのじゃ? 誰を王に推薦するんじゃ?」


 スッと背筋を伸ばし、今度はみんなに聞こえるような大きな声で話すユーキ。


「じゃあ発表するね! 僕が統一王に推薦するのは、ロイ国王だ‼︎」


 みんなが一斉にどよめく。

 それと同時に、あちこちで落胆の声が上がっていた。


「ええ〜っ⁉︎ やっぱりユーキちゃんは王様になる気は無いのか〜⁉︎」

「私、ユーキちゃんが治める国がよかったな〜」

「即、解散総選挙だああ‼︎」


 ユーキの発言を受けて、アイバーンがロイ国王に意志を確認する。


「ロイ国王! ユーキ君から推薦を受けましたが、あなたは統一国の王となる意志はありますか⁉︎」

「わしが統一王か……ユーキよ、ひとつ聞きたい!」

「ん?」


「何故、自分の父ではなくわしなんじゃ?」

「ん〜、確かに父様にしようかとも思ったんだけど、そしたらリーゼルの内政を僕がやらされるんじゃないかな? 何て思ったから、それならそのままロイのじいちゃんにやってもらった方がいいかな〜って」


 ロイの耳元に近付き、再び小声で話すユーキ。


「だってゼスじいちゃん主神だったんだから、みんなの上に立つのは慣れっこでしょ?」


 ユーキの言葉を聞き、軽く笑うロイ国王。


「フッ、お前という奴は、何年経っても本質は変わらんな」

「フフッ、ありがと」

「褒めとらんわ」


 2人の様子を見て、改めてロイ国王に問うアイバーン。


「どうされますか? ロイ国王。ユーキ君の推薦を受けて、統一王となりますか⁉︎」


 皆がロイ国王の返答を待っていた。


「フッ、こんな老いぼれに更にそんな大役を押し付けるか……全く、困った娘じゃわい!」

「フフッ、ゴメンね」


「だが断る‼︎」

「へっ⁉︎」


 まさかの返答に呆気に取られるユーキ。


「え⁉︎ 断る? こ、断るって何さ⁉︎ 色々話してその気になってたんじゃないの⁉︎ もう納得したような雰囲気だったじゃない⁉︎」

「だけどわし、やるなんて一言も言ってないも〜ん!」

「も〜んってあんた⁉︎」


「ではロイ国王! 逆にあなたは誰を推薦しますか⁉︎」

「当然! 強さ! 優しさ! 美しさ! カリスマ性! その全てを兼ね備えたユーキこそが、統一王に相応しいと思っている! よってわしはユーキを統一王に推薦する‼︎」

「ちょっとおおおっ‼︎」


「分かりました! では、ロイ国王の推薦を受けたユーキ君を、統一国の王とします‼︎」

「いやいやいやいや‼︎ ち、ちょっと待ってよ‼︎ そんなの僕だって断るよ! じいちゃんがイヤだって言うなら、他の人に!」


「いや、それは出来ないんだユーキ君」

「何でよっ⁉︎」

「たらい回しになる事を避ける為、推薦を拒否出来るのは最初の1人だけと決まっているのだ!」


「何だよそのルール⁉︎ 絶対、今考えたでしょ⁉︎」

「そんな事は無い。これは遥か昔から決まっている伝統なのだ」

「いやこの大会、今回が初開催でしょ⁉︎」


 BL隊の面々、そしてマルス国王やレナ王妃、果ては猫師匠やロイ国王に目で訴えるユーキだったが、誰もユーキと目を合わそうとはしなかった。

 そして、全てを理解したユーキの雄叫びが響き渡る。


「みんなグルかあああっ‼︎」



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