第73話 不意に〜やって来たあ〜

 ロッドの先をフィーに向けて挑発するユーキ。


「でもこれで君の変身能力は封じたよ⁉︎ まだやる? それとも大人しく降参する?」

「フフ、私の能力を封じたくらいで勝ったつもりですか? 甘いですよ。ショートケーキの練乳がけぐらい甘いですよ」

「うわっ! 甘そう……じゃなくて‼︎」

「あなたの希望通り、真正面から闘ってあげましょう!」


 そう言ってユーキに接近して、鎌を振り下ろすフィー。

 その鎌をロッドで受け止めてから横に逸らし、クルリとロッドを回してから横になぎ払うユーキ。


「純粋な力勝負って事だね⁉︎ 受けて立つ!」


 その後、お互い魔法を使う事なく魔装具で打ち合う2人。



「先程までの魔法による攻防から一転、今度は魔装具のみによる攻防が繰り広げられています‼︎」



「フィーさん、あの巨大魔方陣の中では魔法は無意味だと悟ったんでしょうか?」

「ふむ……確かにそれもあるだろうが。しかし妙だ」

「アイバーン様、何が妙なんですか?」

「偶然かもしれないがフィー君の攻撃、どうもさっきからユーキ君の魔装具にある魔石ばかりを狙っているように見える」

「え⁉︎ それってどういう……」


 チラッとユーキの魔装具を見たフィーが、距離を取って動きを止める。


「ふう……疲れました」

「じゃあ降参する?」

「ちょっと肩揉んでもらえませんか? ユーキさん」

「試合中だよっ‼︎」


「では、お金貸してもらえませんか?」

「生活に困ってんのっ⁉︎」


「いえ、ちょっと旅行に行こうかと」

「人に借りたお金で豪遊すんな‼︎」


「カジノで儲けて倍にして返しますから」

「人生破滅する人の発想だよ‼︎」


「ダメですか……」

「ダメだね……」


 スッと真剣な表情に変わるフィー。


「では、優勝して賞金をゲットしたいのでユーキさん、そろそろ負けてもらえませんか?」


 同じく真剣な表情になるユーキ。


「わざと負けるつもりなんてないよ。優勝したいなら実力で僕に勝つ事だね」

「そうですか……ではそうします」


 デスサイズを体の正面で横にして持ち、今までより遥かに魔力を高め始めるフィー。


「む? どうやらフィー君は最後の攻撃に出るようだね」

「フィーさん、今までで1番凄い魔力ですね」


(ユーキ! 負けないで!)


 祈るように手を組んでいるパティ。


 充分に魔力を高めたフィーが、静かに詠唱を始める。



【神のしもべたる人よ、神より与えられし無垢な魂】



(あの詠唱って確か、カオスが使ってた? なら!)



『罪深き者よ、神より与えられし無垢な魂』



 聞き覚えのある詠唱に、素早く呼応するユーキ。



【欲、欺瞞、妬み、憎しみ、この世のあらゆる誘惑に身を委ね】



『地獄より現れし鬼の如く、本能のまま戦う修羅の如く』



「ああっとお‼︎ ユーキ選手、フィー選手共に詠唱を始めました‼︎ どうやらこれが最後の攻防となりそうだあああ‼︎」



【枷より解き放たれし、自由なる魂よ】



『人の心を失いし、罪深き魂よ』



「あれってまさか⁉︎ 前にリーゼルでユーキさんとカオスが使った⁉︎」

「極大魔法……」



【その魂を黒く染め上げ、地獄へ堕ちろ】



『天の裁きによって、輪廻の輪に還れ』



「これで決まる‼︎」



【ヘルヘイム‼︎】



『リインカーネーション‼︎』



 フィーの放った極大闇魔法と、ユーキの放った極大光魔法が、2人の間でぶつかって拮抗する。



「極大魔法炸裂うう‼︎ しかし、威力は全くの互角のようだああ‼︎ 2人の間で魔力がぶつかっているうう‼︎」


「ユーキ姉様、負けるなああ‼︎」

「私達と、ついでにパティさんの仇を取ってほしいのです‼︎」

「ついでって何よ⁉︎」


 一生懸命応援しているネムとロロ。


「今のユーキ君と互角か……やはりフィー君はかなりの実力者だったようだね」

「でも、ユーキさんはここから更に魔力を上げて行くんですよね⁉︎」

「あ、ああ……そう、だな」

「アイバーン様、何か気になる事でも?」

「あいや、思い過ごしならいいのだが」


 はしゃいでいるメルク達3人以外は、何故か不安げな表情をしていた。


「お願い‼︎ 最後まで保って‼︎」


 祈る両手に、更に力が入るパティ。



 ユーキをあおるように語りかけるフィー。


「からめてが得意な私がこうして真っ向勝負を挑んでいるんです。よもや、魔力無効化の結界なんて使いませんよね? ユーキさん」

「当然! そんな野暮な事はしないよ! だけど、エターナルマジックは使わせてもらうけどね!」


 そう言ってロッドを回し始めるユーキ。

 それにより、徐々に均衡が崩れていく魔力。

 しかし、何故か慌てる様子も無く、冷静に状況を見ているフィー。



「こ、これは⁉︎ ユーキ選手がロッドを回し始めてから、拮抗していた魔力がフィー選手の方に傾きつつあります‼︎」



「ほら! ユーキさんが押し始めましたよ! このまま行けばユーキさんの勝ちですよ!」

「このまま行ければな……」

「もう! みなさん、一体どうしたんですか⁉︎ そんな不安そうな顔をして〜⁉︎ 心配しなくても、もうすぐユーキさんの勝ち……」


 メルクがユーキを見た瞬間、ユーキのロッドに付いていた白魔石が粉々に砕け散った。


「ふえっ⁉︎」


 呆気にとられるユーキ。

 

「逃げて‼︎ ユーキー‼︎‼︎」

「逃げるんだ‼︎ ユーキ君‼︎」


 一斉に叫ぶパティ達。

 魔装具の魔石が砕けた事により、ユーキの魔装が解けてしまう。

 そして、2人の間で拮抗していた魔力が、一気にユーキに襲いかかる。


「ヤバっ‼︎」


 慌ててその場を離れようとしたユーキだったが間に合わず、もろに魔力の塊を受けてしまう。


「うあああああ‼︎‼︎」



「ユーキ選手の魔石が砕けたああ‼︎ それにより2人分の莫大な魔力を、しかも魔装の解けた無防備の状態で食らってしまいましたああ‼︎ こ、これは非常に危険な状態です‼︎ 下手をすれば即死という事も充分考えられます‼︎ 最早試合どころではありません! 早くユーキちゃんの安否を確認してくれええ‼︎」



 冷静さを失った実況者の悲痛な声が、闘技場に響き渡る。



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