ひめてん〜姫と天使と悪魔と猫〜

第72話 バイトかよっ！

　魔装具を再びデスサイズに戻して構えるフィー。

「あのまま闇の中で怖がるユーキさんを、ゆっくりじっくりねっとりいたぶるつもりでしたが……」

「陰湿だよ‼︎」

「これ程巨大な魔方陣を描かれては、もう同じ技は使えませんね」

「そういう事！　さあ！　回りくどい事しないで、真正面から闘おうよ！」

「仕方ありませんね。では行きます！」

　デスサイズを体の後ろに構えながら、ユーキに向かって走って行くフィー。

「フィー選手がユーキ選手に接近して行きます‼︎　どうやら今度は正攻法で行くようだ〜‼︎」

　迎撃すべく、ロッドを構えるユーキ。

「でやあっ‼︎」

　間合いに入ったフィーが、ユーキ目がけて鎌を振り下ろす。

　それをロッドで受けた瞬間、重力魔法を発動させるフィー。

「グラビティ‼︎」

「ぐっ！　また性懲りも無く⁉︎」

　一瞬ロッドを持つ腕が下がるが、倒れる事なくこらえているユーキ。

「今のユーキさん相手に真っ向から力勝負を挑む程、私はおろかではありませんよ」

「そう、なら僕もお返しさせてもらうよ！　グラビティ‼︎」

　フィーの、上から下へ押し付ける重力に対し、下から上へ押し上げる重力をかけるユーキ。

「なっ⁉︎」

　ユーキの重力魔法により、まるで無重力状態のようにふわっと体が浮き上がってしまうフィー。

「なら！」

　フィーがクルリと鎌を回すと、デスサイズからワンドタイプに変化する。

「フライ‼︎」

　飛行魔法を使って態勢を整えるフィー。

「ヴォルカニックボム‼︎」

　無数の火炎弾を降らせるフィー。

「アイスニードル‼︎」

　氷の山で迎撃するユーキ。

「フィー選手の放った火炎弾を、ユーキ選手の氷が全て撃ち落とした〜‼︎」

　フィーの火炎弾を迎撃した氷がなおも止まらず、そのままフィーに向かって伸びて行く。

「何という威力ですか⁉︎」

　その氷を何とかかわしたフィーが地上に降りると、魔装具を大剣に変えてから今度は離れた場所からユーキに斬りつける。

「⁉︎　ウインドウォール‼︎」

　何かを察したユーキが、とっさに風の防御壁を展開する。

　その直後、防御壁に何かが激突する。

「やっぱり⁉︎　斬撃を飛ばしてた⁉︎」

「よく気付きましたね。では、これならどうです⁉︎」

　再び離れた場所から大剣で斬りつけるフィー。

(同じ攻撃？)

　しかしフィーの放った攻撃は、今度は風の防御壁をすり抜けてユーキに命中する。

「うぐっ‼︎　ビリッと来たああ！　電撃？　何で？　斬撃を飛ばしてたんじゃ？」

「もう私の能力を忘れたんですか？」

「ネクロマンサーの力で呼び寄せた、霊の力を借りる事でしょ⁉︎」

「いいえ違います。私の能力は、まんじゅうの中身がこしあんかつぶあんかを見分ける能力です」

「使い所無いよ‼︎」

「冗談です。確かに私は霊が生前持っていた能力を借りる事ができますが、同じタイプの魔装具だからといって、使える属性まで同じとは限りませんよ？」

「そっか……同じ大剣タイプだからって、同じ霊とは限らないのか⁉︎」

「そういう事です。それを踏まえた上で、これが防げますか⁉︎」

　間合いの外から、何度も何度も大剣で斬りつける動きをするフィー。

　あらゆる属性の魔法が、ユーキの体を傷付けて行く。

「フィー選手が離れた場所から大剣を振り回しています！　何も見えませんが、ユーキ選手がどんどんダメージを受けている所を見ると、やはり何らかの攻撃が行われているのでしょう‼︎」

「ふむ……目には見えないが、ユーキ君のダメージ具合を見るに、どうやら一撃毎に属性を変えているようだね」

「しかも全て幻術で隠しながらですから、凄い技術ですよ」

　あらゆるタイプの防御壁を展開して対処しているユーキだったが、徐々に押され始める。

(う〜ん、防御壁を重ね掛けしても、すぐそれに対応した斬撃をぶつけて来て壊されちゃう。もうベテランの闘い方だよな〜。やっぱ実年齢は見た目よりもうんと上なのかな？)

　そんな失礼な事を考えていたユーキが、だんだんイライラし始める。

(エターナルマジックで僕の魔力は上がって行ってるけど、御構い無しに攻めて来るもんな〜。いつまでも頭使って防御するのも……)

「もうめんどくさ〜い‼︎　サンクチュアリ‼︎」

　ユーキが叫ぶと、先程闘技場内に展開された魔方陣が光を放つ。

　すると、フィーの周りにぼんやりとした複数の黒い影が浮かび上がる。

「ピュリフィケイション‼︎」

　魔方陣が更に強い光を発すると、浮かび上がった影達が、様々な呻き声をあげながら消滅して行く。

「うぎゃあああ！」

「キャアア！」

「眩しい〜！」

「体が消えるうう！」

「わ〜い！　今日は早く終わった〜！」

「お疲れ様でした〜！」

「バイト代振り込んどいてね〜！」

「バイトかよっ⁉︎」

　フィーの呼び寄せた霊が全て消えた事により、魔装具が元のデスサイズに戻ってしまう。

「やってくれましたねユーキさん。先程の魔方陣がまだ生きていたとは……」

「地面に刺した羽はそのまま残してたからね。まあその分、魔力の消費も激しかったけど」

「何と⁉︎　巨大魔方陣が再び光ったと思ったら、フィー選手の周りに突如現れた無数の影が消滅しました〜‼︎　今のは一体何だったんでしょうか⁉︎」

「んふふ〜、浄化魔法を使ったんですねぇ」

「浄化魔法？」

「以前にメルちゃんが刺された時にぃ、私がレイスを仕留めた技ですぅ」

「あ！　あの時の⁉︎　余りハッキリとは覚えていませんが」

「光属性の天敵が闇属性ならぁ、闇属性の天敵もまた光属性ですからねぇ。天敵同士なら勝敗は魔力の大きさで決まりますがぁ、あの巨大な魔方陣を得たユウちゃんはぁ、今や圧倒的に有利ですからねぇ」

「え⁉︎　でもそれなら、ユーキさんは何でもっと早く決着をつけなかったんでしょうか⁉︎」

　メルクのもっともな疑問に、レノが答える。

「そこはほら、互角の闘いを楽しみたいという、マナの例の悪いクセだろう」

「ああ〜、今はマナさんの顔が前に出てる訳ですね」

「どうしてくれるんですかユーキさん。殆ど仕事してないのにみんな返しちゃって、大赤字です」

「いや、僕に言われても……」

「ユーキさんが強制的に返したんですから、損害分を払ってください」

「何で僕が払わなきゃいけないんだよ⁉︎」

「1人1日1万ジェルで雇ってますので、今日は100人居たから300万ジェル払ってください」

「いや計算おかしいよっ‼︎」