第74話 夢見るユーキ(アイリス編)

 暗闇の中、声が聞こえる。


「……ちゃん……マナちゃん……マナちゃん? ……ナナちゃん? ……バナナちゃん? ……バナナチョコレートパフェちゃん?」

「連想ゲームかっ⁉︎」


「やっと気付いてくれましたね? ナナちゃん」

「マナだけど?」

「そう、マナちゃん」


「あれ? この声、猫師匠じゃない?」

「ええ、私はアイリス……アイリスオー○マです」

「企業名⁉︎」

「いえ、ただのアイリスです」

「この世界の人ってみんなボケたがりなのか? てか、アイリスってカオスが言ってた? 確か2年前までトゥマールの女王様だったって、そのアイリスさん?」

「はい、そのアイリスです」

「それって本当なの?」

「本当ですよ」


「それで、そのアイリスさんが僕の中に居る?」

「そうです」

「でも、今まで一度も話しかけられた事無いよ? 猫師匠はよく来てたけど」

「猫師匠? ああ、テトの事ですね? 今まで話しかけなかったのは、力を封印されてずっとマナちゃんの中で眠ってたからです。まあ、カオスに無理矢理起こされましたけど」


「ち、ちょっと待って⁉︎ 色々聞きたい事はあるけど、今、猫師匠の事テトって言った? 猫師匠ってシャルって名前じゃないの? いやそれよりも、テトって名前、どこかで聞いた事あるような?」

「テトはこの魔法世界を作った3大神の1人、女神テトの事ですよ?」

「へ⁉︎ め、女神? 猫師匠が? 女神テト?」


「姉ええええ様ああああああ‼︎」

「あらテト、いらっしゃい」

「いらっしゃい、じゃないニャアアアア‼︎ 何サラッとあたしの正体バラしてるニャアア‼︎」


「ええ〜? だって〜、私とマナちゃんは今や1つの存在なんですから、別に隠す意味無いでしょ?」

「大ありニャア‼︎ マナはまだ完全には記憶が戻っていないニャ。今なら色々おちょくり放題ニャ。このチャンスを逃す手は無いニャ!」

「おいっ‼︎」


「テトは相変わらずイタズラ好きですね〜。だけどテト? マナちゃんをおちょくるって事は、私をおちょくる事にもなるんですけど、勿論覚悟の上で言ってるんですよね〜?」

「フニャッ⁉︎ あ、いや、その〜。べ、別にあたしはイース姉様をおちょくるつもりは無いニャ! 純粋にユーキ単体をおちょくって楽しんでるだけニャ!」


「私とマナちゃんが融合した姿がユーキなんですから、結局私をおちょくってる事になるわよ?」

「あ、いや! あたしはイース姉様をおちょくるつもりなんて一切無いニャ!」


「あの〜」

「何ニャ⁉︎ 今イース姉様と大事な話をしてるニャ! ユーキはちょっと待ってるニャ!」


「いや〜、それなんだけど……」

「もう! どれの事ニャ⁉︎」


「今ここに居るのって、僕を入れて3人だけだよね?」

「そうニャ! イース姉様は元々ユーキの中に居るし、そこへいつもみたいにあたしがお邪魔してる状態ニャ」


「だからそれなんだけど、猫師匠がさっきから呼んでるイース姉様って誰?」

「フニャッ⁉︎ …………」


「あれ? 黙っちゃった? お〜い! 猫さんや〜い! 出ておいで〜!」

「なななななな! 何を言ってるニャ⁉︎ ユーキ。あたしはイース姉様なんて、一言も言ってないニャ! ただの聞き間違いニャ!」

「いいえ〜、ちゃんと言ってましたよ〜⁉︎」

「姉様は黙ってるニャアアア‼︎」


「ああ〜! テトったら酷〜い! そんな事言うなら、もう全部話ちゃうもん!」

「ちょ、ちょおっと待つニャアア‼︎」


「待ちませ〜ん! テトこそ黙ってなさい‼︎」

「フニャッ⁉︎ ユ、ユーキとのリンクが……ふ、不安定に……」



 アイリスによって猫師匠がユーキの中から追い出された頃、闘技場では闘技場専属のヒーラー達、そしてパティやセラ等の治癒魔法が使える者達が、横たわったままのユーキの元に集まっていた。



「今、ヒーラー達によってユーキちゃんの状態が確認されようとしています。はたしてユーキちゃんは無事なんでしょうか?」



 闘技場全体が、しんと静まり返っていた。



「か、考えたくはありませんが、もし万が一、ユーキちゃんが死亡していた場合は、フィー選手は失格となりますので、おそらくは準決勝で敗れましたトト選手とパティ選手2人により再試合が行われ、改めて優勝者を決定するものと思われます。しかし、そんな事にはならないように祈るばかりです」



 そして再びユーキの意識の中。


「よく聞いてくださいね、マナちゃん」

「う、うん」


「私の名前はアイリス。でもそれは、人間界での仮の名前。本当の名前はイース! この魔法世界を作った3大神の1人、女神イースです!」


「えっ⁉︎ ア、アイリスさんも女神? 3大神の内の1人、女神イース?」

「そう、そしてパラス国の王カオスが、もう1人の3大神アビスです」


「んなっ⁉︎ ちょちょ、ちょっと待ってよ‼︎ またどえらい事実が増えたけど、とりあえずは……何でその神様が僕の中に居るのさ⁉︎ 一体僕とどんな関係があるの⁉︎」

「そうですね……まあ、口でいちいち説明するよりも、マナちゃん自身に思い出してもらう方が早いですね!」

「え⁉︎」

「じゃあ、行きますよ〜!」

「へ⁉︎ 何⁉︎」



 闘技場ではヒーラー達により、ユーキが生きている事が確認された。



「皆様‼︎ ご安心ください‼︎ たった今、ユーキちゃんが生きていると連絡がありました〜‼︎」



 それを聞いた瞬間、客席から大歓声が起こる。


「良かったああ‼︎ ユーキちゃん‼︎」

「ユーキちゃん、生きてたああ‼︎」

「心配したよ〜‼︎」

「いやでも、ユーキちゃんがこんな状態じゃあ、この試合ってフィーちゃんの優勝って事になるのか⁉︎」

「バカッ‼︎ 今は一刻も早くユーキちゃんを治療するのが先だろ⁉︎ そ、そりゃあ俺だってユーキちゃんに優勝してほしかったけど……」



「ユーキさんが無事だったのは嬉しいですけど、この試合はもう……」

「仕方あるまい……私だってユーキ君には優勝して王になってもらいたかったが、今はユーキ君が無事だった事が何よりだ」

「そう、ですね……」


 アイリスにより全てを思い出し、そしてその後の経緯を全て聞いたユーキ。


「そう、だったんだね……ごめんなさいアイリスさん、僕なんかの為に……」

「ダメですよマナちゃん、自分の事をなんか、なんて言っちゃあ」


「いやだって、アイリスさんは女神様なのに、人間である僕を助ける為に……」

「神とか人間とか関係無いですよ。私はマナちゃんの事が好きになった、だから助けた。それだけの事です。至極単純で当たり前の行動でしょ?」

「好きな人の為なら体を張って助ける……フフ、確かに分かりやすいね」

「でしょ?」



 闘技場では、試合の決着がつけられようとしていた。

 闘技場の端ではセラとパティが、試合が終わり次第ユーキを治療しようとスタンバイしていた。


「ほら、レフェリー‼︎ 早くカウントを数えなさいよ‼︎ すぐにでもユーキを治療したいんだから‼︎」

「わ、分かった! では、ユーキ選手の生存が確認されたので、ダウンカウントを取る‼︎」


 そう言って倒れているユーキの元へ駆け寄るレフェリー。



 そしてまたまたユーキの意識の中に、猫師匠がお邪魔していた。


「はあ……姉様、とうとう全部話してしまったのかニャ?」

「ぜ〜んぶ話ちゃった」

「まあ、楽しいひと時もいつかは終わる物ニャ。ユーキをおちょくる事はもう諦めるニャ」

「ホント、タチの悪い神様だな〜」


「ニャハッ! でもいいのかニャ? いい加減に起きないとユーキの負けになってしまうニャ。もう既にダウンカウントは始まってるニャ!」


「ええ〜‼︎ は、早く起きないと‼︎ え⁉︎ これどうやったら目覚めるの⁉︎」

「はわわわっ⁉︎ ああえと、私が強制的に起こしますから、目をつぶってくださいマナちゃん‼︎」

「分かった‼︎」


「でもいいのかニャ⁉︎ ユーキの魔装具は壊れてしまったニャ。このまま起きても、結局何も出来ずに敗北するのは目に見えてるニャ」

「ああああ〜‼︎ そうだったあああ‼︎」

「ええええ〜‼︎ そうなんですかあ⁉︎」


「あ! 今カウントファイブニャ」


「どどどどど、どうしよどうしよどうしよ⁉︎」

「おおおおお‼︎ お餅ついて! いや、鐘突いて! じゃなくて、落ち着いてくださいカナちゃん‼︎」


「アイリスさんこそ落ち着いて〜‼︎」




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