第69話 お化け屋敷と絶叫マシーン、どっちが怖い?

 ユーキとフィーの駆け引き。

 そしてパティの顔芸が繰り広げられていると、遂に上空からユーキの放った巨大な炎の塊が落下して来る。

 その膨大な熱量により、辺り一面に激しい蒸気が立ち昇る。



「直撃いい‼︎ 落下して来た炎の塊が地上の2人に直撃しましたああ‼︎ 凄まじい熱量によって、闘技場内は蒸気で覆われて何も見えません! はたして2人は無事なんでしょうか⁉︎」



 程なくして蒸気が晴れる闘技場。

 フィーは明らかにダメージを受けた様子でダウンしていたが、ユーキは何事も無かったように立っていた。



「居ました〜‼︎ どうやら2人共無事のようです! ですが、フィー選手はかなりのダメージが見て取れます! しかし、一方のユーキ選手には全くダメージが無いのか? 普通に立っています! いやむしろ、先程よりも魔力が高まっているようにも見えます‼︎」



 フラつきながら立ち上がるフィー。


「同じように魔法の直撃を受けて、何故平気で……」


 ユーキの全身を流れる魔力を見てハッとなるフィー。


「エターナルマジック……そうでしたね。あなたにはその能力があったんでしたね。全く、歳をとると忘れっぽくていけませんね」

「歳の事を言うなら、僕だって似たようなもんだよ」

「フフ、確かにユーキさんの精神年齢は35才のおっさんかもしれませんが、肉体年齢は14才の少女でしょう?」

「ん、まあそうなんだけども」


「ですが、肉体は確かに14才なのに、何故別世界の35年分の記憶があるのか……不思議に思った事はありませんか?」

「そ、そりゃ変だとは思うけど、僕がマナ王女なのはどうやら間違いないって確信があるから、やっぱりおっさんの記憶が偽物なのかな〜って」


「いいえ。マナ王女としての14年間の記憶も、おっさんとしての35年間の記憶も、どちらも間違いなくユーキさんの記憶ですよ」

「へ⁉︎ いやいや、それだと僕の実年齢49才になっちゃうよ!」

「まあ、考えようによってはそう言えなくもないですね」

「マ、マジか……」


「フィーの奴! またお得意の動揺作戦で来たわね」

「パティちゃんがまんまとハマったやつですねぇ」

「わ、悪かったわね!」


「ふむ……しかし、言葉によって相手の心を揺さぶるのは理にかなっている。魔力というのは、術者の精神状態によって弱くもなるし、逆に無限の魔力を引き出す可能性だってあるのだからね」

「んふふ〜、とても12才の少女が使う戦法ではないですねぇ。あながちパティちゃんの母親っていう話も嘘じゃないかもしれませんねぇ」

「ぐうっ」



 なおもユーキに揺さぶりをかけるフィー。


「それにしても、あなたは本当にマナ王女なんですか⁉︎」

「な、何を今更⁉︎」

「そもそも始めにパティと出会った時、あなたは異世界から来た35才のおっさんだと疑わなかった。しかしリーゼルでカオスとの戦いを経て、マナ王女としての記憶が目覚めた。そして今度はおっさんだった頃の記憶を疑い始めている」


「僕がこっちで行方不明になってから2年しか経ってないんだから、おっさんの記憶を疑うのは当然だろ⁉︎ それに、周りのみんなが間違いなく僕はマナ王女だって言うんだし!」

「先程も言いましたが、マナ王女としての記憶もおっさんとしての記憶も本物。しかしそれでは年数が余りに違い過ぎる」


「いや〜、だから、この世界の2年は向こうの世界の35年に相当する、とか?」

「そんな訳ないでしょう。どこのB級SF小説ですか?」

「予想してた人に失礼だよっ‼︎」


「こういうパターンならありえますよね? 向こうの世界に居た35才のおっさんの精神だけがこの魔法世界に転移して来て、マナ王女の肉体に入った、とか……」


 ハッとなるユーキ。


「た、確かにそれなら年数の誤差もおかしくないし、両方の記憶を持ってる事も、おっさんの記憶とマナの記憶が混ざっちゃったって事なら納得がいく……」


 みるみる魔力が低下して行くユーキ。


「ダメよユーキ‼︎ フィーの言葉に惑わされないで‼︎」


 客席でパティの叫びがこだました時、完全に動揺しているユーキに仕掛けるフィー。


「隙ありです」

「んなっ⁉︎」


 突如ユーキの周りが、完全な闇に覆われる。


「何だ⁉︎ 何も見えない⁉︎ くっ、ライト‼︎」


 光魔法を使うユーキ。

 一瞬光が発するが、すぐに闇に飲み込まれて消えてしまう。


「消えちゃった⁉︎ くそっ! なら、ファイアー‼︎」


 今度は炎魔法を使うユーキだったが、またしてもすぐ闇に飲み込まれてしまう。


「何ですぐ消えちゃうんだ? 魔力の差なのか?」



「ああっとお‼︎ ユーキ選手がいきなり黒い球体に包まれてしまいました〜‼︎ これはフィー選手が仕掛けた物なんでしょうか⁉︎ 球体の中は完全な闇! 全く中の様子を伺う事が出来ません‼︎」



 球体の中で、ユーキの様子をジッと見ているフィー。


(ユーキさん。あなたは様々な魔装具やあらゆる属性の魔法を使いこなす為余り目立ちませんが、本来のあなたの属性は光。そして私の属性は闇。つまりユーキさんの1番の天敵という事です。もっとも、ユーキさんの精神状態が万全ならば、逆に私の闇の方がユーキさんの光に飲み込まれるでしょうけど。今の動揺したあなたにこの闇を打ち払う事は出来ないでしょう?)



「ユーキさん、出て来ませんね?」

「そうか!」

「⁉︎ アイバーン様⁉︎」


「エターナルマジックを使い始めて、ユーキ君にはすっかり完全無敵の印象を持っていたが。かつてリーベンでのイベントでユーキ君と暗い洞窟を探検した時、ユーキ君はやたらと私の腕にしがみついてきたのだ」

「なんですってえええ!」


 拳を握り、怒りに震えるパティ。


「今思えば、ユーキ君が暗がりを恐れたのは、属性による影響だったのかもしれないな」


 アイバーンに続いてエピソードを語るセラ。


「ああそういえばぁ。子供の頃、リーゼルに泊まった時はぁ、夜中によく一緒にトイレに行ってほしいって言って起こされましたねぇ。その間ずっと私の腕にしがみついていたのを思い出しますぅ」


 アイバーン達の話を聞いて、良からぬ事を考えるパティ。


「そ、それはつまり暗いだけでそれなら、ユーキをお化け屋敷にでも連れて行けば、抱きつかれ放題って事よね⁉︎」


「この状況でその発想が出来るパティちゃんを尊敬しますぅ」



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