第70話 ユーキ後ろ〜!

 暗闇の中で怯えているユーキ。


「もう、アメリカのホラー映画みたいに、いきなり脅かすのは無しだからね〜」


 両手で辺りを探りながら進むユーキ。

 すると、背後でガサッと物音がする。


「ヒッ‼︎」


 ビクッとなり、音のした方を向いて身構えるユーキ。


「フィー⁉︎ ねえ‼︎ 居るなら返事してよ⁉︎ こんな暗闇だとお客さんにも見えないしさ! ちゃんと明るい所で闘おうよ‼︎ ねえ! 聞いてる⁉︎」


 震える声で訴えるユーキ。


「あの〜、もしも〜し! フィーさん⁉︎ いらっしゃいませんか〜⁉︎」


 少し間が空いてから、ようやく応えるフィー。


「ちゃんと居ますよ」


 急に声がして、またしてもビクッとなるユーキ。


「もう! いきなり喋んないでよ!」

「返事しろと言ったり喋るなと言ったり、無茶振りですか?」

「暗闇でいきなり喋んないでって言ったの! ねえ! さっきも言ったけど、明るいとこで闘おうよ⁉︎ お客さんも居るんだしさ⁉︎」


「それはお断りします」

「何でさ⁉︎」

「闘う相手の弱点を突くのは、勝負の鉄則だからです」

「じ、弱点? な、何言ってんのさ⁉︎ 僕がこんな暗闇、怖がる筈無いだろ〜? これはお約束のリアクションだよリアクション!」


 少し明るい声のトーンで喋るフィー。


「え⁉︎ そうだったんですか? ユーキさんはてっきり暗闇やお化けの類が苦手なのかと思ってました」

「そんな訳ないだろ〜⁉︎ 子供じゃあるまいし」

「それもそうですね。ではせっかく呼び出したお友達も無駄足になりそうですね」

「へ⁉︎ お友達って?」


 その直後、暗闇の中から突然ユーキの目の前に、恐ろしい顔をした女の幽霊が現れる。


「いやああああああああああ‼︎‼︎」


 悲鳴をあげながら、一目散に逃げ出すユーキ。



「何だ〜⁉︎ ユーキ選手を包み込んでいた黒い塊が、突如移動を始めました〜‼︎ 闘技場にユーキ選手やフィー選手の姿は見当たりませんが、この玉は一体何を目指して移動しているのか〜⁉︎」



「あの玉、何故急に動き出したんでしょうか?」

「ふむ……おそらくは取り込まれたユーキ君が、中で移動しているのだろう。だから周りの玉も追いかけるように移動した」


「んふふ〜、本当ならこの闘技場全体を包み込めたら1番いいんでしょうけどぉ、さすがにフィーちゃんにそこまでの魔力は無いんでしょうねぇ」

「そうか、だから中のユーキさんの動きに合わせて移動させるしか無いんですね?」


 どんどん移動していた玉だったが、遂に闘技場の壁に当たって停止する。


「あ痛あああ‼︎」


 玉の中では、壁にぶち当たったユーキが、頭を抑えながら転げ回っていた。


「痛ああ! 思いきり頭打ったあ! もう! フェザーシールド‼︎」


 魔装具をヒーラータイプに変化させるユーキ。


「ヒーリング!」


 シールドから羽を撃ち出し、自分に治癒魔法をかけようとしたユーキだったが、先程と同じように一瞬羽が光るだけで、殆ど魔法効果は無かった。


「ぐぬぬ〜、そっか。治癒魔法は光属性だから、この中では殆ど効かないのか〜⁉︎ あ! という事は、マジックイレーズでこの闇を消すのも無理って事か?」


 脱出の方法を考えていると、ある事にふと気付くユーキ。


(あれ? そういえばさっき僕、何に当たったんだ⁉︎)


 立ち上がり、ぶち当たった何かを探るユーキ。

 暗闇の中を手で探ると、壁らしき物に触れる。


(壁? これってもしかして、闘技場の壁か? つまり僕は、いつの間にか闘技場の壁まで走ってたって事か……え? じゃあこの闇って、闘技場の端から端まであるって事?)


 腕組みをして考えるユーキ。


(いや、まさかね。下準備も無しにこれ程広範囲に魔法空間を作り出すなんて、僕がエターナルマジックを使っても簡単に出来る事じゃない。て事は、この空間ってもしかして……」


 ユーキが壁を前にして考えていると、背後から誰かがトントンとユーキの肩を叩く。


「ごめん、ちょっと待ってね」


 闇に消える手。

 少し経ってから、さっき消えた手がまたユーキの肩を叩く。


「だから、ちょっと待ってってば!」


 またスウッと闇に消える手。

 しかし、すぐにまたユーキの肩を叩く手。


「もう‼︎ 分からない人だな〜‼︎ 今、考え事をしてるから待ってって言ってる……」


 ユーキが振り返るとそこには、さっき闇から現れた女の幽霊がニヤリと笑っていた。


「いいいやああああああああ〜‼︎‼︎」


 再び悲鳴をあげながら逃げ出すユーキ。



「ああっとお⁉︎ 壁に当たって止まっていた玉が、再び移動を始めました〜‼︎ それにしても、先程から両選手の姿が見えない為、わたくし実況に困っております。誰か状況を説明していただきたいものです!」

 


 しばらく走っていたら、また壁にぶち当たって倒れるユーキ。


「痛いな〜、もう! だけど、これだけ走ったんだから振り切れた筈……」


 だがユーキが振り返ると、すぐ背後にまた女の幽霊が居た。


「いやああああ‼︎ 足無いのに、何で足早いんだよおお‼︎」


 また別方向に走るユーキ。

 そんな調子で、走っては壁にぶち当たりまた別方向に走るというのを繰り返すユーキ。



「ああっとお‼︎ 先程から、移動しては壁に当たって止まり、また移動しては壁に当たるというパターンですが、その動きはさながらロボット掃除機のようだ〜‼︎」



「上手い事言うわね⁉︎」

「感心してる場合じゃないですよ、パティさ〜ん」



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