第68話 告ってないのにフラれた、みたいな?

 ユーキが振りかぶったロッドの動きに合わせて移動する炎の塊。


「いっくぞおおお‼︎」

「来なさい」

「でやああああ‼︎ バーニング! ファイアー‼︎」


 ユーキが叫びながらロッドを振り下ろすと、炎の塊はフィーの居る方ではなく、ほぼ真上に飛んで行ってしまう。


「え⁉︎」


 まさかの結果に、呆気に取られながら空の彼方に飛んで行く炎の塊を見つめているフィー。



「大暴投だあああ‼︎ ユーキ選手が放った炎の塊が、全く見当違いの方向に飛んで行きましたああ‼︎ フィー選手、さすがにこれは打ち返せません‼︎」



「だから、野球じゃないって……⁉︎」


 パティが視線を下に移した時、既にユーキはフィーの眼前まで迫っていた。


「ユーキ⁉︎ いつの間に?」


 ほぼ同時に、ユーキの接近に気付くフィー。


「なるほど! 随分派手なフェイントですね⁉︎」


 即座に大剣を横になぎ払うフィー。

 その大剣をスライディングしてかわしたユーキが、下から大剣の柄の部分を蹴り上げる。


「ぐっ!」


 肉体強化魔法がかけられたユーキの強力な蹴りに、思わず大剣を離してしまうフィー。

 蹴られた大剣が回転しながら中を舞う。


「魔装具そのものが無かったら、シールドに変化させる事も出来ないでしょ⁉︎」

「くっ!」


 フィーの懐に潜り込み、パティ直伝の悶絶ボディブローを炸裂させるユーキ。


「ぐふうっ‼︎」


 吹っ飛ばされてダウンするフィー。



「ああっとお‼︎ 打ち上がった炎に気を取られている間に、闘技場の方ではユーキ選手のボディブローをくらってフィー選手がダウンしています‼︎ しかもフィー選手は魔装具を手放してしまっている〜! こ、これは、試合開始早々早くも決着か〜⁉︎」



「そんな訳ないでしょう?」


 レフェリーがカウントを取りに来るが、何事も無かったようにスッと立ち上がるフィー。

 そんなフィーの様子を見て驚くアイバーン。


「ば、馬鹿な⁉︎ いくら本家には及ばないにしても、パティ君直伝の悶絶ボディブローをくらってあんなにすぐに立ち上がれる訳がない! 私など、何回お花畑を見た事か⁉︎」

「アイバーン様、よくそのまま朝を迎えてましたもんね?」


 自分の右拳を見つめながら、納得の表情のユーキ。


「感触が変だと思ったけど、飛んで行った大剣は偽物だった訳か……」

「そういう事です。ユーキさんに蹴られた瞬間に大剣から盾に変化させて装着し、幻術で大剣が飛ばされたように見せたんです。まあもっとも、破壊力の大きさに体ごと持って行かれましたけどね」


 フィーの言葉通り、地面に突き刺さっていた大剣がスウッと消滅して、フィーの左腕にシールドが現れる。



「何とフィー選手! いつの間にか魔装具をシールドタイプに変化させていました! 確かにこれなら、すぐに立ち上がれた事にも納得がいきます!」



「う〜ん。色んなタイプの魔装具を使えて、更に幻術まで織り込んで来るなんて、中々厄介だな〜」


 腕組みをしてぼやくユーキ。


「ご自分の能力を棚に上げてよくおっしゃいます。そんなふざけた事を言う口は、私の口で塞いであげましょうか?」


 フィーの言葉に、顔を真っ赤にしてうろたえるユーキ。


「口でって⁉︎ な、何バカな事言ってんだよ⁉︎」

「フフ、照れちゃって……かわいいですね」


 ユーキとフィーのやり取りを聞いていたパティの目が血走っていた。


「フィーのやつうう‼︎ もしもユーキのクチビルを奪ったりしたら、八つ裂きにしてみじん切りにしてハンバーグにして、セラに食べさせてやるんだからああ‼︎」

「いや、いくら私でもそんなの食べませんからねぇ」


 少し怒りぎみのユーキが、フィーに仕掛ける。


「バカにしてえ! そんな事言う娘にはこうだ! エアバインド‼︎」


 フィーの両手足を、風のロープが絡め取る。


「この程度で私の動きを止められるとでも?」

「思ってないよ!」


 素早くフィーの背後に回り込み、スリーパーホールドを仕掛けるユーキ。


「絞め技⁉︎ ですがこんな技で私に勝てるとでも?」

「思ってないってば!」


 フィーがユーキの技を振り解こうともがいていると、急に動きを止めて空を見上げる。

 フィーが見上げた先には、さっきユーキが打ち上げた炎の塊が、放った時よりも遥かに巨大なサイズになって落下して来ていた。



「何とおおお‼︎ 遥か上空から先程ユーキ選手が大暴投した炎の塊が、闘技場の2人目掛けて落下して来ます‼︎ これは完全に直撃コースだ〜‼︎ しかも、ここから見ても明らかに巨大になっているのが分かります‼︎ ま、まさかユーキ選手は、初めからこれを狙っていたのかああ⁉︎」



「これが狙いでしたか? しかし、このままではあなたもダメージを受けますよ⁉︎ ユーキさん‼︎」

「だって離したら逃げちゃうじゃない」


「分かっているのですか⁉︎ いくら自分の放った魔法でも、無防備な状態で受ければただでは済みませんよ⁉︎」

「うん、だから我慢比べだね」


 うろたえるフィー。


「で、ではこうしましょう! 離してくれたら、私の秘密を全部喋りますから!」

「どうせこの試合に勝ったら教えてくれるんでしょ? ならいい」


「では、シャル様の正体を教えますから!」

「猫師匠も、この試合が終わったら締め上げて無理矢理吐かせるからいい」


「ではでは、ユーキさんとパティの結婚を認めますからああ!」


 ピクッとなるパティ。


「いや、別に僕は望んでないから‼︎ それに、本当の姉妹なんだったら結婚出来ないでしょ⁉︎」


 落ち込むパティ。


「そこはほら、どちらか優勝した方が法律を変えてしまえばいいんですよ! もし私が優勝したとしても、結婚出来るようにしますから!」


 ハッとなるパティ。


「え⁉︎ そっか……王様になると、そんな事までできちゃうんだ? てか、そもそも僕はパティと結婚するつもりは無いからああ‼︎」


 激しく落ち込むパティ。


「何ですかぁ、パティちゃん。顔芸の練習ですかぁ?」



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