第65話 味あわせるじゃなくて、味わわせる

 準決勝が終わり、宿屋に戻って来たユーキ達。

 フィーから聞かされた衝撃の事実をみんなに話すパティ。


「ええ〜⁉︎ パティさんとユーキさんが、実の姉妹⁉︎」

「しかもフィー君がパティ君の母親だったとは……」

「パティ姉様もリーゼルの王女様?」

「これで全員、王女様なのです」

「か、考えてみれば凄いメンバーだな⁉︎」

「こんな凄いチームに入れて、俺様も誇りに思うぞ!」

「貴様はいつの間にメンバーになったのだ⁉︎ ブレン」


 それを聞いたユーキも、驚きを隠せないでいた。


「パティが僕の……腹違いのお姉ちゃん?」

「しかしその話、本当に真実なのかね?」

「そ、そうですよ! パティさんを惑わす為に、フィーさんが嘘を言ってる可能性だって!」


「そりゃあ確たる証拠がある訳じゃないけど、一応辻褄は合ってるのよね……猫師匠を締め上げて白状させようと思ったけど、既に逃げた後だったし……」

「んふふ〜、パティちゃんの試合中は離れた席で観てたんですけどねぇ。でもまあ確かにぃ、パティちゃんが闇属性じゃないっていうのはぁ、みんなが疑問に思ってた事ですからねぇ」

「何ですってえ‼︎」


 考え込んでいるユーキ。


「証拠、証拠……あっ! いるじゃない! 1番の当事者が!」

「当事者? あっ、そうか!」


 ユーキに連れられてパティ達の居る部屋に入って来るマルス国王とレナ王妃。


「嬉しいぞマナちゃん! 遂に私もみんなの集会に参加させてもらえるなんて!」


 その数分後、満面の笑みを浮かべていたマルス国王の顔が、恐怖に引きつっていた。


「あ〜な〜た〜!」

「さあ! どういう事か説明して! 父様!」


 マルス国王を問い詰めるユーキとレナ王妃。


「ま、待て‼︎ わ、私には全く身に覚えの無い事なんだ‼︎」

「本当に〜⁉︎」

「本当だ‼︎ 私を信じてくれ、マナちゃん‼︎」

「じゃあ嘘ついて無いって言うなら、僕の目を見て‼︎」


 そう言ってマルス国王の正面に座り、じっと目を見つめるユーキ。


「うっ! ぐむむむむ……」


 しかし、ユーキの直視に耐えきれず、頬を赤くして顔を背けてしまうマルス国王。


「ああ〜‼︎ 目をそらした〜⁉︎ 父様、やっぱり〜‼︎」

「ち、違う‼︎ マナちゃんにじっと見つめられれば、誰だってこうなる‼︎」


「ふむ……確かに」

「よく分かります」


 ユーキ以外の全員が強くうなずいていた。

 だが、なおもマルス国王への追求をやめないユーキとレナ王妃。


「ねえ父様‼︎ お願いだから正直に話して‼︎」

「あなた! 今ならまだ許しますから」

「は、話してと言われても、知らない事は話せないのだ‼︎」


「そう、なんだ……」

「分かりました……」


 深くうなだれるユーキとレナ王妃。


「分かってくれたか⁉︎」

「ええ、やはり体に直接聞くしかないようですね」

「残念よ、父様」


 レナ王妃とユーキの目が光る。


「レ、レナさん? マナちゃん?」


「マナちゃん! あれをやるわよ!」

「ハイ! 母様!」

「あ、あれってまさか⁉︎ や、やめてくれええ‼︎」


 絶叫するマルス国王の上半身へ、レナ王妃がチキンウイングフェイスロックを、下半身へユーキが足4の字固めを極める。


「うぎゃああああああ‼︎」


 マルス国王の悲鳴が、部屋に響き渡る。


「ち、ちょっとお2人共! 他のお客さんの迷惑になりますから!」

「大丈夫よメル君。この部屋の音は遮断したわ!」

「な、なんとうらやましい! 俺にもかけてくれ、マナ!」

「ふむ……だがどうせなら、ユーキ君には上半身に回ってもらいたいものだな」


 誰もマルス国王を心配する者はいなかった。

 そして10分後、ようやく技を解かれて解放されたマルス国王。


「ひ、久々に受けたが……や、やはり何と恐るべし合体技、だ……ガクッ」


 気絶するマルス国王。


「私達の合体技を受けてもまだ口を割らないなんて〜」

「父様、本当に無実なのかな?」


「ふむ……どうやら、フィー君に一杯食わされたようだね? パティ君」

「あ、の、娘ったらああ‼︎」


 怒りに震えるパティと、気まずそうにしているセラ。


(パティちゃんとマナちゃんが姉妹なのは本当なんですよねぇ。でもマルスのおじ様が身に覚えが無いのもまた本当なんですよねぇ。んふふ〜、私が全部知ってるのを黙ってるって事がバレたらぁ、パティちゃんに殺されそうですねぇ)


「パティ、大丈夫?」

「ええ! 嘘だと分かった以上、もう何も問題は無いわ! だってこれで心置きなくユーキと結婚出来るんですもの‼︎」

「いや、僕の意志は⁉︎」


「せっかくライバルが減ったと思ったのに……」

「残念だったわね、ネム⁉︎ ユーキは誰にも渡さないわ‼︎」

「ネムの方がお金あるよ? ユーキ姉様」

「子供がそういう事言うんじゃありません!」


 ネムの言葉にハッとなるセラ。


(お金? そういえばぁ、この大会に参加した五国にはそれぞれ興行収入が山分けされるんでしたねぇ。つまりは私達ヴェルンにも相当の収入が見込める訳ですぅ。猫さんから口止め料として、一生スイーツ食べ放題という賄賂をもらってますがぁ、考えてみればそれぐらい充分自分で出来ますよねぇ?)


 しばし考えたセラが決心をする。


(うん! もうここまでで随分謎も解明されましたしぃ、後は1番大きな事実ぐらいですからぁ、もうそろそろバラしてもいいですよねぇ)


「あのぉ……みなさぁん」


 全ての真実を話そうとするセラであったが、その声がユーキ達に届く前にアイバーンが口を挟む。


「しかしパティ君。一応フィー君の言った事も筋は通っているのだ。真実である可能性もまだ捨てるべきでは無いと思うが?」

「どっちにしても、明日の決勝戦が終わったら師匠共々捕まえて、もうありとあらゆる拷問技をかけて、無理矢理白状させてやるわ‼︎」


 ピクリとなり、動きを止めるセラ。


「でもパティさん、それでフィーさんの言った事が全部本当だったらどうするんですか?」

「その時は……2人揃って17年間もずっとあたしを騙してたって事なんだから、もうギタギタのメタメタにして、死んだ方がマシって思うぐらいの苦痛を、延々と味わわせてやるわ‼︎」

 

 黒いオーラを発して、怒りに震えながらもどこか嬉しそうな表情でニヤリと笑うパティ。

 それを見たセラが、黙ってスッと元の位置に戻る。


(ん、んふふふふ〜。やや、やっぱり最後まで黙っていた方が面白そうですよねぇ、うんうん)


 絶対パティにだけはバレないようにしようと、固く心に誓うセラであった。




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