第64話 悪魔の目にも涙
「ヘルヘイム‼︎」
以前にカオスが放った強大な闇魔法を放つパティ。
「最上級魔法を無詠唱で⁉︎ これはいけませんね。ヘルヘイム‼︎」
同じ闇魔法を放って対抗するフィー。
2人の放った巨大な魔力の塊がぶつかり合って、均衡を保っていた。
「極大魔法激突〜‼︎ パティ選手、フィー選手共に放ちました、おそらくは同じ魔法だと思われますが、ぶつかった魔法がそのまま両者の中央でとどまっています‼︎ 一体どちらの魔法が打ち勝つのでしょうか〜⁉︎」
「凄い! あんな強大な魔法の撃ち合い。まるでユーキさんとカオスの戦いを見てるみたいですね!」
「ふむ……あれ程強大な魔力だ。おそらく食らった方はひとたまりもないだろう」
「パティ、頑張って……」
均衡を保っていた魔法が、徐々にフィーの方に傾き始める。
「私が押されてる⁉︎ パティ……全く、末恐ろしい娘ですね。シャル様が闇魔法を教えなかったのは正解だったようですね」
(しかし……)
強大な魔力を放ち続けているパティの体の所々が裂けて、出血し始めていた。
(余りに強大な魔力を放った事によって、パティの肉体が耐えきれなくなっているようですね。このままでは……)
「ああっとお⁉︎ パティ選手の体から出血が見られます‼︎ こ、これは危険な状態では無いんでしょうか〜⁉︎」
フィーがレフェリーをチラリと見るが、レフェリーはパティの放った魔力の衝撃波にやられて、気を失っていた。
(レフェリーストップは望めませんか。このまま闘いが長引けばパティは、自分自身の魔力で命を落としかねない。かと言って、私もここで敗れる訳にはいきませんし。 仕方ありませんね。少々危険ではありますが、更なるショック療法と行きましょうか)
「パティ‼︎ 聞こえていますか⁉︎」
フィーの問いかけに答えないパティ。
パティの目は虚ろで、半分意識が無いような状態だった。
(魔力切れを起こしかけてる? 急がないと!)
「聞きなさいパティ‼︎ さっき言った私とカオスが兄妹と言う話は真実です! あなたが私の娘と言う話も真実です! 17年もの間黙っていた事は本当にごめんなさい! 確かに、ユーキさんを殺そうとしたカオスが許せないという気持ちは分かります。でも信じてください‼︎ カオスは、本気でユーキさんを殺すつもりなんて無かったんです‼︎」
ピクリと反応するパティ。
「パティ! かつてあなたは、カオスと圧倒的な力量差がありながら殺されませんでしたね⁉︎ それはあの時既に、パティが私の娘であると、カオスが気付いていたからです! いくら暴虐の王であるカオスといえども、身内であるパティは殺せなかったんです! そして、カオスにとって同じく身内であるユーキさんを殺すなんて事は絶対に無いんです‼︎」
「身、内……? ユーキ、が……?」
パティの意識が戻りつつあった。
「何故ならパティ! あなたの父親は、リーゼルのマルス国王なんですから‼︎」
「なんっ、ですって⁉︎ あたしの父親が、リーゼルのマルス国王? え⁉︎ でも……だって……マルス王ってマナの……ユーキのお父さんじゃ……」
パティの魔力が急激に減少して行く。
「そうです‼︎ あなたの父親はユーキさんと同じ、リーゼル国のマルス様なんです! つまりパティ! ユーキさんは、あなたの実の妹なんです‼︎」
まさかの事実を聞いたパティが呆然となる。
「ユーキが、あたしの妹? あたしとユーキは姉妹? え⁉︎ じ、じゃあ、あたしは……ユーキと結婚、できない……?」
パティから噴出していた魔力が完全に消滅し、2人の間で均衡を保っていた魔力の塊が、一気にパティに襲いかかる。
「危ないパティ‼︎ 避けてえええ‼︎」
ユーキの叫び声がこだまする。
「パティ‼︎ グヌヌヌヌ‼︎」
両腕で何かを掴むようにして、パティに向かって行く魔力弾の軌道を変え、上空に逸らすフィー。
魔力の塊が当たる事は無かったが、全身の力が抜けたように、その場にペタンと座り込むパティ。
「ふう! 危ないとこでした」
安堵したフィーがレフェリーの元へ駆け寄って行き、レフェリーに治癒魔法をかける。
「う……うん⁉︎ わ、私は一体?」
程なくして、意識を取り戻すレフェリー。
「レフェリーさん、ほら! パティさんがダウンしてますよ? 早くカウントを数えてください!」
「え⁉︎ あ、ああ! 分かった!」
フィーに促されて、カウントを数えるべくパティに近付いて行くレフェリー。
「2人の間で均衡を保っていた魔法でしたが、パティ選手の魔力が尽きたんでしょうか⁉︎ 一気に均衡が崩れました! 魔法弾はパティ選手の直前で逸れたように見えましたが、どこかに当たったんでしょうか? パティ選手がずっと座り込んだまま動く様子が無い為、今レフェリーがダウンカウントを取るようです‼︎」
「パティさん、魔法弾に当たったんでしょうか⁉︎」
「いや、パティ君には当たっていない。フィー君が直前で逸らしたようだ。しかし、パティ君のあの様子ではもう……」
「パティ……」
結局、レフェリーがカウントを数え終わるまで、パティが立ち上がる事は無かった。
「テンカウント〜‼︎ パティ選手、座り込んだまま立つことができません〜‼︎ やはり、先程の極大魔法の撃ち合いで、完全に魔力を使い果たしたようです! 準決勝第2試合は、フィー選手の勝利です! これにより明日の決勝戦は、ユーキ選手対フィー選手の闘いとなりました〜‼︎ 果たして優勝するのはどちらか〜⁉︎」
「パティ‼︎」
依然、座り込んだまま動かないパティを心配して、闘技場に飛び込むユーキ。
「パティ‼︎ 大丈夫⁉︎ どこかケガしたの⁉︎」
パティの前に座り込んだユーキが、心配そうにパティの顔を覗き込む。
「ユー、キ……?」
「うん、そだよ! 大丈夫なの? パティ」
ユーキの顔を見た途端、激しく泣きじゃくりながらユーキに抱きつくパティ。
「うあああああ〜‼︎ ユーキいいい‼︎」
「パ、パティ⁉︎ どうしたの? どこか痛いの? ねえ⁉︎」
しかし、何も言わずにひたすら泣きじゃくるパティ。
「……そっか……うん、分かったよ……」
何かを察したように、優しくパティを抱きしめるユーキ。
心配そうにパティを見つめるフィー。
(パティ……こんな、わずかの間に色々聞かされて、さぞかしショックだったでしょう? ごめんなさい。この大会が終わったらシャル様を連れて、改めて謝りに行きますから、許してくださいね)
依然として、ユーキに抱きつきながら泣いているパティ。
(今まで、人前で涙を見せるなんて事の無かったパティがこんなにも……どうか、心を強く持って……)
中々泣き止まないパティに声をかけるユーキ。
「ねえパティ⁉︎ ケガが無いなら、そろそろみんなの所に帰ろ? それともやっぱりどこか痛いの?」
「体は痛くないわああ! 痛いのは心だけよおお! この痛みを消す為に、もうちょっとこのままでええ!」
少々芝居掛かった口調で訴えるパティ。
「うう〜。わ、分かったよ。もう少しだけね?」
「ありがとおお、ユーキいいい!」
観念してパティに身を委ねていると、徐々にいやらしい手つきでユーキの体を触り始めるパティ。
「ん? パティ、ちょっとくすぐったいんだけど?」
「そう? ごめんなさいね」
「な、何だか手つきが変……」
「そんな事ないわよお」
「ち、ちょっと! 変なとこ触って……アンッ!」
次の瞬間、ユーキの鉄拳がパティの脳天に炸裂していた。
「痛ああい‼︎ 痛い! 痛いわユーキ! たった今、頭が割れるように痛くなったわ‼︎」
「僕が今殴ったからね‼︎」
「治療して、ユーキ! 頭を撫で撫でしてええ!」
「それだけ元気なら心配無いよ! ほら! みんなの所に帰るよ!」
パティを置いて、サッサと帰って行くユーキ。
「ああ! 待ってえ、ユーキ〜‼︎ お姉ちゃんを置いてかないでえええ‼︎」
(うん、どうやら大丈夫そうですね!)
いつも通りのパティを見て、ひと安心のフィーであった。
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