第61話 動物から学ぶ事は沢山あるね

 パティがフィーに小馬鹿にされている頃、アイバーン達の居る客席にやって来るアイリスとトト。

 子猫師匠は少し離れた席に座っていた。


「あ! ユーキさん、お疲れ様です!」

「ユーキ君、その少年はもうカオスではないのかね?」


 オドオドしながら、スッとアイリスの後ろに隠れるトト。


「ええ、この子の中にはもうカオスは居ません。フィーちゃんのおかげで、この子の魂を戻す事が出来ましたから、この子は純粋なトトちゃん本人ですよ」

「そうか……ならいいのだが。ところで……君の方は今、どういう状態なのだね? ユーキ君」


 トトと共に、席に座るアイリス。


「今の私はアイリスです」

「アイリス……カオスが以前言っていた名だが、アイリスとは一体何者なのかね?」

「ふう……やはり普通の人は私の事を覚えてないんですね」


 段々目が虚ろになって行くアイリス。


「覚えてない? それはつまり、私達は以前からあなたと面識があったという事か? ユーキ君ではなく、アイリスとしてのあなたと」

「全員ではないですけどね〜。でもアイ君団長にまで忘れられてるのはショックですね〜」

「な⁉︎ 私とあなたは一体どういう関係なんだね?」


 慌てた様子でアイリスに問うアイバーンだったが、そのアイリスは何度も落ちて来るまぶたを、必死に開いていた。


「アイ君は……いつも私の側で(王宮で)……私を見守ってくれていた(王国騎士団団長として)……私の……もっとも……大切な(臣下)……」


 完全に寝落ちするアイリス。


「ええ〜、私のもっとも大切な、何ですかぁ?」


 事情を全て知っているセラが、アイバーンをからかう。


「ち、ちょっと起きたまえアイリスとやら‼︎ その言い方では、何やら誤解を受けてしまうではないか‼︎」


 必死にアイリスの体をゆすり起こそうとするが、アイリスが目を覚ます事は無かった。


「う、ん……中々ハードなジェットコースターだ……ん? うわっ‼︎」


 目を開いたユーキが、目の前に居たアイバーンに驚き、アイバーンを突き飛ばしてしまう。


「ぬわああああっ‼︎」


 そのまま客席を転がり落ちて行くアイバーン。


「え⁉︎ ああ! アイ君ごめ〜ん‼︎」



 意識がハッキリ戻ったユーキが、アイバーンを治療しながら現状の確認をしていた。


「そっか……僕、一応勝ち残ったのか……」

「覚えていないんですか?」

「う〜ん、所々何となくは覚えてるんだけど、何だか夢を見ていたような感覚かな」


「では、アイリスについては?」

「えと……カオスから色々聞いたけど、本当かどうかは分からない……」

「そうか。発信元が信用出来ない相手だけに、余り鵜呑みにはしない方がいいだろう」

「うん、そだね。あっ! そう言えば、パティの試合は⁉︎」

「あ、ああ。パティ君は今、かなり手こずっているようだね」



 その頃パティは。


「洗濯板! 潰れまんじゅう! すべり台!」


 散々フィーに胸の事を馬鹿にされていた。


「いい加減にしなさいよ、あんた‼︎」


(でもいいわ。都合よく動きを封じられたおかげで、ウェイブソナーで周りの状況を把握する事が出来た。今、あたしの動きを封じてるのは、桁違いに巨大なエアバインドだって事。そして、あの娘が今持ってる魔装具がデスサイズじゃなくて、ワンドタイプだって事)


 フッと笑うパティ。


「どうしました? ご自分の胸の小ささに笑えて来ましたか?」

「フンッ! 何とでも言いなさい! あんたの能力の秘密、大体の検討がついたわ!」

「なんですって⁉︎ では遠慮なく! 肩こり知らず! マニア向け! 男の娘!」

「ホントに何とでも言うんじゃないわよっ‼︎」


「冗談はさて置き、私の能力の秘密が分かったと言いましたか? 本当かどうかは怪しいものですが、仮に分かったとしてもそのざまでは意味無いですね」

「今証明してあげるわよ!」


 わずかに動く指先を、様々な角度に動かすパティ。

 何かの気配を感じたフィーが、サッとその場から移動すると、地面の中から数本のアローズが飛び出して来る。


「アローズ⁉︎ なるほど、見えないように地面の下を進ませていた訳ですか? 確かに不意打ちならば有効かもしれませんが、加速していないアローズなど当たった所で、大したダメージにはなりませんよ?」


「別にそれで倒そうなんて思ってないからいいのよ!」


 地面から飛び出したアローズが、フィーの周りをグルグルと周りながら飛行し始める。



「ああっと‼︎ 動きを封じられたパティ選手ですが、動けないながらもお得意のアローズで反撃に出ました〜‼︎」



「まだまだ行くわよ!」


 パティが指先を動かすと、更に数本のアローズが地面から飛び出して来て、同じようにフィーの周囲を周り始める。

 そして周回を重ねる毎に、強い光を放って行くアローズ。


「これは⁉︎ アローズ自身が起こした風圧で加速しているんですか⁉︎」

「そうよ! さあどうするの⁉︎ 回転する度にアローズの威力はどんどん上がって行くわよ⁉︎」

「言った筈ですよ? お嬢様の技は私に通用しないと」

「そう、なら泣いて後悔しなさいっ‼︎ アローズ‼︎」


 充分に加速したアローズを、一斉にフィーに向けて撃ち出すパティ。

 鎌をクルリと一回転させてから、向かって来るアローズに対して構えるフィー。


「やはりね」

「⁉︎」


 アローズの起こした砂埃の中から、いきなり飛び出して来るパティ。

 素早く反応して、鎌でなぎ払うフィー。

 飛行しているアローズを掴み、その勢いでフィーの後方へ回り込んだパティがクルリと態勢を変え、更に別のアローズを蹴ってその勢いでフィーの背中を蹴りつける。


「うあっ‼︎」


 そのまま吹っ飛ばされるフィー。


「パティ選手の蹴りが決まったああ‼︎ 動けるようになったパティ選手が、飛行するアローズを巧みに利用して、フィー選手の背中を蹴りつけましたああ‼︎」



「やっぱりあたしの思った通りみたいね」


 倒れたフィーにビシッと指を指すパティ。


「あんたの能力は、死者の魂を呼び寄せてその力を借りる、みたいな事じゃないの? どう? 合ってるでしょ⁉︎」

「さ、さあ? 何の事でしょうか⁉︎」


 鳴らない口笛を吹いて誤魔化すフィー。


「定番のボケはやめなさい……あんたの鎌を回す動き。見覚えあると思ったら、ユーキが魔装を変える時によくやってるのよね。それでピンと来たわ! 見た目は鎌のままだけど、回す度に違う魔装具に変わってたんでしょ? その証拠に、アローズを防御しようとした時、あたしを捉えていた魔法が解けた。だから動けるようになった」


「いいえ、拘束魔法が解けたのは、私が防御に回った為に集中力が散漫になったからで……」

「ああ、誤魔化しても無駄よ⁉︎ あの瞬間、あんたの魔装具がワンドタイプからシールドタイプに変わった事は、ウェイブソナーでちゃんと分かってるんだから!」


「分かった上で聞いて来たんですか? お嬢様も人が悪いですね?」

「あんた程じゃ無いわよ」


「しかし、超音波で魔装具の形を見極めるとは……まるでイルカみたいですね?」

「一応、風の魔道士だからね」


「あっ! 失礼しました! お嬢様のイメージ的には、イルカというよりコウモリでしたね」

「ホント失礼よっ‼︎」


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