第59話 どちらの需要が多いのだろう?

 アイリスと話している子猫師匠を、ジッとにらみつけるパティ。


「な、何ニャ? パティ」

「この人何者? ユーキとどういう関係⁉︎ 当然師匠は全部知ってるんでしょ⁉︎」


 アイリスを指差しながら、子猫師匠を問い詰めるパティ。


「フニュウウ。か、彼女は……えと、その〜。ユ、ユーキの別人格ニャ!」

「ホントの事言いなさいい‼︎」


 子猫師匠の猫耳を思いっきり引っ張るパティ。


「イニャアア‼︎ や、やめるニャパティ! み、耳が取れるニャアアア‼︎」

「カチューシャが取れたからって、何だっていうのよ⁉︎」



 パティと子猫師匠がじゃれていると、依然倒れたままのトトに近付くアイリス。

 ふと自分の背中にある翼の、黒い羽の部分を見るアイリス。


「なるほど……マナちゃんは、カオスに結界を仕掛けた後の事もちゃんと考えていたんですね」


 そこへ心配そうにフィーがやって来る。


「アイリス様……」

「まあ、フィーちゃん! 久しぶりですね? シャルとは仲良くやってますか?」

「ハイ。シャル様には良くしてもらっています」

「そうですか。それを聞いて安心しました。カオスにはちょっとお仕置きしちゃいましたけど、ごめんなさいね」

「いいえ、こちらこそご迷惑をおかけしました」


「それはいいです。ああそうだ! せっかくフィーちゃんが居るなら、彼の事お願い出来ますか?」

「あ、ハイ。それは分かっているのですが、アイリス様をさしおいて私がというのは……」

「いいえ、マナちゃんも準備はしてたみたいですが、やはり専門家に任せた方が確実ですからね。私は治癒魔法の方を担当します」

「そう、ですか……分かりました。では……」


 そう言って魔装具を具現化させ、空を切り裂くようになぎ払った後、刃を倒れたトトに向けるフィー。

 そして、アイリスがトトに手をかざすとトトの体が光を放ち、程なくして目を覚ますトト。

 上半身を起こしたトトが、不思議そうに辺りを見回している。


「え⁉︎ あれ⁉︎ ここどこ? 僕は一体……」

「ここはトゥマールの闘技場です。どこか痛い所はありませんか?」


 アイリスがトトに問いかける。


「え⁉︎ う、うん。どこも痛くないよ? それよりお姉ちゃん達、誰? 僕、いつの間に闘技場に来たの?」

「何も覚えてないんですか?」

「う〜ん。えとね……確か僕、闘技場の周りにお店がいっぱい出てるって聞いたから、1人でやって来たんだけど……そうだ! 闘技場の近くまで来た時に、沢山の人に押されて、側にあった川に……」


 何かを思い出したように、急に震えだすトト。


「怖い思いをしたんですね……でも、もう大丈夫ですよ」


 優しくトトを抱きしめたアイリスが、フィーに問いかける。


「フィーちゃん。どうですか?」

「ハイ。トトの肉体には、間違いなくトト本人の魂が戻っています」

「そう、さすがはフィーちゃんですね」

「いえ……」


 顔を赤くするフィー。



「ああっとお‼︎ 今闘技場では、先程まで激闘が繰り広げられていました、ユーキ選手とトト選手による、熱い抱擁がかわされています‼︎ 何とうらやま……あ、いえ! 美しい光景でしょうか⁉︎ お互いの健闘を称えあっているのでしょう! 試合直後はピクリとも動かなかった為、その安否が心配されたトト選手でしたが、どうやら無事のようで安心いたしました‼︎」



「ああ〜っ‼︎ ユ、ユーキいい‼︎ 何やってるのよおお‼︎」


 子猫師匠とケンカしていたパティが、トトを抱きしめているアイリスを見て声をあげる。


「違います。私はアイリスだって言ったでしょう?」

「なら、早くユーキを返して!」

「慌てなくても、返してあげますよ〜。でも、次はあなた達の試合なんでしょ? せめてその試合が終わるまでは、まだ居させてくださいね。さあトト、行きましょ」

「う、うん」


 トトの手を引きながら、引き上げて行くアイリス。


「あ、あたしも逃げ……いや、客席から観戦するニャ」


「ちょっと〜‼︎ 手を離しなさいい‼︎ そしてバカ師匠! 逃げるなああ‼︎」


 アイリス達を追いかけようとするが、レフェリーによって止められるパティ。


「パティ選手‼︎ 君は次の試合に出場するんだろう⁉︎ 相手のフィー選手も既に来ているのなら、このまま試合を始めたまえ!」

「もう! なら、速攻で終わらせてあげるわ‼︎」


 フィーにも確認を取るレフェリー。


「フィー選手もそれでいいかね⁉︎」

「ええ、私はいつでもいいです」


「双方の同意により、このままフィー選手対パティ選手の試合を開始する‼︎」



「ああ〜っとお‼︎ 既に両名共闘技場に出ていた為、急遽このまま準決勝第2試合が行われるようです‼︎ さあ、既に決勝進出を決めているユーキ選手と優勝を争うのは、どちらの選手か〜⁉︎」



 そして準決勝第2試合、パティVSフィーの試合が開始される。

 気持ちを切り替えて、フィーと対峙するパティ。


「確かに猫師匠には頭に来る事ばっかりだけど、フィー! あたしはあんたにも腹を立ててるんだからね‼︎」

「はて⁉︎ 私はパトリシアお嬢様が小さい頃から、ずっとお仕えして来ました。お嬢様を怒らせるような事をした覚えがないのですが?」


「そこよ‼︎ あたしが小さい頃からって事は、少なくともあなたはあたしより年上の筈なのにその姿! そして今まであんな能力を持っているなんて事、1度も言わなかった! つまりあなたは17年間、ずっとあたしを騙してたって事でしょ⁉︎」


「能力の事を言わなかったのは、ネクロマンサーという能力の特殊性から、単にお見せする機会が無かっただけです。それと、小さいというのはお嬢様の胸の事ですが?」

「誰の胸が小さいですって〜⁉︎」


「あ、失礼しました。今も小さいままでしたね」

「こ、このお……」


 顔がひきつるパティ。


「ひ、貧乳だって一部の人には需要あるのよ‼︎」


 精一杯の負け惜しみを言い放つパティであった。



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