第58話 読み返さずに気付いた人は凄い!

 対峙するユーキとカオス。

 不可解な点はありつつも、ユーキが無事だった事に安堵したアイバーン達が、客席に引き上げる。

 そして、ユーキの無事を確認したレフェリーが、試合続行を宣言する。


「ファイト‼︎」


「ああっと、どうやら試合が続行されるようです! 見た所、ユーキ選手がケガをしている様子はありません。アイバーン団長達も客席に引き上げて行きますので、おそらくさっきのは幻術の類だったんでしょう! 何はともあれ、ユーキちゃんの無事を喜びたいと思います!」



「フフ、2年も待ったんだ。思いっきり行かせてもらうよ! アイリス‼︎」


 アイリスに向かって走って行くカオス。


「私達にとって2年など、刹那にすぎないでしょう?」


 アイリスに殴りかかるカオス。

 側に居るレフェリーに魔法障壁の結界を張るアイリス。


「僕にとっては物凄く長い時だったんだよ!」


 直立不動のまま、腕だけでカオスの打撃をいなすアイリス。


「相変わらず我慢のできない人ですね……」


 カオスが必死に連続攻撃を繰り出すが、表情を崩す事なく受け止めて行くアイリス。


「くっ! 目覚めたばっかりでこの強さ。やはりこうでなくちゃね!」


 必死さの中にも、どこか嬉しそうなカオス。


「喜んでる所申し訳ありませんが、いつまでもあなたの相手をしてられないんです」


 アイリスの言葉に、少し表情が曇るカオス。


「へえ、それはどういう意味かな? 僕が相手では物足りないって事?」

「いいえ、無理矢理起こされてまだ眠いから、もう少し寝ようかと……」

「二度寝⁉︎」


「まあ、今のあなたでは物足りないというのも、正解ですけどね!」


 少し気合いの入った表情になり、右の掌底でカオスを吹っ飛ばすアイリス。

 その瞬間、凄まじい衝撃波が結界の中を走るが、レフェリーはアイリスの張った結界に守られていて無事だった。


「ぐはあっ‼︎」


 そのまま闘技場の壁に叩きつけられるカオス。


「ぐうっ‼︎」


「掌底炸裂〜‼︎ 何とユーキ選手! 右の掌底一発でトト選手を吹っ飛ばしましたあああ‼︎ その後に走った衝撃波が、破壊力の凄まじさを物語っています‼︎」


 何とか起き上がったカオスが、体の異変に気付く。


「掌底一発もらっただけで? やはり元の体じゃないと、まともにやり合うこともできないか……」


 以前にマナと戦った時のように、カオスの腕が朽ち始めていた。


「私がちゃんと目覚めた時にはあなたの肉体は返しますから、今はまだマナちゃんに貸してあげててくださいね。あなただって本当はマナちゃんの為に……」

「冗談でしょ⁉︎」


 アイリスの言葉を遮るように口を挟むカオス。


「僕の目的は、完全に目覚めたアイリスと戦う事だけだよ‼︎ とはいえ、この体ももう限界みたいだね」

「なら、潔く負けを認めてください。そしてその肉体を、元の持ち主に返してあげてください」

「イヤだね」

「何ですって?」

「せっかく2年ぶりに戦えたんだ! こんなあっさり終わるなんて、イヤだね!」


 朽ちて行く体に構う事なく猛攻をかけるカオス。


「やめなさい! それ以上損傷すると、今の私では修復出来なくなります!」


 カオスの肉体の損傷を気にして、反撃する事ができないアイリス。


「なら止めてみなよ! 言っとくけど、アイリスのパワーで攻撃したら、間違いなくこの肉体は朽ち果てるだろうけどね!」

「くっ、どうしましょうか……」


 カオスの攻撃を避けながら闘技場を移動していたアイリスが、ある事に気付く。


「フフ、なるほどね。さすがはマナちゃん」

「何がおかしいんだい⁉︎ まだ勝負はついていないよ?」

「いいえ、あなたは私ではなく、既にマナちゃんに敗れていたんですよ」

「何を言って……⁉︎」


 何かイヤな予感がしたカオスが、慌ててその場から飛び退く。


「甘いですよ! マジックイレーズ‼︎」


 アイリスが叫ぶと、いきなりカオスの周りに魔方陣が現れる。


「こ、これは⁉︎ 魔法無効化の結界⁉︎」

「そう、既にマナちゃんは、この闘技場に結界を仕掛けていたんですよ」

「くっ! だ、だけどこの結界は、魔方陣から出てしまえば効果は無い筈」


 重い体を引きずりながら、何とか魔方陣から脱出したカオス。


「ど、どう? 何とか堪えきったよ?」

「ウチのマナちゃんをナメないでくださいね」

「何を?」

「マジックイレーズ‼︎」

「なっ⁉︎」


 アイリスが叫ぶと、再びカオスの周りに魔方陣が出現した。


「バ、バカな⁉︎ 何でこっちにも魔方陣が? くそっ!」


 またしても魔方陣から抜け出したカオス。

 しかし、アイリスが叫ぶとまたしてもカオスを囲むように魔方陣が現れる。



「ああーっとお‼︎ トト選手の行く所行く所に次々に魔方陣が現れます‼︎ まるでトト選手を追跡しているようだ〜‼︎」



「どうやらユーキさん、旨く仕掛けられたようですね」

「ああ、先程はユーキ君のただならぬ雰囲気に不安を感じたが、結界の事をちゃんと把握しているのなら、やはりあれはユーキ君なのだろう」



「な、何で⁉︎ 一体何個の魔方陣を仕掛けて⁉︎」

「複数の魔方陣を仕掛けてるのではありません。どの場所に居ても発動出来るように、均等に羽を配置しているのです。あとはあなたが居る場所居る場所に魔方陣を発動させるだけ」

「だ、だけどそんなものいつ? 前もって罠を仕掛けたり出来ないように、試合前にちゃんと闘技場のチェックはされて……ハッ⁉︎ そ、そうか!」


 ある事に気付いたカオス。


「さっきマナお姉ちゃんが撃ちまくってた羽! 一見無茶苦茶に撃ってたように見えて、実は要所要所に刺さった羽だけを幻術で隠して残してたのか⁉︎」


 最早魔方陣から脱出する力も残っていないカオス。


「あなたはマナちゃんをナメ過ぎたんですよ。私を目覚めさせる事ばかりに意識が行って、マナちゃんをちゃんと見ていなかった。それがあなたの敗因です。さあ、いくらあなたでも、そろそろ限界の筈」

「くそっ! 結局僕は、アイリスではなくて、またマナお姉ちゃんに負けた訳か……悔しいなあ」


 もう動く力も無く、完全に座り込んでいるカオス。


「私が完全に目覚めて……そして、あなたが自分自身の肉体に戻った時、改めて勝負しましょう」

「フフ……約束だよ……アイ……リス……」


 結界の光が消えて、倒れ込むカオス。


「レフェリーさん! カウントを!」

「あ、ハイ! カオス選手ダウン! カウント! ワーン! ツー!」


 そして、カオスはピクリとも動かないまま、テンカウントが数えられた。



「テンカウント‼︎ トト選手立てません! これにより、準決勝第1試合は、ユーキ選手の勝ちとなります‼︎」



「やったああ‼︎ ユーキちゃんが勝ったああ‼︎」

「次はいよいよ決勝だ〜‼︎」

「このまま優勝だああ‼︎」



「ユーキ‼︎」


 パティと子猫師匠、フィーの3人がユーキの元にやって来る。


「ユーキ、あなた……本当にユーキなの?」

「いいえ、今の私はアイリスです」

「え⁉︎ じ、じゃあユーキ、は?」


 恐る恐るたずねるパティ。


「大丈夫ですよ。今、マナちゃん……いえ、ユーキは私の代わりに眠っているだけです。私はまた眠りに入るので、すぐに会えますよ」

「そ、そうなの? ならいいんだけど……それはそうと、あなたは……いえ、あなた達って一体?」

「私はアイリス。私は2年前までこの国の……」


 しかし、アイリスの言葉を遮るように入って来る子猫師匠。


「ああーっとお‼︎ パティ! アイリス姉様は目覚めたばかりで疲れてるニャ!」

「いいえ、私は別に疲れてませんよ?」


「寝てる所をカオスのバカに無理矢理起こされたから、ご機嫌ナナメニャ!」

「カオスにはちゃんとお仕置きしておいたから、もう機嫌は直りましたよ?」

「ちょおーっとアイリス姉様は黙ってるニャア‼︎」


 アイリスの方を向き注意する子猫師匠。


「ええ〜⁉︎ 久しぶりに会ったのに、冷たいですね? テト」

「姉えええ様ああああっ‼︎」


 物凄い剣幕で叫ぶ子猫師匠。


「あっ! ……アハハハハ〜! ご、ごめんなさいねえ、まだ少し寝ぼけてて〜。えと……そう、確かあなたは、ジ◯ルジ◯ルだったわね〜」

「シャルニャア‼︎ そんな漫才師みたいな名前じゃないニャアア‼︎」



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