第50話 例え身内でも勝手に売るのは犯罪だよ

「そりゃあ、師匠はグレールの女王様なんだし、覇権を握る為に参加してるのは分かるわよ?」

「そ、そうニャ! あたしだって統一国の王になりたいニャ!」


(本当はカオスの横暴を止めるか、もしくはユーキの覚醒を促すのが目的だったけど、何の因果か2人と違うエリアに入っちゃったニャ。結局2人は次の準決勝で直接対決するし、もうあたしが参加した意味無いニャ。こうなったら後は腹いせに、馬鹿弟子をボコボコにしてやるニャ!)


 良からぬ事を考えていた猫師匠であった。


「それはいいとして……何でそんなロリコンがよだれ垂らして喜びそうな姿な訳⁉︎」

「こ、これはそのぉ……あ、あたしがシャルだとバレると、何かと面倒ごとが起きるからニャ!」

「面倒ごと? 他国のスパイに命でも狙われてるっていうの? いっそ暗殺されればいいのに」

「パティ⁉︎ 師匠が暗殺されればいいとは何事ニャ⁉︎」

「違うわよ、アンサンブルがやりたいって言ったのよ」

「フィーと同じノリ⁉︎」



 すっかり動きの止まった試合に、実況が痺れを切らす。


「試合開始直後、派手な魔法の撃ち合いがありましたが、今は一転して両者共動きを止めました。何やら会話をしているようですが、パティ選手がキティちゃんを悪の道に誘おうとしているのでしょうか⁉︎」


「してないわよ‼︎」


 猫師匠と会話しつつ、ちゃっかり聞いていたパティであった。


「色々疑問はあるけどまあいいわ! とりあえず試合を成立させましょ! さっきまではその姿が可愛らし過ぎて全力は出せなかったけど、正体が師匠だと分かれば遠慮なく行くわよ!」

「いや、師匠への敬意はどこ行ったニャ……」


 色々吹っ切れて魔力を高め始めるパティ。

 負けじとキティも魔力を高める。


「エアバインド‼︎ ミーティア‼︎」


 風のロープでキティを動けないようにして、その頭上から巨大な岩の塊を落とすパティ。


「この程度であたしの動きを封じれると思ってるのかニャ⁉︎」

「思ってないわよ!」

「何ニャ⁉︎」

「アイスフィールド‼︎」


 パティを中心に円形に広がった氷の輪が、キティの体を足元から凍らせて行く。


「氷魔法⁉︎ パティって氷魔法使えたんだ⁉︎」


 珍しい光景にユーキが驚く。


「ええ、勿論使えますよ。普段は何故かあまり使いませんけど」

「おそらくは氷使いの私に遠慮していたのだろう。現にメルクが居る時は水属性の魔法も使っていない筈だ」

「そうなんだ? パティって意外と気を使う人なんだね?」


 何気に失礼なユーキである。


(でもその気持ち分かりますよよぉ、パティちゃん。いくら自分の属性じゃなくてもぉ、やっぱり同じ系統の魔法で負けるのは悔しいですもんねぇ)



「光になれええ‼︎」

「あたしはゾ◯ダーじゃないニャアアア‼︎」


「キティ選手に巨大な岩が襲いかかる〜‼︎ はたして防ぎきれるのか〜⁉︎」


 パティの放った岩がキティを押し潰す。


「ああーっとお‼︎ キティ選手、なす術なく潰されてしまったああ‼︎ これは早く助け出さないと命にかかわるぞ〜‼︎」


「キティちゃん⁉︎」

「殺しちゃったの?」

「何もそこまでしなくても……」

「全く酷い奴ニャ! 正に鬼畜の所業ニャ! 漆黒の悪魔の異名は伊達じゃないニャ!」

「そこおっ‼︎」


 パティが何も無い空間に風の刃を放つと、砂埃の中からキティが現れる。


「ああっと居ました‼︎ 岩に潰されたと思われたキティ選手! いつの間にか脱出していました〜‼︎」


「やはりね。あの程度で終わるとは思ってなかったけど」

「当然ニャ! あたしはお前の師匠ニャ。お前の使う魔法はその威力からクセまで、全て把握しているニャ。それはつまり言い換えれば……お前の魔法はあたしには通用しないって事ニャ」


 ニヤリと笑うキティ。

 冷や汗が頬を伝うパティ。


(つまりは猫師匠の知らない魔法じゃないと通用しないって事? 仕方ないわね……1回戦なんかで使うつもりはなかったけど、とっておきを使うしかなさそうね)


「ところで師匠! ひとつ聞きたいんだけど⁉︎」

「休日の過ごし方かニャ? まずは録画した深夜アニメのチェックから初めて……」

「どうでもいいわよそんな事‼︎」

「どうでもよくないニャ! ちゃんと録れてるか確認するのは大事な事ニャ! 野球中継が延長されたせいで録り損なってたら一大事ニャ! まあ最近はちゃんと追跡録画してくれるようになったから、余程じゃないと失敗する事は無いがニャ」


「どうせDVDが出るんだからいいじゃないの」

「何を言うニャ⁉︎ その1話を見逃したせいで、そこから先はもう見れなくなるニャ! 話が繋がらなくなるニャ! DVDが出るまでやきもきするニャ!」


「ああ、その物言い……間違いなく猫師匠だわ……て、そんな事じゃなくて! ねえ、確か猫師匠の魔装具ってナックルタイプだったわよね? 何で今、ワンドタイプなのよ⁉︎」

「ん? だってあたし本来の力で闘ったらお前を殺しかねないニャ。だから試合前に安物の魔装具に契約し直したニャ」


 その言葉にピクリとなるパティ。


「ふ〜ん、つまりあたしはナメられてるって訳ね……」

「師匠の優しい思いやりニャ」




 しばしの沈黙が流れる。




「帰ったら師匠の集めてるフィギュア、全部売り飛ばしてやるんだからぁ‼︎」

「イニャアア! や、やめるニャ! 例え身内でも、勝手に売るのは犯罪ニャアアア‼︎」




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