第40話 動揺作戦なんて言葉は無い
魔道士タイプの魔装衣に武器は刀という出で立ちのユーキが、ブレンに質問する。
「ねえ、レン君?」
「む? 何だ、マナ王女?」
「僕、このトーナメントでひとつ勝つごとに、好きなゲーム機を貰える事になってるんだ」
「そうなのか? マナ王女はゲームが好きなんだな」
「うん、だからさ……僕の事が好きだっていうなら、僕を勝たせてよ!」
「なん……だと⁉︎」
「ね、お願〜い!」
口元に両手を当て、あざとい仕草で訴えかけるユーキ」
「うぐっ! むむむむむ……」
「ユーキさん、ブレン様に何か言ってますね? パティさんが居たら解説してもらえるのに……」
「んふふ〜、何を喋ってるかは分かりませんがぁ、おそらくはブ〜ちゃんの動揺を誘ってるんでしょうねぇ」
「動揺、ですか?」
「ハイぃ、言葉による口撃はぁ、以前パティちゃんと闘う時に、私がユウちゃんに教えた戦法ですからねぇ」
ユーキの言葉に動揺を隠せないブレンだったが、何とか踏みとどまり拒絶するブレン。
「わ、悪いがマナ王女。これでも王国騎士団の端くれ! いくら惚れた相手の頼みでも、不正をする事は俺様のプライドが許さない!」
「勝たせてくれないの?」
「すまないが、全力で行かせてもらう!」
「ふ~ん……それで力尽くで僕を倒して結婚させようって言うんだ?」
「うぐっ!」
「そんな乱暴な人、嫌いだっ!」
ツンと顔を背けるユーキ。
「がああああん‼︎ あ、いや! 力尽くでという訳ではなくてだな、こ、今回はそういうルールだから仕方ない……」
「ブレン様、明らかに動揺してますね……」
「どうやら口撃は成功したみたいですねぇ」
「だが、それだけでは勝負には勝てないぞ⁉︎ ブレンの居合をどうにかしない事には」
「当然、攻略の糸口を見つけたからこその動揺作戦でしょうからねぇ」
「陽動作戦みたいに言うな!」
「まあいいや! なら、正々堂々君を倒してゲーム機をゲットするだけだ!」
居合の構えをとるユーキ。
「だ、だから、き、君じゃなくてだね……」
まんまとユーキの動揺作戦にハマったブレンが、慌てて居合の構えをとる。
「何やら言葉の応酬があったようですが、両者再び居合の構えをとりました‼︎ 今度こそ決着はつくのか〜⁉︎」
お互い居合の構えをとりながら、ジリジリと間合いを詰めて行く2人。
ブレンの間合いに入った瞬間閃光が走り、その光が消えた時、ユーキはブレンの前では無く後方に居た。
「ああーっとお‼︎ 一体何が起こったんでしょうか⁉︎ 閃光が走った後、2人の位置が入れ替わってます! 早すぎて状況が分かりませんでした! どちらかの攻撃がヒットしたのでしょうか⁉︎」
振り抜いた刀を鞘に収めて直立するブレン。
「いつ、俺様の超加速に気付いた?」
同じく刀を鞘に収めて直立し、ブレンに背を向けたまま答えるユーキ。
「明らかに間合いの外だったからね。結局どうやってるのかは分かんなかったけど」
「分からずに攻略したのか?」
「だから色々やったじゃん! 何度も攻撃受けたり魔装変えたりさ」
「じゃあもしかして、不正を持ちかけて来たのも?」
「うん、君……じゃなくてレン君を動揺させて、動きを鈍らせる為にね。そうしないと、早さに対応できないと思ったから……ゴメンね?」
「では、俺様の事を嫌いと言ったのは……」
「ウソだよ……」
「そうか……良かった……」
「あ! 嫌いって言ったのはウソだけど、だからって君の事が好きって訳じゃないんだからねっ‼︎」
依然、背を向けたまま顔を赤くするユーキ。
「君ではない……レン君、だ……グハッ‼︎」
血を吐きながら崩れ落ちるブレン。
レフェリーが駆け寄って来て、ブレンの様子を確認して両腕を交差させる。
「ああっとお‼︎ レフェリーが両腕を交差させました〜‼︎ ブレン選手ノックアウト‼︎ これにより、トーナメント1回戦第1試合は、ユーキ選手の勝利です‼︎」
「やった〜‼︎ ユーキちゃん! よく分かんなかったけど!」
「ユーキちゃんが勝った〜‼︎ どうやって勝ったのか分かんないけど!」
「やった! ユーキさんが勝ちました‼︎ で、でも最後、どうなったんですか? レノさん⁉︎」
「何だあ⁉︎ 分からなかったのかメルク? 仕方ない、では俺が解説してやろう!」
得意げな顔で解説しようとするレノ。
「ああ、リプレイ映像が流れるみたいですよぉ⁉︎」
「何ぃ⁉︎」
「あ、それなら解説はいいです」
「ぅおぃっ‼︎」
「最後の攻防の様子がスロー映像で流されます! 皆様、モニターをご覧ください!」
スローでもブレる程の早さで間合いを詰めるブレン。
「早い‼︎ しかも、走ってるような感じじゃないですね?」
「おそらくはぁ、足の裏に小さな爆発を起こして、その風圧で移動してるんでしょうねぇ」
「そうか! それで態勢を崩す事なく、すぐ攻撃に移れるんですね」
ブレンが刀を抜いて斬りかかるが、まだユーキは刀を抜かずにいた。
「ブレン様の方が先に抜刀しているのに、何で⁉︎」
「ああ、この後だ」
ブレンの刀がユーキに当たると思われた時、踏み込まずに後ろに下がるユーキ。
「退いた⁉︎」
「そう! ここでマナは前に出ずに後ろに下がったんだ。そしてブレンの刀をかわした後、俺の電光石火で一気に加速してブレンを斬りつけた」
「え? でも、そんな技が使えるなら何故初めから早さ勝負をしなかったんでしょうか?」
「おそらくは、それほど紙一重の速度差だったんだろう……防御力を捨てて重い鎧から軽い魔装衣に変えなければならない程に」
「でしょうねぇ。だから初撃で勝負する事を避けてぇ、ブ~ちゃんが刀を振りぬいて一瞬隙ができる時に一気に斬りつけたんでしょぉ。しかもぉ、仕掛ける前にあざとい仕草でブ~ちゃんを動揺させてましたぁ。その小ズルイ所が昔のマナちゃんとひと味違うとこですねぇ」
「ユーキさんのあざとい仕草、破壊力ありますもんね……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます