第39話 何事も制限があるから尊い

 ブレンの間合いを確かめるべく、じりじりとブレンに近付いて行くヤマト。


(普通に考えれば、刀の間合いより槍の間合いの方が長いんだから、こちらが有利なはず……まあ、ブレンがじっとしていてくれるなら、の話だが)


「ヤマト選手が槍を構えたままゆっくりと距離を詰めて行きます! さあ、先に動くのはどっちだ⁉︎」


 槍の間合い一歩手前まで詰めたヤマト。


(あと一歩踏み込めば届……)


 間合いに踏み込もうとした瞬間、ブレンの斬撃を受けて弾け飛ぶヤマト。


「ぐあっ‼︎ 何だと⁉︎」


 弾き飛ばされた事により、2人の距離が広がってしまう。


「一閃〜‼︎ ヤマト選手が一歩踏み込んだ瞬間、まだ届かないと思われたブレン選手の剣が、ヤマト選手を切り裂いた〜‼︎ いや、しかしヤマト選手! どうやら重装甲の鎧のおかげで無傷のようです!」


(あの距離で届くのか⁉︎ 魔道士タイプの魔装のままだったらバッサリ行かれてたな!)


「危なかったな。俺の鎧じゃなかったら今の一撃で決まってたかもしれないぞ⁉︎」

「ええ、そしてまた刀を鞘に収めましたから、次は更に強力な攻撃が来ます」

「だけどぉ、これではお互い決定打にはなりませんねぇ」


(しかしまいったな……斬撃が全く見えなかったぞ。鎧のおかげで致命傷にならないとはいえ、これでは決め手が⁉︎)


 考えを巡らせていたヤマトが、槍に付いている魔石が淡い光を放っている事に気付く。


(これってもしかして?)


 ヤマトが魔装具にあるリボルバーを開くと、中から赤い色のカートリッジが飛び出して来た。

 それをキャッチしてニヤリと笑うヤマト。


「コピー完了ってか⁉︎」


 セットされていた黄色のカートリッジを取り出し、出来立ての赤色のカートリッジをセットし直して叫ぶヤマト。


「魔装‼︎」


 光が消えると、ブレンと同じ鎧と刀を持ったヤマトが現れる。


「ああっとお〜っ‼︎ ヤマト選手、またしても魔装を変えた〜‼︎ これは、色こそ違えどブレン選手と全く同じタイプの魔装だ〜‼︎ それにしても、ブレン選手の赤とヤマト選手の白で何だかめでたいぞ〜!」


「白じゃない! プラチナホワイトだ!」


 ヤマトの魔装を見つめているブレン。


(話には聞いていたが、あれがマナ王女のコピー能力って奴か。見た目は俺様の魔装と同じだが、はたして能力まで同じなのか?)


 お互い居合の構えをしたまま、再びじりじりと距離を詰めて行く2人。

 先程斬撃を受けた一歩手前の所まで来たヤマト。


(さっきはここから一歩踏み込んだ瞬間に攻撃をくらったんだよな? 明らかに剣の届く距離じゃないが……やはり、縮地的な何かか?)


 一歩踏み込んだ瞬間、また斬撃により弾き飛ばされるヤマト。


「ヤマト選手また飛ばされた〜‼︎ 居合勝負を挑んだと思われますが、やはり一朝一夕には行かないか〜⁉︎」


「ヤマトさん⁉︎ 魔装を変えちゃったからダメージを受けたんじゃ?」

「いや、大丈夫だ。マナ……いや、ヤマトは攻撃を捨てて防御に徹していた。刀で受けたからダメージは無い筈だ」

「え⁉︎ レノさん、今の攻防が見えたんですか?」

「ん? ああ、俺は一応雷使いだからな。見る事に集中すれば、あれぐらいのスピードには対応できる」

「そんな能力を全く披露する事なく負けちゃいましたけどねぇ」

「うるさいぞセラ!」


 その後も、2度3度と近付いては飛ばされるという事を繰り返すヤマト。


「ヤマト選手、何度も何度も果敢に挑戦しますが近付けない〜‼︎ しかし一方のブレン選手も決定打を与える事が出来ずにいます! これは長期戦になるか〜⁉︎」


「うむ……どうやら、またマナちゃんの悪いクセが出ているようだな?」

「そうですね〜」


 いつもの事かといった表情で呟くマルス国王。


「マルス様? 悪いクセというのは、ワザと相手の力量に合わせるってやつですか?」

「そうだ。マナちゃんならば、あんな闘い方をせずともいくらでもやりようはある筈だが、あえて居合勝負を挑んでいるのだろう」


「まったく……マナらしいと言えばらしいのだが、見ているこっちがハラハラしてしまうぞ」

「んふふ〜、でもぉ、今のマナちゃんは昔のマナちゃんとはひと味違いますよぉ」

「え? それって……」


 メルクが聞き返そうとした時、会場がざわつき始める。


「ああっとお〜‼︎ ヤマト選手の姿がユーキちゃんに戻ってしまいました〜‼︎ しかも、魔装まで元の魔道士タイプに変わってしまった〜‼︎ 変身ヒーローのように、ヤマトの姿には制限時間があるのでしょうか⁉︎」


「え⁉︎ 制限時間? そんな話聞いてますか? セラさん⁉︎」

「いいえぇ、初耳ですよぉ。そりゃ、以前のユウちゃんならぁ、すぐに魔力切れを起こして変身が解けてましたけどぉ、今のユウちゃんに魔力切れは無いですからねぇ」


「じゃあ何で元の姿に? いえ、確か今のユーキさんなら、姿を変えなくても魔装だけを変化させる事も出来る筈。それなのに、魔装まで戻して……魔道士タイプの魔装でブレン様の斬撃を受けたら、致命傷になりかねませんよ⁉︎」

(んふふ〜、確かに魔装は元に戻しましたがぁ、武器は刀のままなんですよねぇ)


 解せないのはブレンも同じだった。


(せっかく居合勝負で熱くなって来たのに、何故魔装を戻した? あれではもし斬撃が入れば、一撃で終わってしまうぞ? 本当に時間切れなのか? それとも、何かの作戦か?)


 色々考えていたブレンだったが、フゥッと一息吐き。


「マナ王女‼︎」

「ん? 何?」

「俺様は少々頭が悪いからあれこれ考えるのは苦手だ! だから単刀直入に聞く! 何故魔装を元に戻した⁉︎ その姿で俺様の攻撃を受けたら死ぬぞ⁉︎」

「ん〜? まあ、全部は教えられないけど……君の攻略法を思い付いたから、かな?」

「なん……だと⁉︎」


 ワナワナと震えるブレン。

 ニヤッと笑うユーキ。


「君ではない‼︎ レン君だ‼︎」

「いや、聞き逃さないね‼︎」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る