第36話 貝類はじっくり見ると食べられなくなる

 予選が全て終わり、宿屋に帰って来たBL隊。


「本戦8枠の中に、BL隊のメンバーが4人も残れたんだから上出来よね」

「BL隊ゆ〜な」


 パティのお馴染みのボケに、お馴染みのツッコミを入れるユーキ。


「しかも、うまい具合に1回戦ではみんなバラバラに分かれてますから、いきなり潰し合う事は無いですね」

「1回戦で全員消える可能性もありますけどねぇ」

「やな事言わないでよ、セラお姉ちゃん」

「そうだぞセラ! 予選を突破出来なかった俺達が言えた義理ではないぞ」


「でも、僕はアイバーン様と全力勝負をして負けましたから自分でも納得してますが、レノさんとセラさんはあんな試合形式で負けて納得行かないんじゃないですか?」

「いいえぇ、普通にバトル形式だったとしてもぉ、おそらく私もレノも勝てなかったと思いますぅ」

「え⁉︎ そうなの?」

「ああ、実際闘った訳では無いが、あのフィーという少女、以前リーゼルで会った時から、何か底知れぬ力を感じていた。どことなく、あのカオスに近いような……」

「そうなんだ? 僕はカオスとは直接戦ったけど、よく覚えてないからな〜」


「キティちゃんも要注意ですぅ。子供だからって侮ってたら足元すくわれますよぉ、パティちゃん」

「侮らないわよ。誰が相手だろうと、全力でぶっ飛ばすだけよ!」

「なるほどぉ、悪魔は人を狩るにも全力を尽くすってやつですねぇ」

「セ〜ラ〜、誰が悪魔なのかあっちでゆっくり聞かせてもらいましょうか?」

「いやあぁ、待ってくださいぃ! ちょっと調子に乗りましたぁ! 謝りますから、暗がりに連れて行かないでぇ!」


 セラを引きずりながら闇に消えて行くパティ。


「アイ君もセラも、報復を受けるのが分かってて、何でわざわざパティをからかうのかな〜?」


 呆れ顔のユーキ。


「きっと、お二人なりの愛情表現なのです!」

「違うと思うけど……」


 自信満々に発したロロの言葉を、あっさり否定するネム。


「だけど、あまり人の事ばかり気にしてられませんよ? ユーキさん」

「ん?」

「ユーキさんの相手だって、王国騎士団副団長のブレン様なんですから」

「あ、うん……そだね」


「なあに、心配はいらないさ、ユーキ君」

「アイ君?」

「以前のユーキ君ならばともかく、今の覚醒したユーキ君ならば、ブレンごときでは相手にならないだろう」

「え⁉︎ だけどブレンってアイ君と同じぐらい強いんじゃないの? だったら相当手強いよね?」

「ハハ! あいつが私と同等な訳がないだろう⁉︎ 心配せずとも、ユーキ君の圧勝だよ!」


「またあ〜、アイバーン様はブレン様の事になると、すぐ張り合うんですから〜」

「事実を述べただけだ」

「ユーキさん、アイバーン様はあんな事言ってますけど、決してブレン様を侮ってはいけませんよ! 予選で闘ったとはいえ、あれがブレン様の全力ではありませんからね」

「うん、分かってる! アイ君を相手にするつもりで闘うよ!」


「やめたまえ、ユーキ君! そんな事をしたら、ブレンが死んでしまう!」

「アイバーン様。ユーキさんが混乱しますから、もうやめてください」



 翌日、闘技場にやって来たユーキ達。


「今日はイベントはやってないんだね?」

「ああ、本戦トーナメントの前日だからね。今日、闘技場への出入りが許されているのは、本戦出場者とその関係者のみとなっているんだ」

「そうなんだ? まあ、こっちとしてはその方が集中できていいけど」


 闘技場に入ったユーキ達だったが、そこには誰も居なかった。


「誰も居ないわね」

「ブレン様はともかく、あわよくば後の3人の、能力の片鱗だけでも分かればと思ったんですが」

「まあいいじゃない! 誰も居ないなら、こっちだって遠慮無く調整出来るってもんよ!」

「だね」


 それぞれ距離を取り、各々調整を始めるアイバーン、パティ、ネムの3人。

 そして、少し遅れてユーキが調整を始める。


(街の外に出るのはパティ達に止められてたし、予選の時は全力を出せなかったし、はたして今の僕の力はどの程度の物なのか? 本戦の前に試しとこ)


 両手を斜め下に降ろし、眼をつぶるユーキ。

 そして3回程深呼吸をしてから眼を開き、徐々に魔力を高め始める。


「はあああああ‼︎」


「ユーキ君⁉︎」

「ユーキ⁉︎」

「ユーキ姉様⁉︎」


 パティ達が注目する中、固有能力のエターナルマジックを発動させるユーキ。


「エターナルマジック‼︎」


 アイバーン達が発して宙に漂っている魔力を取り込んで、更に強大な魔力になって行くユーキ。

 そんなユーキの様子を、闘技場の端で見ている、本戦出場者の他の4人。


「あれがマナ王女の本気、という訳か……燃えて来たぜー‼︎」


 ユーキの魔力に奮い立つブレン。



「フフ、どうやらその力は本物みたいだね」


 ニヤリと笑うトト。

 そして、同じくユーキの魔力に驚いているキティとフィー。


「凄いわね……あれがエターナルマジック……」

「彼女が完全に覚醒したら、あんなもんじゃないでしょうね」

「そうね、もしそうなったらあたしでも勝てるかどうか……」


「キティちゃんはその前に、1回戦でパティちゃんにアッサリ負けるんじゃないですか?」

「フィー⁉︎ 誰がアッサリ負けるって⁉︎」

「いいえ! アサリの酒蒸しパスタが食べたいって言ったんです」

「ひと工夫した⁉︎」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る