第33話 ポーカーフェイスって難しい

 試合が終わり、ビストとミストの治療をするパティ。

 程なくして目覚める2人。


「あれ? パティ、ちゃん? ……ハッ! 試合は⁉︎」


 慌てて周りを見回すビストが、エストの表情を見て自分達が負けた事を理解する。


「そっか……またパティちゃんに負けちゃったか……」


 エストから、勝負の流れを聞くビストとミスト。


「騙し討ちみたいな事をしたのは悪いと思うけど、あんた達だってリーベンでメル君やあたしに似たような事したんだから、おあいこよね⁉︎」


「ハハ、耳が痛いね」

「そもそも3対1だったんだから、勝つ為に策を練るのは当然だよ」

「分かってるじゃないの、ミスト」


 誰が喋ったのかを正確に言い当てるパティ。


「ハハッ! 僕達兄妹以外で僕達を見分けられる人が居るなんて、何だか嬉しいな〜」

「パティちゃん! 2度も僕達に勝ったんだから、必ず優勝してよ⁉︎」

「ええ、任せなさい! あたしはあたしの目的の為に、必ず優勝するんだから!」

「頼もしいね」

「ま、まあ……あんた達の想いも、少しぐらいは持って行ってあげるわ!」


 思わぬパティの言葉に、微笑む三兄妹。


「フフッ! パティちゃんとは同じガ◯ダムファン同士、仲良くなれそうだね!」

「フ、フンッ! でもガ◯ダム愛はあたしの方が上だって事は、既に証明されてるんだからね!」

「もう、ここでそれを言う〜⁉︎」



 三兄妹と別れたパティが、控え室から出て来たセラと鉢合わせる。


「あ! パティちゃん、決勝進出おめでとうございますぅ」

「どうって事無いわ。それよりセラ! あんたもちゃんと勝ち残りなさいよ⁉︎ 今度こそ真剣勝負で決着付けるんだから!」

「ええ〜っ! パティちゃんは既にリーゼルで私に勝ってるじゃないですかぁ」

「あれは結果を示し合わせた八尾長でしょ! あんなのじゃなくて、本気のあんたと闘って勝ちたいのよ!」


「例え本気でやったとしてもぉ、間違いなくパティちゃんの方が強いですよぉ」

「ふ〜ん、つまりあたしの方が強いけど、勝つのはあんただって言いたい訳ね」

「そんな事言ってないじゃないですかぁ! でもぉ、例え不利な状況でも戦略次第で変わるのがぁ、勝負というものですけどねぇ」


 そう言って、うっすらと目を開くセラ。

 それを見てニヤリと笑うパティ。


「ホント、あんたって食えない娘よね!」


 再び、糸目になるセラ。


「私を食べても美味しくないですよぉ! 私は食べる方専門ですぅ。あっ、でもダシぐらいなら出るかもぉ」

「フッ、まあいいわ! レノみたいにコケないように、頑張んなさいよ!」

(……パティちゃんにウケましたぁ?)



 セラへ戦線布告をしたパティが客席にやって来る。


「あ! パティ、お疲れ様!」

「お疲れ様です、パティさん!」

「ふむ……悪魔の名に恥じぬ、実にパティ君らしい闘いぶり……ぐふっ‼︎」


 アイバーンが言い終わる前に、パティの悶絶ボディブロー、フルパワーバージョンがアイバーンに炸裂していた。


「ほらやっぱり……アイバーン様が余計な事言うから……」


 当然と言わんばかりの呆れた顔で、うずくまっているアイバーンを見るメルク。

 アイバーンが悶絶している隙に、ちゃっかりユーキの隣に座るパティ。


「うわあっ! やっぱり僕達には手加減してくれてたんだね? 全然迫力が違うや」

「え⁉︎ あんた達⁉︎」


 パティ達が声のする方を見ると、今さっきパティと闘った三兄妹とザウスが居た。


「あ! 5人なのに四天王!」

「ちょっと〜、ユーキちゃんまでやめてよね〜」

「その四天王、最後の1人がこれから出るんだ。一緒に観戦させてもらってもいいかな?」

「それは別にいいけど、ユーキの隣だけは絶対譲らないからね!」

「ハハ、分かってるよ」

(元々そこはアイバーン様の席ですけどね〜)


 などとは、とても口に出して言えないメルクであった。

 そして、最後のHグループの予選が開始される。



「さあ皆様、お待たせしました‼︎ ただ今より、五国統一大武闘大会、最終Hグループの予選試合を行いたいと思います‼︎ このHグループの注目選手は、ヴェルン国の王女であり、この五国統一大武闘大会の立案者でもあるゼッケン70番、セラ・フレイル嬢だー‼︎」


「うおおおお‼︎ セラ様ー‼︎」

「姫様ー‼︎ 頑張ってくださーい‼︎」

「セラちゃ〜ん‼︎」


「くれるならぁ、声援より食べ物にしてくださぁい」


 思わぬセラの人気ぶりに驚くパティとレノ。


「セラってば、意外と人気あるじゃないの⁉︎ 腹黒いのに」

「腹黒いんじゃなくて、計算高いんだよ」

「ユーキさん、それフォローになってません」


「ぬおお‼︎ 何故だ⁉︎ 俺の時は殆ど声援など無かったというのに、何故セラはこれ程の大歓声を浴びているのだ⁉︎」

「知名度の差じゃないの?」

「セラさんも前夜祭で派手に宣言してましたからね」


 そんなセラの元に、1人の少女が近付いて来る。


「お久しぶりですね⁉︎ セラさん。凄い人気ぶりで羨ましいです」


 それは、リーベンでセラと闘った四天王の1人、幻惑のノームだった。


「あらぁ、あなたはぁ⁉︎ 半額のノームちゃん!」

「幻惑のノームです‼︎ 人を売れ残り商品みたいに言わないでください!」

「冗談ですよぉ。やっぱりあなたも参加してたんですねぇ?」

「ええ、私達はあなた達に敗れた後リッチの元を離れ、トゥマールの王国騎士団に入団すべく、王都までやって来たんですが、ちょうどこの大会が開かれると知って、騎士団へのアピールも兼ねて四天王全員で参加する事にしたんです」


「長い説明ありがとうございますぅ」

「ぐっ……ま、まあ、結果は現在誰も予選すら通過出来ないという惨憺たるものですが、最後の私が必ず決勝に勝ち残ってみせますから、覚悟なさってくださいね」


「まあ、せっかくの大会なんですからぁ、そんなに気負わず楽しく行きましょうよぉ」

「フフ、相変わらず本心の読めない人ですね」

(……またウケましたぁ?)



 ノームと話し込んでいると、もう1人見覚えのある少女を見かけるセラ。


「あっ! ノームちゃん、ちょっと失礼しますねぇ」

「え⁉︎ ええ」


 人混みをかき分けて、その少女に近付いて行き、声をかけるセラ。


「あのぉ……あなたぁ……」

「え⁉︎ ゲッ⁉︎」


 セラの声に振り返り、驚く少女。


「な、な、な、何よ⁉︎ あたしに何か用⁉︎」


 何故か慌てた様子で応える少女。


「いやぁ、用と言いますかぁ……あなたとどこかで会った気がしたものでぇ」

「ええ⁉︎ な、な、何言ってんのよ⁉︎ あたしはキティ。あんたとは初対面よ!」

「そうですかぁ、気のせいですかぁ……」


 フゥッと一息つくキティ。


「ああっ‼︎」

「な、な、何よ⁉︎」


 セラのいきなりの声にビクッとなるキティ。


「思い出しましたぁ! ほらぁ、以前に街で会ったじゃないですかぁ! あなた確かぁ、Dグループから決勝進出を決めたトトって言う男の子とケンカしてましたよねぇ⁉︎」

「え⁉︎ そ、そういえばそうね。あ、ああ、あなたあの時に居たお姉ちゃんね⁉︎」

「そうですぅ! 私はセラちゃんですぅ。ああ良かったぁ、やっとスッキリしましたぁ! これで心置きなく試合に集中出来ますぅ、じゃあ私は失礼しますねぇ」

「え、ええ」


 去って行くセラを見て、胸をなで下ろすキティ。


「ああっ‼︎」


 またビクッとなるキティ。


「何なのよ、あんた⁉︎」

「それですぅ」

「な、何が?」

「その喋り方ですぅ。何だか聞き覚えがあると思ったらぁ、パティちゃんですぅ!」

(ギクッ!)


「パティちゃんの口調にそっくりなんですぅ!」

「そ、そうなの? へえ〜、でもあんたの独特の喋り方に比べたら、こんなの普通よ!」

「ええ〜、私だって普通ですよぉ」

「どこがよ」

「まあいいですぅ、そろそろ試合が始まりそうなのでぇ、もう行きますねぇ」


 再び去って行くセラを見て、一息つくキティ。


「ああっ‼︎」


 またまたビクッとなるキティ。


「何なのよ⁉︎ もうっ‼︎」

「あなたもしかしてぇ……」


 背を向けたまま話すセラ。


「な、何よ?」

「パティちゃんの身内の方ですかぁ?」


 薄目を開けて振り返り、ニヤッと笑うセラ。


(ギクギクッ!)


「ち、違います……」


 硬直して、真顔で応えるキティ。


「そうですよねぇ、私の思い過ごしですよねぇ。失礼しましたぁ、それじゃあ試合でお会いしましょぉ」


 再び糸目に戻り、笑顔で去って行くセラと、そのセラを冷や汗を流しながら見つめているキティ。


(まさかあの娘、分かっててワザとからかってるんじゃないのかニャ?)


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