第32話 時には悪魔のように
「いいわ! じゃあ相手してあげるから、かかって来なさい‼︎」
そう言って杖を構えるパティ。
「集めたゼッケン。全部僕達がもらうからね‼︎」
同じく、クナイを構える三兄妹。
三兄妹が、パティを包囲して攻撃を仕掛けようとした時、目くらましの霧を発生させるパティ。
「ファントムミスト‼︎」
「あれは! 僕のファントムミスト⁉︎」
「小範囲なら、パティ君も使えるという事か……しかし、本当にパティ君はどんな魔法でも器用に使いこなすな」
「ああっと‼︎ 舞台の上に霧が発生して、残った4選手を隠してしまいました‼︎ おそらくは誰かが仕掛けた魔法だと思われますが、中では一体何が行われているのかー⁉︎」
霧の中で、兄妹の位置を確認するビスト。
「ミスト! エスト! どこだー⁉︎」
「僕はここだよ! ビスト兄さん!」
姿は見えないが、声を聞いて無事を確認するビスト。
「エスト! 良かった、無事か⁉︎」
「僕は大丈夫! でも、ミスト兄さんの位置が分からないんだ……兄さん! ミスト兄さん⁉︎」
「僕はここに居る! エスト! 2人共、無事かい⁉︎」
「ああ良かった! みんな無事みたいだね!」
「どこからパティちゃんが襲って来るか分からない! 2人共警戒して、うぐっ!」
「兄さん⁉︎ ビスト兄さん⁉︎ どうしたんだ? 大丈夫かい⁉︎」
少しの間が空いてから、ビストが反応する。
「すまない、大丈夫だ! 足元が見えないから転んでしまったんだ!」
「もう! ビックリさせないでよ、ビスト兄さん⁉︎」
「ごめんごめん! それより、この霧を吹き飛ばすから、2人は伏せて!」
「分かった! 頼んだよ、兄さん!」
「トルネード‼︎」
ビストの起こした風により、霧が吹き飛ばされる。
「あっとお! ようやく霧が消えました! おや⁉︎ 舞台に残っているのは3人だけだー‼︎ パティ選手の姿が見えませんが、三兄妹によって倒されたんでしょうか⁉︎」
「パティ⁉︎ 負けちゃったの⁉︎」
心配そうなユーキ。
「いや……三兄妹に倒されたにしては妙だ」
「アイバーン様、妙とは?」
「舞台上は勿論、場外に落とされたにしても、どこにも姿が見えない」
「そ、そう言えばそうですね? 一体どこに……ハッ! まさかアイスミラージュで姿を隠してる?」
「ふむ……その可能性は高いな」
同じように、パティの姿を探す三兄妹。
「ビスト兄さん、変だ! パティちゃんの姿がどこにも無い!」
「幻術で隠れているのか⁉︎ 隙を見て攻撃してくるかもしれない。ミスト! エスト! 周りを警戒するんだ‼︎」
「分かったよ、兄さん!」
ビストに言われて、お互いに背を向けて周りを警戒するミストとエスト。
「残った三兄妹が周りを警戒しています! という事は、どうやらパティ選手は倒されたのではなく、どこかに隠れているもようです! 残り時間はあと2分。パティ選手、このまま時間切れまで隠れる作戦かー⁉︎」
「パティさん、本当にこのまま時間切れを待つつもりなんでしょうか?」
「いやしかし、実際にゼッケン番号を集計してみない事には、勝てるかどうかは分からないからな。あのパティ君がそんな不確かな状況で、時間切れなんか狙うだろうか?」
一向に現れる気配の無いパティに、三兄妹も痺れを切らす。
「どうする? ビスト兄さん! パティちゃんがこのまま隠れてるつもりなら、僕達も誰が勝ち残るか決めないと!」
「うん、そうだね……じゃあ決めようか……」
「ビスト兄さん? ぐわあっ⁉︎」
いきなり背後からミストを風の刃で切り裂き、ミストの持っていたゼッケンを奪い取るビスト。
「何とおおお‼︎ ビスト選手、いきなり弟であるミスト選手に攻撃したああ‼︎ いや、確かに決勝に進出出来るのは1人だけですが、私はてっきり誰が残るのかは話し合いで決めるものと思っていましたが、そこは兄妹とはいえ、容赦無しという事かー⁉︎」
「な、何をするんだビスト兄さん⁉︎」
「ん? 何って……ミストが、誰が勝ち残るか決めようって言うからさ⁉︎」
「そりゃ確かに1人を決めないといけないけど、僕はビスト兄さんに行かせるつもりだったし、ミスト兄さんだってきっとそう思ってた筈だよ‼︎」
「そうなのかい? じゃあ早く持ってるゼッケン、全部渡してよ! エスト!」
「う、うん……分かったよ、兄さん」
エストがゼッケンを全てビストに渡そうとすると、倒れていたミストが声をあげる。
「ダメだエスト! 渡すな! そいつはビスト兄さんじゃない‼︎」
「え⁉︎」
一瞬躊躇したエストのゼッケンを強引に奪って、エストにボディブローを放つビスト。
「ぐふっ‼︎」
前のめりにうずくまるエストを見下ろすビストの姿が、徐々に変化して行く。
「ごめんなさいね。時間切れを狙おうかとも思ったんだけど、あんた達を見分ける方法に気付いちゃったから」
ビストの姿がパティに変わると同時に、舞台の端で気を失っているビストが姿を現わす。
そして、試合は時間切れを迎える。
「試合終了ー‼︎ たった今、試合時間の30分が経過しました‼︎ しかし、舞台上はどういう状況なのでしょうか⁉︎ ビスト選手が兄妹であるミスト選手とエスト選手を攻撃してゼッケンを奪ったかと思いましたが、何とビスト選手の姿がパティ選手に変わり、舞台上に本物のビスト選手が現れましたー‼︎」
「なるほど……霧に紛れてビストと入れ替わったという事か」
「でもパティさん、いくら幻術を使ったとはいえ、よくあの2人を騙せましたね?」
「実は案外あの三つ子も、お互い誰だかよく分かってないんじゃないの?」
「ハハ、まさか〜」
「ええ〜、経緯はどうあれ、最終的にゼッケンを持っているのはパティ選手1人だけとなりましたので、これはもう集計の必要はありません! パティ選手、決勝進出決定です‼︎」
ダメージの浅かったエストが、体を起こして来る。
「てっきり時間切れまで隠れてるのかと思ってたけど、まさかビスト兄さんに成り済ましてゼッケンを奪いに来るなんてね」
「ポイントで勝ってるかどうかなんて怪しかったから、確実な勝利を手にしたかったのよ。でも時間も無かったから、あんた達の誰かに化けて、油断している隙に奪おうと思ったのよ」
「だけど過去にも、僕達が似てる事を逆に利用して、僕達兄妹に化けて騙そうとした人は何人か居たけど、僕達は今まで一度も騙された事は無かったのに、何で?」
「前に戦った時から疑問ではあったのよ。あんた達は見た目はおろか、声も口調も全く同じなのに、何であんた達兄妹はお互い見分けが付くのかって」
「そりゃあ、僕達の深い兄妹愛がなせる技……」
「ああ、そういうのはいいから」
「ぶうっ!」
「そこで試合中、雑魚を相手にしながらあんた達をずっと観察してた。そして、ある違いに気が付いた。それは……声!」
(ギクッ!)
「あんた達、もの凄く似せてるけど、微妙に声のトーンが違うのよね」
(ギクギクッ!)
「そこであたしは確認も兼ねて、ファントムミストで姿を隠している間に、ビストをスリーパーで締め落としてからアイスミラージュでビストに成り済ました。そして疑惑は確信に変わった」
「そりゃ確かに僕達は声でお互いの居場所を確認したけど、それだってパティちゃんを惑わせる為だったかもしれないじゃないか〜」
「いいえ。初めビストの呼びかけにエスト! あんたが応えた。そしてビストはその声がエストであると認識した。あんたはビストに自分の名前を言ってないのにね?」
(ギクギクギクッ!)
「そんな……僕達の声の違いなんて、僕達以外の人には絶対に分からないと思ってたのに。まして、ビスト兄さんそっくりの声まで出せるなんて……」
「子供の頃から耳だけは良かったし、声を真似るぐらいは風の操作で簡単に出来るしね」
「ふう……僕達の完敗だね。さすがはパティちゃん、漆黒の悪魔と呼ばれるに相応しい闘い方だったよ」
「悪魔ゆ〜な」
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