第31話 例え判定でも、勝ちは勝ち

「別に、一時的に手を組むだけなんだから、名前なんてどうでもいいでしょ⁉︎ 行くわよ、エビのスリミ!」

「ちょっとお〜! 何だか鍋の具材みたいじゃないか〜⁉︎」


 そんなやり取りをしながら、周りの選手に攻撃を仕掛けるパティと三兄妹。


「ウインドカッター‼︎」


 無数の風の刃が、選手達のゼッケンを斬り落として行く。


「ああ! ゼッケンが⁉︎」

「クソッ! こっちもやられちまった!」

「こいつ‼︎」


 パティの背後から襲いかかる男。

 しかしクルッと体を回転させて攻撃をかわし、脇腹に悶絶ボディブロー、ソフトバージョンを撃ち込むパティ。


「ぐふっ!」


 腹を押さえてうずくまる男。


「殺す訳にいかないし、かと言って場外まで飛ばしちゃうとゼッケンが取れなくなるから、このぐらいにしといてあげるわ! ルールに感謝しなさい!」



「随分と手加減しているようだな? パティ君は」

「今回は別に倒すのが目的では無いですからね〜」

「バカなっ⁉︎ 私なんかプライベートなのに、いつも全力で殴られているぞ⁉︎ 何度そのまま朝を迎えた事か!」

「それはアイバーン様がいつも、パティさんを怒らせるような事するからでしょ⁉︎」



 パティの闘いぶりを見て感心している三兄妹。


「さすがだね、パティちゃん! 僕達も負けてられないな! ミスト! エスト!」

「分かってるよ、ビスト兄さん!」

「僕から行くよ!」

「了解だ、エスト!」


 先陣を切ったエストが、大量のクナイを水で作り出して行く。


「ミスト兄さん!」

「ああ!」


 次にミストが、そのクナイを凍らせ始める。


「後は任せたよ! ビスト兄さん!」

「引き受けた!」


 エストとミストが作り出した氷のクナイを、風で操作して選手達を攻撃するビスト。


「無限飛びクナイ、氷柱つらら‼︎」


「ぐわあっ‼︎ 何だこの氷⁉︎」

「軌道がコロコロ変わりやがる⁉︎ 撃ち落とせねぇ!」

「どけ‼︎ 撃ち落とせないなら、俺の炎で溶かしてやる‼︎ ファイアーウォール‼︎」


 1人の男が炎の壁を張って氷柱の侵入を防ごうとするが、アッサリ壁を通り抜けて男を貫く。


「あぐうっ‼︎ な、何で溶けねぇんだ⁉︎」

「ダメダメ〜! そんな火力じゃ僕達のクナイは溶かせないよ!」



「あれでは防げない」

「アイバーン様⁉︎」

「水の状態ならまだしも、完全に凍っていてしかもあれ程加速した物を、あんな薄い炎の壁で溶かそうとするなら、少なくとも3倍の魔力は必要だ」

「なるほど……」



「ああっと! パティ選手が次々にゼッケンを奪い取って行きますが、そのパティ選手に引けを取らない動きをしている選手が2人……あ、いや……3人、4人か⁉︎ 見た目が全く同じの為、正確な人数が把握出来ません‼︎」


 三兄妹の動きに惑わされて、混乱している実況者。


「そりゃ知らない人が見たら、まるで分身してるように見えるよね。僕だって初めて会った時は、瞬間移動したのかと思ったもん」



「ええっと……どうやら三兄妹のようです! ゼッケン231番、ビスト選手! ゼッケン331番、ミスト選手! ゼッケン831番、エスト選手の三兄妹です! 見た目では分かりませんので、ゼッケン番号で判別してください‼︎」



「全く……この余計なゼッケンのおかげで、僕達の戦法が制限されるんだから、ホントいい迷惑だよ」

「まあいいじゃないか、ビスト兄さん!」

「エスト?」 


「例え僕達を見分けられたとしても、所詮こんな雑魚達じゃ、僕達に勝てっこないんだからさ」

「そうだよ! 見た感じ、僕達とまともにやり合えるのは、やっばりパティちゃんしか居ないみたいだしね」

「フフッ、それもそうだね。じゃあさっさと雑魚共を片付けて、パティちゃんにリベンジしようか!」

「うん、やろう!」

「今度こそ負けない!」



「試合開始から間も無く10分が経過しますが、やはり例の4人が他の選手を圧倒しています! どうやら最後はこの4人の闘いになりそうだ! しかしそうなると、当然三兄妹は協力するでしょうから、三兄妹対パティ選手の3対1という構図になりそうです。これはパティ選手、圧倒的に不利かー⁉︎」



「でもリーベンでは、パティさんがあの三兄妹を圧倒して倒したんですよね?」

「う〜ん、あの時パティは完全に暴走状態だったからな〜。あまり参考にならないかも」



 更に10分程経った頃、ついに生き残っているのはパティと三兄妹の4人だけとなった。


「現在舞台に残っているのは、パティ選手、ビスト選手、ミスト選手、エスト選手の4名のみとなりました! 残り試合時間はあと10分! はたして、決勝に勝ち残るのは、どの選手だー⁉︎」



「ようやく静かになったね、パティちゃん。後は僕達だけだから、協力関係は終わりでいいよね?」

「さあ、これで誰にも邪魔されず決着を付けられるよ」

「今度は僕達が勝たせてもらうから……って、何をやってるんだい? パティちゃん」


 奪い取ったゼッケンを全て付けている為、まるで服を重ね着したように体が分厚くなっているパティ。


「もう! 邪魔なんだから〜! もっとコンパクトにしなさいよね〜!」

「パティ、ちゃん⁉︎」

「ちょっと待ってなさい! この、紐が絡まって……」

「も、もういいかな?」

「まだよ‼︎ 待ってなさいって言ってるでしょ⁉︎」


 パティの威嚇に、律儀に待っている三兄妹。



「何故か睨み合ったまま動こうとしない4人ですが、いいのかー⁉︎ 残り時間はあと5分だぞー⁉︎」



「何だって⁉︎ ビスト兄さん! 早く仕掛けないと、このまま終わっちゃうよ⁉︎」

「仕方ない! 悪いけど、もう仕掛けるからね! パティちゃん!」

「チッ! 見た感じ、おそらくあたしの方がポイントが高そうだったから、このまま時間まで逃げ切ってやろうと思ってたのに……」

「ええ〜っ⁉︎ ズルいよパティちゃん‼︎」



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