第27話 何は無くとも

「ロロ‼︎」

「はわっ‼︎」


 ネムの声にビクッとなるロロ。


「遊んでないで、早く……」

「わ、分かったのです! 活動再開ロロなのです!」


 ネムに喝を入れられたロロが、再び魔獣を倒し始める。


「ロロ選手……あいえ、ロロちゃんが止まらない! たった1人で殆どの魔獣を倒してしまったー! これはもう勝負あったかー⁉︎」


「むう……こうアッサリ決まっては盛り上がりにかけるな……オイ!」

「あ、ハイ!」


 本部席に居た男が何やら指示を出し、それが舞台の周りに居る召喚士達に伝えられる。

 指示を受けた召喚士達が、更にサイクロプスやキマイラ等の魔獣を召喚する。


「今度はCランクの魔獣?」

「魔獣のランクが上がれば、使われている魔石のランクも上がるからね……おそらくは、ロロ君の独占を避ける為だろう」

「まあ、だとしても、ロロの敵じゃないでしょうけどね」


 パティの言葉通りに、追加された魔獣達も難なく倒して行くロロ。


「ランクがひとつ上がったぐらい、どうって事無いのです!」


「ロロちゃん強い! Cランクの魔獣すら物ともしません!」


 しかし、ロロが気を抜いた一瞬の隙を突いて、キマイラがネムに襲いかかる。


「ネム⁉︎ 危ないっ‼︎」

「しまったのです!」


 キマイラが爪を振り上げた時。


「鎮まれっ‼︎‼︎」


 ネムの覇気のこもった声に、ネムに襲いかかろうとしていたキマイラは勿論、舞台に放たれた全ての魔獣が萎縮して動きを止める。


「何とー‼︎ ネム選手の一喝により、全ての魔獣が動かなくなりましたー‼︎ 恐るべし! これが召喚士一族の力かー⁉︎」


「ロロ、今の内……」

「あ! ハ、ハイなのです!」


 完全に動きを止めた魔獣達を、楽々倒して行くロロ。


「ロロちゃんが、動かない魔獣を次々に倒して行きます! 魔獣が動かない今、他の選手も魔石を稼ぐチャンスの筈ですが、何故か誰も動こうとはしないー! これは一体どうした事かー⁉︎」


「そりゃあ、ネムの魔力がこもった声を食らったら、並みの選手じゃ萎縮するでしょうね」

「ハハ……確かに! 俺も少々チビってしまったよ」

「き、汚いですぅ! 寄らないでくださいぃ! 我が兄ながら情けないですぅ!」


 その状況を見た本部席の男が、更に動き出す。


「ふ、不甲斐ない連中だな⁉︎ こうなったらアレを出せ!」

「え⁉︎ しかし、もう勝負はついたも同然です。これ以上は……」

「こんなアッサリ終わったんじゃつまらんだろう! いいから出せ!」

「ハ、ハイ! すぐに伝えます!」


 本部席の指示を受けた男が、再び召喚士に何かを伝える。


「まだ何かやるつもりみたいよ?」

「もう完全にネムちゃんとロロさんの勝ちじゃないですか⁉︎ これ以上何を?」

「ふむ……余り度が過ぎるようだと、処罰も考えないといけないな……」


 伝令を伝えられた召喚士達が、何か戸惑ったような様子を見せるが、じきに一箇所に集まり、召喚を始める。


「召喚士達が集まった?」

「自分達の手に余るレベルの魔獣を召喚するみたいですねぇ」

「今、まともに闘えるのはロロしか居ないのに⁉︎」


「むう⁉︎ ネム!」


 ネムの側にやって来て、獲得した魔石をネムに預けるロロ。


「少々大物が出て来そうなので、魔石を預けておくのです!」

「うん、分かった……預かっとく……」


 そして、召喚士達がかき集めた魔力により、蛇にも龍にも見える巨大な魔獣が召喚される。


「アジ・ダハーカ⁉︎」


「ああーっとお‼︎ 今までの小型の魔獣と違い、大型の魔獣が現れましたー‼︎ これは、Aランクの魔獣、アジ・ダハーカだあああ‼︎」


「Aランク⁉︎ 凄え、さっきまでの魔獣とは全然迫力が違う!」

「あんなの、魔装無しで倒せるのか⁉︎」


「あっ、たった今本部席より連絡が入りました! このアジ・ダハーカが最後の魔獣だそうです!」


「さ、最後ったって……」

「じ、冗談じゃねぇ! 魔装無しでAランクの魔獣なんて倒せるかよ!」

「一撃でも食らったら死んじまうぜ!」

「お、俺は降りるぜ!」

「俺も降りる!」

「命かけてまでやってられるか!」


「ああーっとお! 選手達が次々にリタイアして行きます! しかし無理もありません! ただでさえ強力なAランクの魔獣を、魔装無しで倒せというのは、余りに過酷です! このまま全員リタイアとなるのかー⁉︎」


 他の選手が逃げ惑う中、冷静にアジ・ダハーカを見つめているネムとロロ。


「ロロ、勝てる?」

「当然なのです! ロロにお任せなのです! でも、闘ってる内に無くしちゃったら大変なので、これを預けて行くのです!」


 そう言って、頭に付けていたカチューシャをネムに渡すロロ。


「では、行って来るのです!」


 振り返り、アジ・ダハーカに向かって行くロロ。

 そんなロロの背中を見つめながら、ネムが呟く。


「ロロ……それ、死亡フラグ……」



「ああーっとお‼︎ 殆どの選手が逃げる中、ロロちゃんが果敢にもアジ・ダハーカに向かって行くー‼︎」


 ロロの接近に気付いたアジ・ダハーカが腕をなぎ払って来るが、それを走りながらサッとかがんでかわすロロ。

 次に、頭を大きく上げてから振り下ろして来るが、それを寸前でかわし、すかさず胴体にパンチを繰り出す。


「硬いのです! さすがは龍族なのです!」


 頭を振ってなぎ払いに来るが、ジャンプしてかわすロロ。


「ロロ‼︎ 右‼︎」


 ネムの声を聞いて、右側のガードを固めたロロだったが、左側から来た尻尾に叩かれて、吹っ飛ばされるロロ。


「逆なのですー‼︎」

「あ! ゴメン……ネムから見て右だった……」


「ロロっ⁉︎」


「ロロちゃんがアジ・ダハーカの一撃をモロに食らってしまったー‼︎ 並の人間ではひとたまりもありませんが、同じ召喚獣であるロロちゃんは耐えられるのかー⁉︎」


「くうっ! このまま負けてたまるかなのです!」


 飛ばされながら空中で体勢を立て直し、舞台に指を立ててブレーキをかけ、落ちる寸前でどうにか止まる事が出来たロロ。

 しかしすぐ反撃には行かずに、ネムに対して愚痴を言い始める。


「酷いのです! 主に騙されたのです!」

「ゴ、ゴメン……ちょっと間違えただけだよ……」


「まさか、あんな定番のボケをかまされるとは思って無かったのです!」

「だからゴメンってば……」


「信じていたのに、これでは信頼出来ないのです! 人間不信ロロなのです!」

「むう〜……ロロ、いい加減にしないと、今日からオヤツ抜きだから……」


「はぅあっ‼︎ ご、ごめんなさいなのです! ここぞとばかりに調子に乗ってしまったのです! オヤツ抜きだけは勘弁してほしいのです! 甘い物はロロの生き甲斐なのです〜‼︎」



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