第26話 人はそれを妬みという

 予選2日目が終わり、宿に帰って来たユーキ達。


「明日はネムとレノが出るんだよね?」

「うん、ネムはEグループだよ……」

「俺はFグループだな」

「頑張ってね! 2人共!」

「うん、頑張る!」

「本選トーナメントでは、俺とネム君の対戦になるだろう」

「そんな事言ってぇ、予選で負けるんじゃないんですかぁ⁉︎」

「セラ! 妹なら兄を応援しないか⁉︎」


「まあもし仮にぃ、万が一に何かの手違いであらゆる偶然と幸運が重なって奇跡的に予選を突破出来たとしてもぉ」

「オイ!」


「トーナメント1回戦で確実にネムちゃんに負けるでしょうからぁ、張り切るだけ無駄ですぅ」

「そ、それが兄に対する言葉かあ‼︎」

「冷静に分析しただけですぅ!」

「相変わらずの辛辣な言葉責め、実に良い!」


「全く……仲が良いんだか悪いんだか……」


「あのお、なのです」


 ロロが申し訳なさそうに手を挙げる。


「ん⁉︎ どうしたの? ロロ」

「一応ロロも明日参戦するので、少しは応援してほしいのです」

「ああ! そうだった、ゴメン! 勿論、ネムが勝ち残れるかどうかは、ロロの働きにかかってるんだから頑張ってね!」

「ハ、ハイなのです! マスターユーキに激励してもらえたら、ロロは何だって出来るのです! 絶対無敵ロロなのです!」


「ロロはネムと2人でひとつみたいな所があるから、つい忘れちゃうのよね〜」



 そして翌日、大会3日目。

 例の如く、数々の前座試合やイベントが終了した後、Eグループの予選試合が開始される。


「それじゃ、行ってくるね……」

「ネム! 気を付けてね!」

「うん……」

「ロロ! 予選ではネムは無防備になっちゃうから、守ってあげてね⁉︎」

「お任せなのです! ネムは必ずロロが守るのです! ボディガードロロなのです!」

「うん、お願いね!」

「本選トーナメントで会おうぜ! なのです!」

「いや、それ負けフラグだから!」



 ネムとロロを見送った後、客席にやって来たユーキ達。


「ネム、大丈夫かな〜?」

「予選では魔装出来ませんからぁ、どうしても狙われるでしょうねぇ」

「むしろ、昨日みたいなレース形式なら、ロロがネムを抱えてひとっ走りすれば、普通の人間では追い付けないでしょうけどね」



「さあ、お待たせしました‼︎ ただ今より、五国統一大武闘大会、予選Eグループの試合を行いたいと思います‼︎ このEグループの注目選手は、この武闘大会に参加を表明した五国の内のひとつ、シェーレ国の……ゼッケン76番、ネム王女だー‼︎」


「わあ、ホントにあの小さい娘が王女様なんだ?」

「キャアー‼︎ ネムちゃんかわいいー‼︎」

「ウチの子にならんかー⁉︎」

「ネムちゃ〜ん‼︎」


「は、恥ずかしい……」


 顔を真っ赤にしてうつむくネム。


「有名な召喚士一族の血を持つネム選手! 当然彼女も召喚士です! 今大会、召喚士は一体の魔獣のみ召喚する事を許されていますが、はたして、どんな凄い魔獣を召喚するのかー⁉︎」


「もうここに居るのです……」


 ボソッと呟くロロ。


 「それでは、Eグループの試合形式を決めたいと思います!」


レフェリーがボックスより引いた紙が、巨大モニターに映し出される。


「決まりました‼︎ Eグループの試合形式は……魔獣ハンターだー‼︎」


「魔獣ハンター⁉︎ 何だかゲームみたいなタイトルだな……」


「ゲームみたいと思ったあなた‼︎」


「ギクッ!」


「これはゲームではありません‼︎ 魔獣ハンターとはその名の通り、闘技場に放たれた多数の魔獣を倒して、魔石を集めて行くゲームです‼︎」


「ゲームって言ったー‼︎」


「あいや、失礼いたしました! ついゲームと言ってしまいました! 今回の敵はあくまで召喚獣ですので、他の選手への攻撃、妨害等は一切禁止とさせていただきます‼︎」


「他の選手への攻撃禁止? なら、ネムが狙われる事は無いね。良かった」

「このルールならぁ、ネムちゃんロロちゃんが圧倒的に有利ですぅ」


「全ての召喚獣を倒した時点で、最も多く魔石を獲得した選手が、決勝トーナメント進出となります! なお、舞台から落ちた場合はその時点で失格となりますが、舞台の下に居る選手には攻撃はしませんので、身の危険を感じた方は速やかに舞台から降りる事をおすすめします! それでは! 召喚獣……出て来いやー‼︎」


 実況者が呼び込むと、フェンリルやヘルハウンド等のDランクの魔獣が、召喚士により舞台の四方から放たれる。


「最低ランクの魔獣……あれなら、ロロの手にかかれば楽勝ね」


「魔獣ハンター! スタート‼︎」


「ロロ!」

「お任せなのです! ひとっ走り行ってくるのです!」


 パティの言葉通り、物凄い速さで次々に魔獣を倒して行くロロ。


「ああっとこれは凄い‼︎ メイド服を着た少女が魔装具も使わずに、素手でどんどん魔獣を倒して行くー‼︎ ええと、この少女は……おや? ゼッケンが付いていません。どういう事だ?」


 実況者が慌ただしく手元の資料を調べる。


「あ! 分かりました! みなさん驚くなかれ、このどこからどう見ても普通の少女! 名前はロロちゃん! 何と、この少女こそがネム選手の召喚獣だー‼︎」


 その説明に、会場中が驚きの声を上げる。


「ええーっ⁉︎」

「嘘だろ⁉︎ あの女の子が召喚獣⁉︎」

「どう見たって人間じゃないか⁉︎」

「人間型の召喚獣なんて見た事無いぞ⁉︎」

「あんなかわいい娘召喚出来るなら、俺も召喚士になろうかな〜?」

「ロロちゃんだって、かわいい〜!」

「ロロちゃ〜ん‼︎」


 そんな観客達の声を聞いて、顔が真っ赤になるロロ。


「はうう! そ、そんなに注目されるとやりづらいのです」


「キャア! 赤くなってる! かわいい〜!」

「凄い! 人間と同じような反応するんだ?」

「メイド服もかわいい〜!」

「いいな〜、私もロロちゃん欲しいな〜!」

「ロロちゃ〜ん! ウチのメイドさんになって〜!」


「はわわわ! ロ、ロロの主はネムとユーキさんだけなのです! 誘われても困るのです!」


 動揺して、完全に動きが止まるロロ。


「ロロ、完全に舞い上がってる……」

「楽勝だと思ってたけど、まさかの障害ね」



「む〜、何か面白くない……」


 自分以上のロロの人気ぶりに、ムッとするネムであった。


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