第24話 そんなキャラ付けはちょっと
メルクの他にも、アイバーンの氷から抜け出した選手が、アイバーンの後方から迫っていた。
「ふむ……やはり氷に対応出来る能力者は脱出出来たようだな。しかし、それで終わりではないぞ⁉︎ アイスウォール‼︎」
「うわっ! 何だ⁉︎ 氷の壁が⁉︎」
「くそ! 通れねぇ!」
アイバーンの後方に巨大な氷の壁が現れ、後続の選手の行く手を遮る。
「抜けて来るにせよ、時間はかかるだろう。その間にメルクを抑える! ……いや、無理に追いかけずとも、ここで待っていればいいか……そうだろう? メルク!」
アイバーンの言葉通り、旗を手にしたメルクが戻って来て、アイバーンの前で立ち止まる。
「1番に旗を取ったのは、ゼッケン769番! 王国騎士団の弓使い、メルク選手だー‼︎ しかしこのレース、本当の闘いはこれからです‼︎」
「そっか! 普通のビーチフラッグスなら旗を取った時点でメル君の勝ちだけど、今回は戻らなきゃいけないんだ!」
「ええ、だからアイ君は追いかける事をやめて、迎撃態勢を取った」
「通していただきます! アイバーン様!」
「簡単に通れると思うなよ? メルク!」
「勿論! 僕の全力を出します! サウザンドアロー‼︎」
千の矢が、四方八方からアイバーンに襲いかかる。
「ふむ……確かに見事な技だが、相性が悪かったな!」
「ああっとー‼︎ メルク選手、凄まじい数の矢を放ちますが、全てアイバーン選手に当たる前に凍り付いて落下して行くー‼︎」
「これでは私に武器を与えているようなものだぞ? アイスニードル‼︎」
メルクが放った水の矢を凍らせて、そのまま自らの武器としてメルクに撃ち返すアイバーン。
「それはこちらも同じです!」
「アイバーン選手から氷の柱が伸びますが、メルク選手に当たる前に水に戻ってしまいました! 水と氷! 似通った属性だけに、お互い決定打にならないー‼︎」
「アイ君は水を氷にしちゃうし、メル君は氷を水にしちゃうし……これ決着付くの?」
「普通の戦いならお互い手を焼くでしょうけど、今回は旗を持って先にゴールしちゃえばいいんだから、いくらでもやりようはあるわよ」
パティの言葉通り、再びアイバーンを惑わせようと叫ぶメルク。
「ああ‼︎ 風にあおられて、ユーキさんの下着が見えそうです‼︎」
メルクの言葉を聞いて、また一斉にユーキを見る観客達……とBL隊の面々。
「だからいちいち見るなー‼︎ メル君もいい加減にしないと怒るよー⁉︎」
しかし、そんな観客達をよそに、メルクから視線をそらそうとはしないアイバーン。
「さすがに同じ手は通用しないぞ⁉︎ メルク!」
「でしょうね……」
「⁉︎」
「ああーっとお‼︎ アイバーン選手、巨大な水の塊に取り込まれてしまったー‼︎
実況の声にハッとなり、闘技場を見る観客達……とBL隊の面々。
「え⁉︎」
「何だ⁉︎ 何が起きたんだ⁉︎」
「団長が居ない?」
「え⁉︎ 一体何がどうなったの? ねえ、セラ⁉︎」
「わ、私もユウちゃんに気を取られて、見てなかったですぅ」
「ネム⁉︎」
「ネムもユーキ姉様見てた……」
「ロロも同じくなのです」
「当然俺もだ!」
「いや、みんなちゃんと試合見ようねっ!」
全員メルクの言葉に釣られてユーキを見ていた為、誰も現在の状況を把握出来ていなかった。
そんな中、唯一試合を見ていたユーキが成り行きを説明する。
「メル君が変な事言った後に、アイ君の頭上にエターナルレインを放ったんだ。そしたらアイ君は矢を凍らせずに避けた」
「避けた? そうか……頭上からの攻撃だと、例え水の矢を凍らせても、そのまま落下して来てダメージを受けるから」
「うん……それで、そのままどんどん移動して行って今の位置に来た時に、突然地面から水柱が立ち昇ってアイ君を包み込んで……」
「そうか……アイ君をあの場所に誘導する為に矢を放ってた訳ね」
メルクの水に取り込まれたアイバーンの周りを、水が高速で回転していた。
「ふむ……私が2度同じ策にかからない事を見越して、あえてユーキ君の居る方向に罠を仕掛けた訳か……ふっ、やるな! メルク。だがこれでは私に武器を与えているようなものだと言っ……かはっ‼︎」
余裕を見せていたアイバーンが、急に息苦しそうに咳払いをする。
(な、何だ? 呼吸が思うように……しまっ!)
遂に膝をついてしまうアイバーン。
「アイ君、出て来ないね?」
「ただの水ならアイ君にとっても好都合な筈だけど、何も動かないって事は……あの水、何かあるわね⁉︎」
ユーキ達が疑問に思っていると、アイバーンがスタート直後に他の選手を足止めする為に作り出した氷の壁が、水球に近い所から徐々に水蒸気へと変わり、どんどん水球に取り込まれて行く。
「お、何だ⁉︎ 氷の壁が消えて行く?」
「よし! 今の内に追い上げて……かはっ!」
「何だ⁉︎ どうし……くはっ!」
「ああっとお‼︎ これはどうした事だー⁉︎ ようやく氷の壁が消えて移動出来るかと思われた矢先、次々に選手達が倒れて行くぞー⁉︎」
「メールシュトローム……その水の球は、高速回転しながら周りの水と酸素を強制的に取り込む魔法です。その効果範囲内に居る者は、まともに呼吸する事すらままならないでしょう。でも、直接取り込まれない限りは、命に危険を及ぼす程ではありませんので、ご安心を……」
(直接取り込まれない限りはね……)
「そんな中、1人悠然とゴールに向かっているのは、ゼッケン769番、メルク選手だー‼︎ それはつまり、この現象を引き起こした張本人である事の証明だー‼︎」
(アイバーン様……)
ふと気になって後ろを振り返るメルクだったが、依然アイバーンが水の球より脱出しそうな様子は無かった。
(メールシュトロームは強力過ぎる技の為、今まで人間相手に使った事はありませんでしたが、僕は全力で勝ちに行くと言いましたからね……)
「さあ、独走状態のメルク選手! 王国騎士団団長を抑えての決勝進出は、正に大金星だー‼︎」
ゴールを目前にして、険しかったメルクの表情が緩む。
「やった! アイバーン様に勝っ……がはっ‼︎」
あと数メートルでゴールという所で、何かが背後からメルクの体を刺し貫いた。
「メル君‼︎」
霞む目で自分の腹を貫いた物を見るメルク。
(こ、氷⁉︎ まさかアイバーン様? いや、いくらアイバーン様でも、水の全く無い空間から氷を創り出す事は不可能な筈……では他に……誰、が……)
氷の槍が消え、崩れるように前のめりに倒れるメルク。
「なんとー‼︎ ゴール目前だったメルク選手を、氷の槍が貫いたー‼︎ その相手は……やはりこの人だあ‼︎」
「すまんな、メルク……こうでもしないと君の技から抜け出せそうに無かったのでね」
必死に体を起こして見上げると、そこには左腕を真っ赤に染めたアイバーンが立っていた。
「王国騎士団最強の男! アイバーン・サン・クルセイド‼︎ やはり簡単には行かせてくれなかったー‼︎」
「ア、アイバーン、様……何故? ど、どうやってこ、氷を創り出して……はっ!」
アイバーンの左腕から流れ落ちる大量の血を見て、全てを理解したメルク。
「な、なるほど……その手がありましたか……アニメなんかではよく見かけますが……ま、まさか実際にやる人が居るとは……フフ、ぼ、僕の負けで……す……」
そのまま気を失うメルク。
「簡単に言わないでくれ……私だってフラフラだよ。しかし、私をここまで追い込むとは……強くなったな、メルク……」
優しい笑顔でそう言ったアイバーンが、メルクがグッと握っていた旗を取り、ゆっくりとゴールする。
「アイバーン選手ゴーーール‼︎ メルク選手の大金星と思われた瞬間、復活したアイバーン選手の、大逆転勝利です‼︎ しかし何と言っても今回、団長であるアイバーン選手を、多彩な水捌きであと一歩の所まで追い詰めたメルク選手も、実に素晴らしかった‼︎」
「メルクー‼︎ 凄かったぞー‼︎」
「惜しかったなメルクー‼︎ でもお前なら将来絶対団長になれるぜー‼︎」
「カッコよかったよー‼︎ メルくーん‼︎」
「今、勝利しましたアイバーン選手、並びにメルク選手に、会場中から惜しみない拍手が送られています‼︎」
「メル君、惜しかったね……でも、さすがは団長さんと言った所か……」
「氷を創り出す為にあれ程大量の血液を使ったんですぅ、アイちゃんだって命懸けですぅ」
「確かにメル君は頑張ったわ……けど……」
「けど……何さ? パティ」
「メル君すっかり、背中から刺されキャラが定着しちゃったわね!」
「いや、そんな片寄ったキャラ無いからああ‼︎」
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