第16話 あくまで飽くまで悪魔です

 アイバーンが悶絶している中、Bグループの予選が開始される。


「さあ始まりました、借り物競争! しかし運動会のようだと侮るなかれ! 形は借り物競争だが妨害、バトル、何でもありのサバイバル戦だー‼︎」


 先頭集団が、複数あるボックスの中からそれぞれ紙を取り出し、各々に目標を定め観客席に向かって行く。


「始まりましたね! 僕達の所にも来るでしょうか⁉︎」

「だが、我々の中で世間に顔が知れているのは、ユーキ君と漆黒の悪魔のパティ君ぐらい……がふっ‼︎」


 再びパティのボディブローがアイバーンの腹に突き刺さった頃、1人の選手がユーキ達の所に向かって来る。


「だ、誰か来ますよアイバーン様! 寝てる場合じゃないですよ⁉︎」

「いや……す、好きで寝ている訳では……」

「え⁉︎ あれってまさか、ブレン様⁉︎」

「なん……だと⁉︎」


「見つけた! アイバーン‼︎ さあ、俺様と来てくれ‼︎」

「何⁉︎ 貴様が指示されたものは何だ?」


 誇らしげにアイバーンに紙を見せるブレン。

 そこには、【親友】と書かれてあった。


「誰が貴様の親友だー‼︎」

「お前が俺様の事をどう思っていようと、俺様はお前の事を親友だと思っている‼︎」

「か、勝手な事を言うな! 私はその条件にはそぐわない! 貴様の親衛隊にでも頼めばいいだろう!」

「確かに彼等は部下でもあり友でもあるが、俺様が親友と呼べるのはお前だけだ! アイバーン‼︎」


「ぐっ……と、とにかく私はお断りだ! 大体貴様はBグループ! 勝ち残れば、本戦トーナメントでユーキ君と対戦する事になる。仮にも貴様は王国騎士団副団長! ユーキ君の脅威となり得る者を、むざむざ勝たせる訳にはいかん!」

「ユーキ君⁉︎ マナ王女の事か? 聞く所によると、この大会でマナ王女に勝てば、彼女と結婚出来るらしいな⁉︎ ならば俺様も全力で勝ちに行くぞー‼︎」

「何だと⁉︎ 貴様もユーキ君を⁉︎ それを聞いた以上、尚更貴様を勝たせる訳にはいかん‼︎」


「あの〜、お取り込み中悪いんだけど〜」


 ユーキが申し訳なさそうに手を上げる。


「ん⁉︎ どうしたね? ユーキ君」

「モメるのはいいんだけど、早く行かないとみんなゴールしちゃうよ?」

「何ぃっ⁉︎」


 ユーキの指摘通り、すでに何名かの選手がゴール手前まで迫っていた。


「させるかー‼︎ エルツィオーネ‼︎」


 ブレンから無数の火炎弾が吹き上がり、ゴール手前の選手達に襲いかかる。


「ぐわあっ‼︎」

「な、何だ⁉︎ 火炎弾⁉︎ 一体どこから?」

「あ、あそこの客席からだー‼︎」

「あんなとこから⁉︎ うわあっ‼︎」


「ああっとー‼︎ 客席から突如火柱が立ち上り、ゴール目前だった選手達を押し潰して行くー‼︎ この火柱を起こしているのはー⁉︎ やはりこの人! ゼッケン200番、ブレンだあああ‼︎ この試合、他の選手への攻撃、妨害等、何でもオッケーなので、当然問題ありません‼︎」


 しかし、ブレンの近くに居たユーキ達や他の観客が、ブレンの起こした炎の熱さに苦しんでいた。


「あ、熱っ!」

「相変わらず、凄まじい火力ですね」

「あ、熱……あ、あ、熱いと言っているだろうが! この瞬間湯沸かし器がああ‼︎」


 アイバーンに蹴り飛ばされたブレンが、観客席の1番下まで転がり落ちて行く。


「ぬあああああっ‼︎」


「ふうっ、やっと涼しくなったわね! それにしても、瞬間湯沸かし器なんて上手く言うじゃない? アイ君」

「だってアイちゃんはぁ、異名を付けるのが得意なんですよねぇ」

「いや、別に得意という訳では……」

「ええ〜⁉︎ でも、パティちゃんの黒い悪魔っていう異名を広めたのもぉ、アイちゃんなんですよねぇ?」


 ピクッとなるパティ。


「セ、セラさん⁉︎ それは誰にも言わない約束……」

「ア〜イ〜く〜ん⁉︎」

「ハイィッ‼︎」

「今の話、本当かしら〜?」

「い、い、いや! た、確かに初めに言い出したのは私だが、そ、それはパティ君に変な男が寄って来ないようにとだね……」


「今まで散々周りから、黒い悪魔だのユリ熊だの言われて……」

「いや、ユリ熊は言われてないだろう⁉︎」

「あたしがどんっっっっっなに心を痛めて来たか⁉︎」


 パティから、いつもの3割り増しで黒いオーラが溢れ出す。


「お、落ち着きたまえパティ君! こんな大勢の前で!」

「この心の痛み! その身をもって味わえー‼︎」

 

 パティの黒いオーラが、黒い炎となって吹き上がる。


「いいっ⁉︎ ブレン‼︎ さあ、共にゴールを目指すぞ‼︎」

「おお! やっと分かってくれたか⁉︎ アイバーンよ‼︎」


 ブレンと共に闘技場内に逃げ出すアイバーン。


「逃げんなー‼︎」

「アイバーンよ! 何やら後ろの方で叫んでいる者が居るが⁉︎」

「振り返るなブレン! 振り返れば殺される!」


 しかし、気になって振り返ったブレンの目の前に、無数の黒い炎の塊が迫っていた。


「何ぃ⁉︎」


 一方客席では、メルクが必死にパティにしがみ付いて止めようとしていた。


「落ち着いてくださいパティさん‼︎ 誘われてない者が選手に攻撃するのはダメです‼︎ 最悪出場資格を取り消されちゃいますよー‼︎」


「アイバーンよ‼︎ 彼女も炎使いなのか⁉︎」

「いや、パティ君はどの系統の魔法でも使いこなすが、本来は風使いだ!」

「何っ⁉︎ 風使いなのにこれ程の火力を出せるのか⁉︎ 一度手合わせ願いたいものだ!」


「やめておいた方がいい! 彼女は我らと同じレベル6だが、パティ君には何か得体の知れない恐ろしさがあるのだ! 漆黒の悪魔という異名は伊達ではない‼︎」

「む⁉︎ 王国騎士団最強のお前をも恐れさせるとは……彼女は一体何者なんだ⁉︎ 漆黒の悪魔、か……」


「悪魔ゆ〜なあああ‼︎」


 パティの絶叫が闘技場に響き渡る。


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